それからも試合は進み私達の目の前には後一歩でリーチになる牌が並んでいた。一列にずらりと並んだその姿は堂々たるもの。神々しささえ感じる。
「チー」
次でリーチかも、何て思っている私を他所に林川さんがチー。
「それじゃあ、リーチ」
続く土倉さんが言葉を躍らせながら一足先にリーチを掛けた。
「一発! 一発! 一発が出そうだなぁ」
陽気に歌を歌いながら棒を中心のとこへ。表情豊かな彼は見ているだけでこっちが楽し気な気分になってくる。
「一発! いっぱ――」
「ポン」
すると二週目を迎えたオリジナル曲を遮り坂井さんがポンをした。
「あっ。もぉー、意地悪だなぁ」
さっきまでの楽し気な表情から一変。土倉さんは今にも頬を膨らませそうな表情で坂井さんをわざとらしく睨む。
「今のって何があったんですか?」
でも私はどうして土倉さんのテンションが下がったのかが分からず、東雲さんに尋ねた。
「えーっと今のはね。リーチしてから一巡以内に上がれたら一発っていう役が付くんだけど、ポンとかチーとか鳴かれたらその時点で無くなっちゃうんだよね。わざと消したのか、元から待ってたのかは分からないけど、今ので土倉さんの一発がすぐに消えちゃったって訳」
「うるせーから消してやったわ」
やってやった、そう笑みを浮かべながら坂井さんは牌を捨てた。そしてそんな坂井さんへ依然と視線を向ける不貞腐れた顔の土倉さん。それに気が付く坂井さんは「出ない出ない」と口パクで言いながら手を振る。だが土倉さんは表情は変えず首を振った。
そしてそんな彼らを他所に一枚引く私。
「おっ! これはねぇー。こっち?」
私越しに東雲さんは栗原さんへそう尋ね、少し牌を見つめる栗原さん。
「んーっと。普段ならそっちだけど、引き良いからこっちとかもいいかなって」
「おぉー! いっちゃう? 三奈ってたまに男気あるよね」
「いや。普段ならしないよ?」
「いやいや。たまにこーゆーのしてるから」
「殆どしないけどなぁ」
麻雀的な事も普段の二人に関しても全く知らない私には、一体何の話をしているのかはさっぱり。でも何故かやっぱり二人に挟まれながらのその空気感が楽しかった。
「じゃあこれでリーチしようか。お願いね桜咲ちゃん。あとは君の運に掛かってるから」
そう言われると責任重大な気がして掴んだ牌が心做しか重く感じる。
「り、リーチ」
「おっ! 勝負だなぁ」
少し緊張する私の向かいでは土倉さんがファイティングポーズを取っていた。
「チー」
だがそんな私達の間へ割って入るように林川さんから声が上がる。彼の右下にはこれで三つ目のポンとチーが並んだ。
「三つ巴だね」
「ここでチーするって事はだよねぇ」
「よし! 来い!」
林川さんへも気合十分なファイティングポーズを向けた土倉さんは、自分の番が来るとやる気に満ちた表情で山へ手を伸ばした。そして牌を一枚引き、顔前でクルリ手を翻す。
そこからその牌を仰向けで台へ置き、自身の手牌を見せるまでの手付きには溢れ出した気持ちが籠っていた。
「やったー! メンタンピンイーペーコードラそしてぇ」
嬉々としながら土倉さんは唯一天井を仰いでいた牌をその下ごと手に取り、引いた牌の傍で捲った。
「ドラだぁー」
両手を上げて喜ぶその姿は子どものようで微笑ましさすら感じる。
でも一方で私は彼が呪文を口にしているようにしか聞こえなかった。だからそっと東雲さんへ質問してみる。
「メンタン? 何とかって何ですか?」
「リーチと断么九って言う二から八までの数字で作った役と平和って言う鳴かないかつ一二三とか連続した三つ一組だけかつ、待ちが両側かつ、頭が役牌にならないので作った役。一盃口って言うのは連続した数字の三つ一組をそれぞれ二つずつ集めて二二三三四四とかにした役だね。ドラって言うのはボーナスポイントみたいなものかな」
「ちなみに最後に捲ったのは裏ドラって呼ばれるのだよ。最初に捲られてた牌の次の牌がドラ」
補足するように栗原さんが教えてくれた。
「なるほどぉ」
でも正直に言うと情報が多すぎて良くは分からなかった。ただ色々な役が組み合わさったものだと言うのだけは理解出来たけど。
「あぁー。もうこれで豪運の桜咲ちゃんとお別れかぁ」
「ルールとか役とか覚えたら自分で色々と考えられたもっと楽しいよ」
「はい! ありがとうございました」
そして私は二人の元から離れ次に林川さんの席へ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
ここまで一番静かに麻雀をしていた彼は同じ様に頭を下げた。
他の人の元でしてた時の印象は、結構ポンチーをしてるって感じだったけどプロの方だしやっぱり色々と考えた上での判断なんだろう。私がそんな事を考えている間に台は自動でシャッフルと整列を済ませ目の前に牌が上がって来た。それをこれまで同様に林川さんが――と思ったが。
「並べてみる?」
「えっ? 私がですか?」
「並べ方はその人の好みだけど、何となく種類とか順番は分かったんじゃない?」
確かにぱっと見でもトランプみたいに模様は違うし、そこに書かれた数がそのまま数字になってるっぽいし。
「じゃあ」
そう言って私は慣れない手つきで初めて牌を並べてみた。種類別の数字順で並べてみると何だかこれを自分がやったんだっていう小さな感動が心を揺らす。
「おぉー。本当に引き良いね」
その声に後ろを振り返ってみれば林川さんが微笑みを浮かべていた。ずっとあまり表情の変わらない人だっただけに、その可愛らしさすら感じる微笑みは所謂ギャップだった。
「ですよねぇー」
「でもさ。優の麻雀とツモの良い桜咲ちゃんが組んだら結構厄介じゃない?」
「あぁー! 確かに!」
「これは速攻で決まっちゃうかもなぁー」
何だか自分が参加してるというより画面越しに見てるといった反応をする坂井さんは楽しそうだった。
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