魔王城・チュパ姉さんの部屋➖➖
「ほんと……足の踏み場がないなぁ……」
カヅチは部屋の入口に立ち、ゴミの山を見つめていた。
服。空き瓶。食べ終わった皿。謎の箱。謎の袋。そして……謎の何か。
「よし……まずは入口から攻めて道を作っていくか!チュパ姉さん、とりあえずゴミまとめてもらえます?」
カヅチは頭にタオルを巻き、箒を構える。
「………何が?」
「えっ?チュパ姉?ゴミだよ?ゴミまとめて。みんな捨てちゃうよ!」
「うん。言ってることはわかるよ……でも、それが出来たら……私はもう片付けられてると思うんだな…」
カヅチはチュパ姉を見つめ数秒黙る。
「うん。……了解です。じゃあ俺がやります」
「頼んだ……」
「はいはい。」
カヅチはゴミの山へ突撃する。
「これはゴミ!」ポイッ。
「これは服!」洗濯カゴへ。
「これはゴミ!」ポイッ。
「これは……下着?布?」
「下着!しかもお気に入り!絶対捨てないで!」
「はいはい。洗濯カゴ行きっと」
さらにゴミを掘り進める。
「んっ?これは……何?」
カヅチがピンク色の謎の正体の分からない物体を指先でつまみ、カヅチは角度を変えながら観察した。
用途も材質も分からない。ただ、チュパ姉さんの反応を見る限り、知らないままでいたほうが幸せな物品らしい。
「「…………」」二人で見つめ合う。
チュパ姉さんが目を逸らした。
「あ、……それは……仕事道具だから……気になるなら、使ってあげようか♡?」
「……ゴミだな!」
「バカぁぁぁ!!それがなくなったら私、仕事出来なくなるだろ!!」
「じゃあ最初からちゃんと片付けてくださいよ!てか、これ使ったらちゃんと洗ってしまっとけよ!」
「それが出来ないから頼んでるんだろぉぉ!!」
「開き直るな!」
「開き直りじゃない!諦めてんの!」
そんなやり取りをしながら、カヅチはひたすら片付けていく。ゴミを分別し、服をまとめ、食器を運び、床を露出させていく。
「……よし。ようやく床が見えてきたぞ」
さらに掃除。「【水拭き】!」シュババババッ!!
汚れていた床が一気に輝きを取り戻す。
「【油汚れ】!」シュッ!!ベタついていた机がピカピカになる。
「この辺は【高圧洗浄】っと!」
ブシャァァァァァ!!
「うわぁぁぁ!ちょっ!壁に穴空いてるるぅぅぅ!!」
「大丈夫!そこは【修復】します!」
「直せばいいって問題じゃない!」
「はいはい!どいてどいて!!」
◇◇◇
そして……数時間後。
カヅチは部屋の中央に立っていた。
そこには……まるで新築のように綺麗になった部屋が広がっていた。
床に散らばっていたゴミは一つ残らず片付き、机や壁の汚れも消えている。
さっきまで足の踏み場すらなかった部屋とは思えない。窓から差し込む光まで、どこか清々しく感じられた。
「ふぅ~~~……!チュパ姉。何とか片付きましたね……」
カヅチが額の汗を拭う。
「…………すごい。私の部屋じゃないみたい…」
チュパ姉さんは目を輝かせて部屋を見渡している。
「でしょう?」
「今日からゴミの布団で寝なくていい……!」
「ゴミの布団って!?」
「ありがとうカヅチぃぃぃ!!」
チュパ姉さんがカヅチへ抱きつこうとする。
「うわっ!ちょっと!まだ仕事残ってますから!」
その時……ピーピーピーッ!
「おっ、最後の洗濯終わった」
カヅチは洗濯機から衣類を取り出す。
「よし、これ干したら終わりですね」
次々と洗濯物を干していく。そして最後の一枚。
「……これで最後っと…。しかし派手なパンツだなぁ…」パンツを洗濯バサミで挟む。
「オッケー!完璧!じゃあ、俺は帰りますね」
カヅチは箒を肩に担ぐ。
「んっ?」
カヅチを見てチュパ姉さんがニヤリと笑う。
「カヅチ」
「はい?」
「お礼」
「え?」
次の瞬間。スッ。カヅチの頭に、何かが被せられた。カヅチはゆっくり頭に手を伸ばす。
「何これ?……パンツ?」
「うん。お礼の脱ぎ立てパンツ♡」
「いらんわ!!」
「あははっ!せっかくだから被って帰りなさい♡」
「せっかくだから?どんなお礼だよ!!」
カヅチはパンツを頭から外す。
「チュパ姉……これ、すっごい匂いするよ……」
「え?失礼な…人間にはたまんない匂いでしょ?あんた何ともないの?」
チュパ姉さんがカヅチを見て目を丸くする。
「はい?すっごい匂いはしますけど…大丈夫ですよ」
「へぇ〜、私のサキュバスフェロモン、結構強いはずなんだけど……普通なら、もっとこう……グワァァァァァァって…」
「……ああ…俺、元勇者ですから。そういう耐性は一応、備わってますので。まあ……魔王様の谷間の匂いには無理でしたけどね…」
カヅチは納得したように頷き、少しだけ苦笑する。
「ぷっ……!」
その言葉聞いてチュパ姉さんがお腹を抱えて吹き出した。
「あははははっ!!イタズラされちゃった?あははっ!」
「いや、笑いごとじゃない!あれは耐性とか関係ないですから!」
「あははっ!そうよね!魔王様のフェロモンは別格よ!」
「ですよねぇ!ほんとクラクラすんだよなぁ」
二人は顔を見合わせて笑った。そして……
「じゃ、今度こそ帰りますね〜」
「は〜い。ありがとうねー。また汚すからよろしく〜♡」
「はいはい。その時はまた来ますよ」
カヅチはパンツを手に持ったまま、部屋を出ていく。
「さて……魔王様の顔でも見て、部屋に帰るか」
セポネの部屋に向かい、廊下を歩きながら呟く。
◇◇◇
魔王城・ル・セポネの部屋➖➖
カヅチは扉の前に立つ。コンコン。
「魔王様?いますかー?」返事はない。
「まだ、寝てるのかな?」
カチャッ。ドアノブを回す。扉が開いた。
「失礼しま……」カヅチは、そっと中を覗く。
全裸で体を動かすセポネ。カヅチはそっと扉を閉めた。
扉の向こうから響く、規則正しい掛け声。先ほどまで心配していた相手とは思えないほど、力強い声だった。
カヅチは扉の前で数秒間、沈黙。
「……めっちゃ元気になってるじゃん」
部屋の中から、「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」という気合いの声が聞こえてくる。
どうやらセポネは、元気いっぱいに筋トレをしているらしい。
「……あはは、とりあえず一安心……っと」
カヅチは小さく笑った。そして自分の部屋へ向かう。
その手には……なぜかサキュバスパンツ。
「……これ、どうしようかな……とりあえず…分解するのは後にしよう…」
魔王城の廊下を、元勇者は今日も歩いていく。
清掃員として。そして、魔王の玩具として。
今日もまた、誰かの部屋を綺麗にし、誰かに振り回され、気づけば妙な物まで持ち帰る羽目になった。
勇者だった頃には、想像すらしなかった毎日だ。そんなカヅチの一日は、静かに終わろうとしていた。

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