極夜の世界に戻ると、そこは出発した城の中だった。
そして、その光景を見て、マオが気を失った。
「おい!」
隣にいたシルヴィアがすぐに支えて転倒は免れた。
「流石に、いろんなことが一気にあって許容範囲超えちゃったのかな?」
「そうさね、とりあえず、ゲストルームに移動しようかね」
冷静に状況分析をするクロウディアとエリザ。
エリザがまた、パチンと指を鳴らすと玉座の間からベッドがあるゲストルームへと移動した。
「とりあえず、寝かしておやり」
「うん」
シルヴィアは、マオをベッドへと寝かせる。そして、3人はベッドが確認できる場所にあるソファへ腰をかけた。
「ねぇ、エリザさん。本当にマオにこの世界のことを教えてよかったの?」
「大丈夫さ、もしなにかあればアタシが記憶を消す」
「それは、仲良くなったことすら、あいつが忘れるってことか!?」
「そうさね、幸せな夢を見たな、ぐらいには覚えていられるだろうけどもね」
「そんな、寂しいよ」
「元々、マオとは住む世界が違う。今後も会えるとしたら、1年に1回さ」
「……それはそうだけど」
どこか納得いかない様子のシルヴィアの頭をクロウディアが優しく撫でる。
「まだ、記憶を消すとは決まってないよ。マオは良い子だから、大丈夫なことを信じよう?」
「そう……だな。よし、もうこの世界に来てるんだ! マオが起きたら、案内して楽しんでもらおう!」
「うん、それでこそ、シルだ」
元気になったシルヴィアを見て、クロウディアは笑う。しかし、すぐに顔は曇った。
「でも、本来なら化け物と言われてもいい僕たちは仮装として人間に受け入れられて、化け物じゃないはずのマオが顔の痣だけで化け物扱いされる。人間と化け物って一体何が違うんだろう?」
「……そうだな。マオは化け物じゃない。これは絶対なのにな」
「難しい問題さね。アタシ達はいろんな種族が共生している。だから違うことはそこまで問題じゃない。でも、人間界は人間がヒエラルキーのトップに君臨している。だから、違うものには敏感なのかもしれないねぇ」
エリザがどこか憂いを帯びた瞳でマオの眠るベッドを見る。
「うっ……ん?」
その時、双子の耳にマオの声が響いた。2人はソファから飛び降りると一目散にベッドへと向かう。
ちょうど、目を覚ましたマオが見慣れない景色を瞬きしながら見つめていた。
「起きたか、マオ!」
「おはよう」
「えっ、あっ……シルにディア」
マオが双子を愛称で呼ぶと2人は顔を見合わせて笑った。
「そうだよ、いきなり気絶したからびっくりした」
「まぁ、刺激は強いよね。それより体は大丈夫?」
「うん、大丈夫。2人とも心配してくれてありがとう」
「そんなの、友達だから当然だよ」
双子の笑顔に、またマオの瞳から涙がこぼれる。
「大丈夫かい? レモン水を用意したが飲める?」
「あっ、ありがとうございます」
エリザが泣いているマオにレモン水の入ったグラスを差し出す。マオは受け取ると一口飲む。
「おいしい!」
そして、涙が引っ込んだ。
「そうか、それはよかったよ。驚かせて悪かったねぇ。体調が戻ったら、世界ツアーと行きたいんだけど」
「世界ツアー?」
「そう、ここは俺達が住む世界で、マオが住む世界とは違う世界なんだ!」
「えっ、夢じゃ?」
「夢じゃないよ、マオ。立てるなら窓から外を見てみて」
クロウディアの言葉に頷き、マオはゆっくりとベッドから降りると、窓へと近付いた。そして、窓から外を眺める。
「――っ!?」
そして、息をのむ音がした。
外には、赤い満月がいつも通り登っており、森に囲まれている城の周りには幽霊が飛び交っている。
「街に行ったら、もっと面白いよ。ドクロのじーちゃんに、包帯人間いろんな人達がいるからさ、マオの痣なんてみんな気にしないよ!」
「……そうかな?」
「そうだと思う。……知らない世界で怖いとは思う、でもよければ僕たちと街を探索しない?」
シルヴィアとクロウディアはマオに向かって、手を差し伸べた。
マオは少し迷う素振りを見せてから、2人の手を取った。そして3人で笑い合う。
「よし、そうと決まれば、行こう!」
「そうだね、エリザさん、時間ってどれくらいなら大丈夫?」
「少しは向こうの時間をずらせるからねぇ、2時間くらいなら誤差の範囲さ」
「分かった! ありがとう!」
