「ぶべらぁぁぁっ!?」
ギルドの訓練場に不細工な声が響く。
「この程度か?」
「まだ……まだあああぁぁぁっ!」
「そうだ。お前は越えなくてはならん。この愛を」
「はいっ!!」
——バギャッ!!——
「ぐほおおおぉぉっ!?」
残念イケメンが壁に叩きつけられる。
「今日もやってるねえ、ギルマス」
「あら、ノインさん。任務は終わったんですか?」
「ああ。ほい、これ火竜の瞳」
——ドサッ——
受付の机が鈍い音を立てた。
「はい、確かに。換金は?」
「そっちで運用しといて」
「かしこまりました」
「ウィチタ。あいつ新人?」
「カイくんですか?」
「カイって言うのか。経歴は?」
「えーと、カイ・ホランド。今年、レーゼ村から上京してきた十五歳の騎士家の三男ですね」
「おや、貴族か。レーゼの三男なら……まあ、家に未来は無いわな」
「言いますねえ。さすがは元伯爵家のボンボン」
「はっはっは! 追放された放蕩息子が何を言ってもいいだろうが」
「ノインさんを見てきた身としては、よく更生したもんだと思いますよ」
「ホントになあ……我ながら昔の俺は恥ずかしくてしゃーない」
「それが今やアイアンフィストの顔ですもんねえ」
「……ギルマスに出会ってなければ、今の俺はいないからな」
「私は出会わなかった方がよかったと思いますけど」
「ウィチタはギルマスの熱い魂がわかってない」
「鉄拳って愛なんですか?」
「それ以外の何があると?」
「シンプルな物理」
「まったく……これだから現場を引退した聖女ってやつは……」
「ヒーラーとしての経験値がダンジョンより多い環境っておかしいでしょ」
「そのおかげで王都一の治癒術師になったんだろ?」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「ギルマスのおかげだな!」
「殴りますよ?」
「それ、ギルマスの愛が伝染してない?」
二人は訓練場を眺めていた。
人が有り得ない速度でバウンドする。
「お前の魂はその程度か!? 俺の愛に応えてみせろっ!!」
「うがあああっ!?」
「しかし、よく耐えるな。あの新人」
「カイくん、入団試験で言ったそうですよ」
「何を?」
「僕は弱いです。でも、故郷に残した母と妹を養える冒険者になりたい、って」
「……ほう」
ノインが目を細めた。
「いいじゃないか」
「ギルマスも同じことを言ってましたよ」
「だろうな」
「それで、試験に合格したそうです」
「なるほど」
「ただし、本人は入団試験が終わったと思っていたらしくて」
「ん?」
「ギルマスが、では、ここから本番だって」
「はっはっはっ!」
「笑い事じゃありませんよ」
訓練場では、カイが膝をついていた。
「立て」
「……っ」
「お前は何のためにここへ来た?」
「……家族を」
「聞こえん」
「家族を……養うためです!」
「ならば、立て」
ロックスが拳を握る。
「ダンジョンの魔物は、お前の事情など知らん」
「……はい!」
「お前が倒れれば、家族はどうなる?」
「……っ!」
「俺の拳で済むうちに、倒れ方を覚えろ」
カイが歯を食いしばる。
震える膝に力を込め、立ち上がった。
「……お願いしますっ!!」
ロックスが笑った。
「いい目だ」
——ドゴォッ!!——
「ぶへえええぇぇっ!?」
「……容赦ねえなあ」
ノインは懐かしそうに目を細める。
目の前の光景に昔を思い出す。
「カイか……」
かつての自分も、ああして何度も壁に叩きつけられた。
それでも、あの男は一度たりとも自分を見捨てなかった。
「それはギルマスの愛だ。抗え。そして、認めさせろ」
ウィチタはノインの言葉に大きな溜息をついた。
「その前に治療費を計算してもいいですか?」
「ギルド持ちだろ?」
「そうですよ。治療費も装備費も食費も宿泊費も全部ギルド持ちです」
「最高じゃないか!」
「だから経営がブラックなんですよ!」
「はっはっはっ!」
「笑ってないで、少しは止めてください!」
泣く子も黙るアイアンフィスト。
「バカばっか」
訓練場に怒号が響く。
「立てええええぇぇぇっ!!!」
「あああああぁぁっ!!!」
傷だらけの先の未来。
生きるために必要な鉄拳。
超えた先にあるもの。
栄誉。
財力。
人気。
それらがすべてではないが、その前提は存在する。
生き残ること。
アイアンフィストに所属する者たちは揃ってこう言う。
『ギルマスがいたから、今の自分がいる』
そして、もう一つ。
『あの人の拳より痛い攻撃なんて、そうそうない』
不器用極まりないギルドマスター。
ロックス・リージェント。
人は彼をこう呼ぶ。
アイアンフィスト、と。
はじめましての方も、いつもお読みくださっている方も、ありがとうございます!
朔來 織です。
新作『アイアンフィスト』
いよいよ開幕です!
最強のギルドマスター、ロックス・リージェント。
その拳には、確かな愛が込められています。
……受け取る側がどう思っているかは別として。
本作は、そんな少々(?)規格外のギルドマスターと、個性豊かな仲間たちが繰り広げる異世界ギルド経営コメディです。
笑いあり、鉄拳あり、時々ちょっといい話あり。
肩の力を抜いて楽しんでいただけたら嬉しいです!
今後は毎週火曜日と金曜日の週2回の投稿です。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります!
「お前に俺の愛を受け止める自信はあるか?」
それでは、次回もお楽しみに!

コメント 1件
星見人3時間前
叫び声に惚れた。愛受け止めときましたww