目を開けた私は病室にいた。見慣れた誰もいない、いつもの病室。ベッドで横になっていた私は状況が理解出来ず辺りを見回す。室内は真っ暗だけど片方だけ開きっぱなしのカーテンからは月明りが差し込み程よい明るさだ。
そしていつもと違う感触に頬へ手をやってみると、指先が微かに濡れているのを感じた。思い出すまでも無く私にとってはついさっきの映像が頭を埋め尽くす。
でも心ではホッと安堵していた。だってこの状況が全てを教えてくれているから。
「良かった。夢だったんだ」
夢とは言え余りにも心を抉る体験に依然と泪は止まらない。でも口元を緩めながら私は撫でるように拭った。
「残念ですが……」
すると真さんのやけに静かな声が(窓側とは反対にある)椅子の方から聞こえた。泪をもうひと拭いしながら私はその方へ顔をやる。
そこには案の定、真さんが椅子に腰掛けていたけど、彼にいつもの微笑みは無い。そして私の視線が向くとゆっくり口を開いた。
「残念ですが、先程の出来事は現実です」
「え?」
矛盾の迷路へ迷い込んだかのように、私はすぐにその言葉の意味を理解する事は出来なかった。
「彼は……風見春人さんは、お亡くなりになられました」
この世界で一人止まった時の中で、私は無意識的に頭を真っ白にさせなるべくその事実を遅らせようとしていた。でも……それでも走馬灯のようにこれまでの想い出が駆け巡り、最後にはあの瞬間が訪れた。
春人君が……。私は最早、拭う事すら忘れ破裂しそうな胸から込み上げてくる感情を只管に垂れ流すしかなかった。自分でも訳が分からない――今、一体どんな感情に苦しんでて、どうすればいいのかも。ただ溢れ流るる感情に身を任せる事しか今の私には出来なかった。
「申し訳ありません」
静かに泪を流す私と殆ど同じぐらいの声がただの音として響く。
このまま泪と共にこの混沌とした感情も流れ出してしまえばどれだけ楽だろうか。でもどれだけ泣こうとも――何も変わらない。まるで深い深い海の底に沈んでいくみたいだ。どんどん暗く、冷たい場所へ引き摺り込まれるように沈んでゆく。息もしずらくて、ぎゅうぎゅうと胸が苦しくなっていく。あの笑顔を思い出せば思い出す程、あの高鳴りと唇の感触を思い出す程……。
きっと私は君の事が好きだったんだと思う。いや、好きなんだと思う。今この瞬間も。だってこんなにも君が恋しいんだから。
でも今は――ただただ悲しくて、ただただ苦しくて、ただただ辛くて、ただただ切なくて、ただただ恋しくて、ただただ――私はもう……。
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