3人は手を繋ぎ直して部屋を出ようとしたが、すぐにエリザに呼び止められる。
「待ちな。無闇に出て行って、城で迷子になるオチだよ。街まで運んであげる」
そう言うと、エリザは3人に近付く。どこからか使い魔の黒猫が現れた。そして、エリザはいつも通り指をパチリと鳴らす。
次の瞬間、4人は街の外れにいた。
「さて、アタシは家でのんびりしてるから、子供だけで楽しんでおいで。時間を忘れないように、うちの使い魔をお供にね」
エリザはウインクをすると、また指を鳴らして姿を消した。
「エリザさん、かっこいいね」
「そうだね、僕たちも知り合って1年だけど面倒見がいい人だよ。なんで古城に一人で籠もってるのか不思議なくらい」
「確かにな! でも、今はエリザのことは忘れて遊ぼうぜ! とりあえずドクロのじーちゃんのところに行こう!」
「さっきから、ドクロのじーちゃんを推してるよね、シル」
「あはは。ドクロじーさんは、すぐに色々くれるからシルは大好きなんだ」
そんなくだらない話をしながらも、マオを真ん中に3人は手を繋いで歩く。
いつも2人で遊んでいる双子が他の人を連れていることに驚かれ、いつも以上に周りに声をかけられた。
「シルヴィア、弟以外といるなんて珍しいな」
「うそぉ、2人だけの世界だと思っていたのに、間に入れる人いたんだ。すごーい」
「おい、クロウディア。まさか、その可憐な子を下僕にしようとなんてしていないよな?」
「双子が他の人と一緒にいるとは、良い傾向だな」
好き勝手言う周りを双子は無視して進む。マオは気になるようで周りをキョロキョロと見回している。
気になるのは、かけられる言葉か、住人達か、双子には判断できなかった。
ドクロのじーちゃんの家までにミイラ男、魔女、スケルトン、幽霊と様々な住人達が双子やマオに話しかけてきた。
最初は怯えていたマオだったが、人間と違って悪意がないと分かるとすぐに怯えなくなった。
その様子に、双子はマオにバレないように目を合わせて笑い合う。
「あっ、ドクロのじーちゃん!」
ドクロのじーちゃんの家が近くなると、シルヴィアはマオと繋いでいた手を離して、家の前で座り込んでいる骸骨に向かって走って行った。
「えっ、ドクロのじーちゃんって」
「うん、スケルトン。それで名前もドクロなんだ。面白いよね」
「……たしかに」
クスクスとおかしそうにマオが笑う。
「やっと、笑ったね」
「えっ?」
「マオはずっと無表情か、自分を責める顔をしていた。笑わないと。……母さんの受け売りなんだけど、笑っていると幸せが舞い込んでくるんだって」
「幸せが……。ボクは笑わなかったから、舞い込んでこなかったのかな?」
「過去のことは分からない。でも、未来は選択で変えられるって父さんが言っていた。僕たちが友達になれたのも未来を変える選択の1つだよ」
「そうだね……。ありがとう」
マオは照れくさそうに笑う。クロウディアもつられるように少し耳が赤くなった。
「僕が言っといてなんだけど、この話し終わり! お互い恥ずかしくなるじゃん。シルのところに行こう。呼んでるから」
マオが視線をクロウディアからシルヴィアに移すと、「おーい!」と手招きしているシルヴィアが目に入る。
照れくささからお互いに手を離して、シルヴィアの元へと向かった。
「遅い!」
「勝手に走ったのは、シルでしょ」
「そうだけどさー。……あっ、じーちゃん、こいつがマオ! 今日友達になったんだ!」
ニコニコと笑いながらシルヴィアはマオの肩を組む。
「あの、初めまして。マオです。……ドクロのおじいさま?」
「じーちゃんでいいぞ。わしはみんなのじーちゃんだからな! それにしても、変わった痣だな」
「――っ!」
痣をのぞき込まれて、思わずマオは1歩後ずさった。
「すまない、コンプレックスだったか。でも、似合っておるぞ」
「似合って……る?」
「そうじゃ、かっこいい。ここじゃ、個性の強い方が記憶に残るからのう。おぬしほど目立った個性はなかなかいない。誇っても良いぞ!」
「痣を……誇る?」
マオは信じられないと大きな瞳をさらに見開いた。いじめられる原因だった痣がこの世界では誇っても良いものだと言われた。それは、コンプレックスをはじめて認めても良いかもしれないとマオに思わせた。
気付いたら、マオは声も出さずに涙をこぼしていた。普段は涙は堪えていた。でも、双子と会ってから慣れていたはずなのに涙が堪えられない。
