もう苦虫はお腹いっぱいっス。
ゼーエンの優秀な執事、べレックからの報告は以下の通りだったっス。
遥か古代死を司る魔王に追いやられ、北の厳しい大地にほそぼそと生きながらえた龍鬼人の一人シュタルク。
彼が龍獣統一軍と称し肥沃なヴァルグランの領土を侵略することを決めた。
魔獣の大軍、飛竜や巨竜、巨大火蠍によるヴァルグラン東の都市シャルセアの制圧。王都で死の魔蟲による虐殺。
最後にヴァルグラン最大の都市ラウンドベルクが5万を超える竜や魔獣に蹂躙され一つの国が終焉を迎える…………
この計画は進んでいる。
「先日の魔獣の氾濫の意味はわかったっスけど、これから起こることがわかったとて………」
どう動くべきか? アチシが頭を悩ませどう動くべきか整理していると、静かな声と共に辺りの空気が一変。
「叩き潰す…………」
アチシの隣で、ヴァルグラン四代目国王にして初代女王。元大陸最強と謳われた冒険王『シーラ』の冷え切った声が響く。
あまりの殺気に、ゼーエンが椅子に座ったまま失神してしまいべレックが抱きかかえ別室に移動。
何故かびしょびしょになってしまった床をメイドたちが掃除し始める。
虚空を見つめギリギリと歯ぎしりを続けるシーラに声をかける。
「殿下、メイドさん達も耐えてはいるけど、結構つらそうっスから、一旦落ち着いて紅茶でも飲むっスよ」
震える手で黒髪メイドのリリーが、シーラに紅茶を勧める。こんな至近距離で、現役時代は竜も相手取った強者が放つ本気の殺気を受ければ良くて失神、下手すれば心臓が止まる。
「あら、みんなごめんなさい」
空気が一変する。
「さて、どうするっスか?」
スコーンのおかわりを頼みながらシーラの方を向く。
「先ずは、円卓会議を招集してラウンドベルクで迎え撃つ」
とりあえず頭は冷えたようっスね。
「その前に襲われる東の要所、シャルセアの防衛はどうするっスか?」
アチシ計算では下位竜の襲撃と我らの隊長の到着がほぼ同時くらいになりそうっスね。
あれっ? このタイミングって……………電波隊長のモコモコしていてフワごろっとした何かって本当に何者っスか?
「グライシアは間に合うのでしょう。しかも、奥の手はあるのでしょ?」
何処まで読んでるのか解らないっスけど言いたいことは何となく解ったっス。用意周到に待ち受けるのではなく、ギリギリで撃退する。裏の裏をかいて殲滅する。
普通の将と兵なら、捨て駒っスね。でもヴァルグランの兵と、この王であれば奇跡は起こる。
そして、敵対するものを完膚なきまでに叩き潰す。
アチシが頷くと
「力を貸してもらえるかしら?」
頼られるのは嫌いじゃないっス。
「おっけーっスよ」
「べレック! ゼーエンは大丈夫?」
いつの間にか戻っていたべレックに問いかけるシーラ。
「ご配慮ありがとうございます。屋敷に戻り湯浴みして頂いております。」
べレックのよどみない返事。
「本当にごめんなさいね。以後気をつけるわ。で、五大魔導鎧の装着者とショーちゃん、ロン…………大賢者に招集をお願いしても良いかしら?」
命令しなれてる人は凄いっスね。適任ではあるけれど、他人の執事を顎で使うって凄いっス。
「承知致しました」
そう言って扉を出るべレック、仕事早いっスね。
「アチシはラウンドベルクに五大魔導鎧を送るのと、敵情視察いいのかなっス?」
現状、姉御が不在なので大規模な空間跳躍はアチシがしないとっスからね。ロンちゃんはいざという時にとっときたいし。
「リヒトフェケンは念の為残す、ないとは思うけど裏の裏の裏なんてかかれたら笑えない」
用心深い。
だが、今回は叩き潰すのが目的だから守りの魔導鎧は本来の目的。王都を護るに使うのがベストっスね。
「早速動いてちょうだい。紅茶おいしかったわ。」
そう言って、この場を去る彼女を見送り、スコーンを頬張りつつ、さらなるおかわり要求して思案を巡らす。
忙しくなるっスね。
だが、これだけの事をしおったのじゃ。シュタルクとやら、臓物を引きずり出す程度では済まさぬぞ。

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