部活と、バイトと、クラスメイトと。
高校生のほとんどは、だいたいそんなもんでできている。
ここに『勉強』なるものが入っていないのは、私が受験生ではないためか、あるいは単に不真面目なだけなのか。
どちらにしてもそんなものを入れるつもりも、余地も無いのだがあえてここに一言入れるとして。
『青春』――なんてのはどうだろうか。
『青春』なんて言ってはみたものの、結局それは『陽キャ』の方々のお話だったりして。
私のような、いわゆるメガネぼっちの『陰キャ』には縁遠い話である。
ちょっとだけ、高望みしてみたかっただけで。
「はーい、学校祭の役割決めんぞー。 座れー」
野太い声で担任が入ってきた。
『青春』を感じたい――そう思った5分前の自分をぶん殴りたい気分だ。
そんなものを感じるのは、『陽キャ』の方々だけだろう。
私には、とんと無縁な話である。
「…………で、会計は桜井で」
ほらな。
私は無難な会計に落ち着いた。
目立たなくて済んだ――そんな安堵感に包まれていた。
洋楽が好きで。
クラスメイトから聞く『あの曲良いよね!』の会話にはあまり入れない。
こういうところだぞ。
と、思いつつも食指が動かないものに、無理に動かそうとしてもボロが出るだけで。
ミスった時のダメージがデカイので、色々考えた末にぼっちで大人しくしていることを選んだ。
それでいい。
これもまた、『青春』だろう。
「カナエ、歌合戦頑張ってね!」
「うん、ありがと」
「カナエなら1位取れるよ!」
「何歌うの?」
「何がいいかな……YOASOBIとかかな」
隣の席できらめくような会話が繰り広げられる。
クラス対抗の歌合戦にカナエが出るらしい。
自分の事ばかりで、他の人の事はあんまり聞いてなかった。
『陰キャ』は『陰キャ』なりに。
モブはモブらしく、学校祭はひっそりと過ごし、ひっそり終えるのが通例だ。
カナエは歌がうまいのだろう。
いいじゃない、YOASOBI。
洋楽好きな自分には刺さらないが、しかし大半に支持される音楽だろう。
異論など、あるはずも無く。
「ね、……桜井さんは何がいいと思う?」
「ふぇ!? ……わ、私に聞くですか?」
「だって、よく鼻歌歌ってるし」
突然聞かれて、日本語がおかしくなる。
ほとんど会話したことのないカナエに声をかけられ、キョドってしまった。
……『ふひひ』とか、言わなくて良かったと思う。
「……OASISなんてどうですかね?」
「…………だれ?」
あぁ、やっちまった。
突然聞かれたとしたって、何故にOASISなんだよぅ。
パッと思いついたのを逡巡もせずに答えた自分に、後悔しかない。
『YOASOBI』を候補に入れているお方に、イギリスのロックバンドを勧めるバカなんて居ないだろう。
……私以外には。
あぁ、私のぼっち化が進む。
……って、あんまり変わらないか。
あの時の周りの目線が痛かったが、とりあえず何も無かったことにしよう。
『……オアシス、って?』
『……だれ?』
『……ボカロ?』
あ、思い出すと辛いわコレ。
今日は真っ直ぐ帰って寝るに限るわ。
学校祭、当日。
学校に着いたら、なにやらザワついていた。
いわゆる『陽キャ』の女子達が騒いでいる。
「桜井ちゃん聞いて! カナエ風邪引いちゃって!」
「…………あらー」
あんまり会話したことのないクラスメイトの言葉に、微妙な反応しか返せなかった。
あー、歌合戦困ったねー。
完全に他人事である。
「でね、代わりに桜井さんに歌って欲しいんだって!」
「…………はい?」
全く理解が出来なかった。
私が?
歌合戦に?
……なんで?
「桜井ちゃんの鼻歌、カッコよかったってさ」
……なんじゃそりゃ。
「い……いや、流石に――」
「え、まじ? 聞いてみたいわ」
「桜井ちゃん頑張れー」
「頑張ってね! カナエのためにもさ!」
……ちゃんと反論出来なかった私を、ぶん殴りたくなった。
音源が、無いんですけど。
ましてや、歌う曲すら決まってないんですが。
「2年B組……桜井さん? あれ、変更になったの?」
「あ……はい。 予定した子が風邪ひいたみたいで」
「音源は?」
「……無いんですけど、youtubeとかで」
「出来れば声無しが良いんだよなぁ」
今日の今日で、そんなの用意出来るわけないじゃん。
そんな文句も言えない私は、勇気を振り絞って返す。
「…………じゃあ、アカペラで」
陰キャに、勇気などないのである。
「桜井さーん!」
「がんばれー!」
ステージに立つ自分に、声援がかかる。
やめてくれ、というのが本音だ。
「えー、なんと急遽の代役ということで」
司会が私にマイクを向ける。
「えと…………はい」
打ち合わせも無い突然の振りに、微妙な返ししかできない。
舐めるなよ、こちとら筋金入りの『陰キャ』だぞ。
見てわかるだろうと思いながら、渡されたマイクは引きちぎらんばかりに握りしめていた。
「あー……それではお願いします」
お前もう少し余裕持たせろやい。
だけど、――ここまで来たら覚悟を決めるしかないか。
「音源も無いようなので……アカペラで、との事で」
心臓が痛い。
人前で歌うなんて、経験が無い。
くそ。
なんでこんなことに。
「どしたー?」
「早くうたえー」
無慈悲な声がかかる。
マイクを握りしめたまま、私は立ち尽くしていた。
……やっぱり、無理かも。
もはや引き返せない場面にいながら、そう思ってしまった。
『陰キャ』故に、周りに流されるままここに立ったが、生半可なストレスじゃない。
何もう歌わないまま、引き返したくなった。
その時。
「――桜井さーん!」
聞いた事のない、ガラガラの声が聞こえた。
カナエだった。
「頑張って!」
……ホントに、風邪ひいてたんだ。
……だとしたら。
私を選んだのも、悪意があっての事じゃない。
純粋に選んでくれたのだろう。
選曲が、微妙だったとしても。
「……う、歌います」
ボソリと呟くように言った。
聞こえたかどうかは、分からない。
でも……精一杯頑張るつもりだ。
「マキシマム ザ ホルモンで………『ぶっ生き返す!!』」
――『アカペラで!?』
全校生徒ツッコんだ。

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