「泣きなよ、涙は嫌なことを流してくれるって聞いたことがある」
クロウディアがマオの頭にぽんっと手を当てる。マオは思わずクロウディアに抱きついた。そして、彼の胸を借りて大号泣する。
クロウディアは何も言わずに、ただ、優しくマオの背中を撫でてくれていた。
◇
「ずびっ……ずびまぜん……」
マオが泣き止むまで、少しの時間を要した。ドクロじーちゃんに家の中に入るように勧められ、3人はお邪魔することにした。
最低限の生活雑貨しかない部屋で、マオは渡されたティッシュで鼻をかむ。
「いい、いい。思いっきり泣くのが子供の仕事じゃ。おぬしはかなり泣くのを堪えていたと思う。体の健康のためにも良いことをしたんじゃぞ」
「ありがとうございます……ずびっ」
お礼を言いながら、マオはまた鼻をかんだ。目はかなり腫れている。ドクロじーさんが冷やしたタオルを渡してくれたが、鼻が詰まって横になっていられない。鼻が少し落ち着いてきてから、マオは勧められたベッドに横になり、冷えたタオルで目を冷やした。
「ひんやりとして、気持ちいい」
「そうか、それはよかった。わしには目ん玉がないからな!」
「でも、見えてるから人体って不思議だよなー」
ドクロのじーちゃんは持ちネタを話し、シルヴィアが真面目に突っ込む。その様子を少し離れたところからクロウディアは眺めていた。
「どうしたんだ、ディア?」
「いや、マオは元の世界に戻るよりも、この世界で暮らした方が幸せなんじゃないかと思ってさ」
「あー……確かに。ここにはマオを化け物といじめる奴らはいないし、俺らが守ってあげれるもんな!」
クロウディアのつぶやきに、シルヴィアは同意する。しかし、予想外の人物から釘を刺された。
「それは駄目じゃ。少なくともあやつが成人を迎えるまではな。1日ぐらいなら問題ないが、人間にこの極夜の世界の魔素は毒にしかならない。成人すればある程度の耐性が付くが、あやつなら持って数日だ」
「じーさん、マオが人間だって……」
「そりゃ、魔女ほどではないが、わしもそこそこの長寿じゃ。それなりに知っている。昔は人の子もよくこの世界に迷い込んできていたしのう」
「そうなのか?」
「昔はもっと、科学だなんぞが発達してなくて、こことあちらの境界が曖昧じゃったからな。どちらの世界も迷い込むのが珍しいもんじゃなかったのさ」
ドクロのじーちゃんは懐かしそうに呟く。
「まぁ、未来を選ぶのはあやつだ。仲良くしたいなら、あやつが成人になるまで毎年会いにいってやるんじゃな」
「……そうか、そうする。ありがとな、じーちゃん」
シルヴィアがお礼を言うと同時に、マオがベッドから起き上がる。少しだけども目を冷やしたからか、腫れは少し減っていた。
「本当に? 本当に、またボクと会ってくれるの?」
「当たり前だろ!俺達は友達だ! なぁ、ディア」
「そうだね。逆に、疑われた方が心外なんだけど……」
マオはベッドから降りると双子に駆け寄り飛びついた。
「ありがとう。……ボクは生きていて良いんだね。2人にまた会うためにボク、頑張って戦うよ」
「おっ、おう?」
「うん、頑張ってよ。会いにいったのに負けましたは許さないから」
顔を合わせて3人で笑いあった。
「若いって、いいなぁ」
ドクロのじーちゃんが羨ましそうにぽつりと呟く。
「なんだ、じーちゃん。いつも、わしはまだまだ若いって言ってるじゃん」
「それとこれは、話が別なんじゃよ。それよりも、時間は大丈夫か?」
「うん、まだ1時間以上あるよ」
「そうか、よかったら、今日は夜市がやってるから行ってきたらどうじゃ? こちらのものをあちらの世界に持って行くことは禁止されていないはずだからのう」
「ほんと!?」
ドクロのじーちゃんの提案に、3人は声をそろえた。そして、すぐにシルヴィアが2人の背中を押す。
「そうと決まれば、行くぞ! マオにプレゼントしてやる」
「いいの!? ありがとう」
「友情の証だね」
3人は笑いながら手を取り合う。
「じーちゃんありがと! またな!」
そして、ドクロのじーちゃんの家を後にした。
◇
夜市の会場はドクロのじーちゃんの家を出て少し歩いたところにあった。青空市のようにおのおの屋台が出ており、食べ物や雑貨を売っている出店が並んでいる。
「すごい、いろんな人達がいるね」
「そうだね、ここは種族の壁がないからさ。だから、僕らは人間の感覚がわからない。違うものこそが個性。個性が強いほどいい。それがこの世界の常識。でも、マオの世界は違うんだよね?」
「うん、違うものは迫害される。それが当たり前だと思っていた」
「それも変な話だよなー。それに、マオのこと化け物とか言っていたけど、多数で1人をいじめる方が化け物じゃないのか?」
「ふふふ、流石にそれは暴論だと思うよ、シル」
「そうか? まぁ、マオがそう言うなら……」
化け物と人間、みんなと違う、個性。人間って面倒だなとシルヴィアとクロウディアは思った。しばらく3人は出店を覗いたり、冷やかしたりして回る。
「誰かとこんなに一緒に過ごしたの、両親以外だとはじめてだ」
「そういや、両親って……」
「事故でね……」
「そっか……」
「でも大丈夫だよ! ボクには心強い友達が2人も出来たんだからさ」
「そう言ってもらえると光栄だね」
一瞬、しんみりとした空気が流れるも、マオの明るい声で霧散する。
それからも、いくつかの出店を巡った。
「あっ」
突然、マオが声を上げる、双子はどうしたんだとマオを見る。マオは射的の店に飾られている黒猫の人形を目を輝かせながら見ていた。
「あれが欲しいの?」
「うん。目がボタンで可愛くない?しかも左右で色が違う!」
「うーん? よくわかんないけど、分かった。こういうのは俺が得意だから任せとけ!」
シルヴィアは張り切って、店主にお金を払うと、猫のぬいぐるみを狙う。一発で猫のぬいぐるみに弾は命中して、落ちた。
「おっ、上手いな」
店主は落ちた猫のぬいぐるみをシルヴィアに渡す。シルヴィアは笑いながら、マオに渡した。
「シル、ありがとう」
「良いってことよ! 俺、射的得意なんだ」
「お兄ちゃーん、僕はそのぬいぐるみの横にあるオオカミのぬいぐるみが欲しいなぁ」
「ディア! 調子の良いときだけ兄扱いして! しかし、いいだろう。兄ちゃんが取ってやる!」
シルヴィアに残された弾はあと2つ。
クロウディアに頼まれたぬいぐるみに狙いを定める。
「頑張れ、シル!」
後ろからマオの応援の声が聞こえる。ニヤリと笑うと、シルヴィアは引き金に手をかけた。
「おお、すごいな、兄ちゃん」
狙っていた白いオオカミのぬいぐるみの横にあった黒いオオカミのぬいぐるみをも巻き込んで床へと落ちた。
「すごい、すごい!」
「へへっ、俺にかかればこれぐらい造作もないね! もっとでっかい獲物を仕留めてやる!」
調子に乗ったシルヴィアは、特大のクマのぬいぐるみに狙いを定めて引き金を引いたが、あえなく、不発となった。
「くくく、流石、シル。期待を裏切らないね」
「うるさいぞ、ディア」
結局、シルヴィアの戦利品は黒猫、銀狼、黒狼の3匹のぬいぐるみだけだった。
「おそろいで嬉しいな」
「そうだね」
「俺としては、全部景品欲しかったから悔しいぞ」
それぞれ、マオが黒猫、シルヴィアが銀狼、クロウディアが黒狼のぬいぐるみを持って、また店を回る。
「にゃぁ」
楽しい時間はあっという間だ。エリザの使い魔が時の終わりを鳴きながら宣言する。
時計を確認した3人はマオを真ん中に歩きながらも無言だ。
この楽しい時間がもうじき終わる。そのさみしさを口に出さないように必死だったのだ。
そして、3人は黒猫に導かれるように、エリザの古城へと辿り着く。
「楽しめたかい?」
玉座の間に通された3人を玉座に腰をかけて、赤い液体の入ったワイングラスを傾けているエリザが楽しそうに迎え入れる。
「楽しかった! エリザさん。ボクをこの世界に連れてきてくれてありがとう!」
「いやさ、アタシの自己満足もあったんだがねぇ。随分と良い表情をするようになったじゃないか」
エリザはマオの変化を嬉しそうに受け入れる。
「さて、楽しい時間はあっという間さ。帰る準備と覚悟は……その人形は何さ?」
そこでエリザはマオが大事そうに抱えている黒猫の人形に気付いた。
「夜市でシルが取ってくれたの。ドクロのじーちゃんが持って帰っても良いって!」
「なるほどね、わかった。……さて、マオ確認だ。ここで見たことやこの世界のことを誰にも言わないと誓えるかい? 誓えないのならアタシはあんたの記憶を消さないといけない」
「言わない! ここでの出来事はボクの宝物だから! この痣が認められた。人と違うのは個性だって教えてもらった大切な記憶は無くしたくない!」
「そうか、では、契約を」
エリザはマオに手を伸ばす。マオは頷いてエリザの前まで一人で歩く。
「そこで大丈夫さ」
玉座の階段の前まで辿り着くとエリザが止まるように指示をする。
そしてマオが止まった瞬間に、マオの下に魔法陣が出現する。
「マオ!」
双子が叫んで駆け出そうとするが、その前にエリザにより止められた。
「契約をするだけじゃ、別れの時間まで取るつもりはない。少し待ってるさね」
双子はその場で止まり、ただ魔法陣に囲まれたマオを見ていることしか出来ない。
「さて、マオ。汝はこの世のことを他言しない。破れば汝の記憶は消える。契約を受け入れるか?」
「はい。ボクは何があっても他言しない。だから記憶も消えない」
「そうか、では汝、マオとアタシ、エリザの名の下に契約を締結する」
マオの周りの魔法陣がさらに光り輝く。そして、魔法陣の一部がマオの瞳の中へと吸い込まれた。
「これにて契約は終了さ。マオ、アタシはあんたの瞳から見ているからね」
「えっ、ということは、エリザさんもボクを見守っていてくれるってことですか!?」
「あははっ。こりゃ、化けたな。アタシもこの世界に連れてきたかいがあったものさ」
エリザはおかしそうに笑う。そして、双子を見た。
「さて、別れの時間は近い。きちんとお別れをしな」
マオと双子はお互いに駆け寄って自然と抱きしめ合う。
「またな、ちゃんと、1年後に会いに行くから元気にしてろよ」
「うん!」
「少しは、喧嘩でも覚えて反撃してあげなよ」
「頑張る!」
次に会えるのは1年後だ。3人とも別れが惜しい。
「ボク頑張るから、次会ったときに2人を驚かせてあげる!」
マオは笑ったまま泣いた。双子もつられて涙をこぼすも、笑顔は変わらない。
「マオのくせに生意気だぞ! 俺の方がもっと驚かせてやる」
「そうだね、だれがこの1年で成長できるか競争しよう」
「うん!」
時間が迫っていることはお互いになんとなく分かった。もう一度強く3人で抱き合うと、離れる。
「ありがとね、ボクは2人に会えて幸せだったよ」
「俺達もだ。2人でいればあとは何だって良いと思っていたけど、違うってことが分かった。ありがとな」
「うん、僕らの小さな世界に風穴を開けてくれてありがとう」
3人で笑い合う。
カツン、カツン。
エリザが玉座を降りてくる足音が砂時計の砂が落ちる音と重なる。残された時間はもうほとんどない。
「これでお別れさ、今生の別れではない。1年後にまた望めば会える。しばしの別れさ。もう、いいかね?」
「はい、エリザさんありがとうございました」
「アタシは何もやっていないさ」
エリザは笑いながらいつの間にか取り出した杖を振るう。幾何学模様の魔法陣が床を覆い尽くす。
「では、また来年のハロウィンまでのお別れさ。マオ。あんたの部屋に送り届ける」
「うん。ありがとう、エリザさん。大好きです」
「ふふふ、嬉しいことを言ってくれるさね。アタシもあんたが気に入ったよ、マオ」
すでに魔法陣の外にいる双子には2人の声は聞こえない。ただ、固唾をのんで見守っている。
そして、ひときわ大きく、エリザが杖を振ると、その場からマオの姿だけが消えていた。
「帰ったのか……」
「そうさね」
「エリザさん、来年も連れて行ってくれるんだよね? ハロウィンはもういいけど、友達には会いたいんだ」
「もちろんさ」
双子は来年の再会を誓い、エリザの古城を後にした。
◇
マオが次に目を開けるとそこは自分の部屋だった。今までの出来事は、夢だったのではないかと思ったが、エリザが着替えさせてくれたハロウィンの仮装と黒猫のぬいぐるみがそこにはあった。
また、辛い世界に戻ってきた。それでも、昨日までの自分とは違う。
友達が出来た。考え方を変えることで少しだけ痣を好きになれそうな予感がした。
「あぁ、楽しかったから、ボクが女だってこと2人に言うのを忘れちゃったな」
マオは小さく呟くと服を着替えてベッドに入る。仮装で着た服は大事に畳み、明日洗濯をして宝物箱の中にしまおう。
枕元に黒猫のぬいぐるみを置いて、瞳を閉じる。
今日は、いい夢が見える。そんな気がした。
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