私は思わず鼻を鳴らすように笑ってしまった。
「死神は意外と優しいって思ってた。でも――」
喉元まで来た言葉を確認するように、私はそこで一度声を途切れさせた。
「やっぱり死神って酷くて恐ろしい」
だけどその言葉に真さんは微笑みを崩さす私を見つめるだけ。
「だって――」
この一週間は本当に色々な事があった。初めて麻雀したり、憧れのミュージシャンに会えたり、好きな漫画の作者と会えただけじゃなくて一足先に物語の結末まで知れたり。目一杯ショッピングを楽しんで、これまでと変わらないけど映画やドラマも楽しかった。そして――あの温かくて高揚とした感覚も。
もしこのまま人生が続いたとして、確かに入院の日々は続くかもしれない。けど、もしかしたら……。もしかしたらこの一週間みたいな、私も想像出来ないような楽しい出来事がまだまだ沢山あったかもしれない。もし、私の人生が続いていたとしたらどんな出来事が待っていたんだろう?
そう考えると思ってしまった。
「もっと生きてたいなんて思っちゃってるんだもん。今になって死んじゃうのは嫌だなって」
「申し訳ありません。誰がどれだけ思おうとも、こればかりはどうする事も出来ません」
「最後の最期でこんな風に思っちゃうなんて。本当に死神って残酷で恐ろしい存在」
そう言って私は冗談だと言うように笑って見せた。
「ご満足頂けたようで何よりです」
「ありがとう」
「いえ。それが私の務めでもありますので、全う出来た事を嬉しく思います」
「どうせならこの世界の事をうんと嫌いにしてくれたら良かったのに」
「申し訳ありません。ですが貴方にはやはり笑顔の方がお似合いですので、最期まで楽しんで頂けたようで何よりです」
こんな会話をしてると、まるで肌寒さに夏の終わりを感じるような感覚が私を満たしていった。
「――はぁ。もう終わりなんですね」
すると何かに魂が引っ張られるように遠のき始める意識。もう本当に終わりが近づいてきてるらしい。
そんな中、真さんは私の手を取った。両手で優しく丁寧に。私を導くように春先のような温もりが手から伝わり全身を包み込んでいく。そして彼は祈る様に顔前へ。
「お世話になりました。死神さん」
これも死神さんの計らいなのか、まるで心地好い気温の中でそよ風を浴びながらウトウトと眠りに就く様な感覚……。
「私の方こそ」
段々と……近づいてくる。重い瞼は視界を静寂へと導き、感覚は眠りに就く。
「貴方のお陰でとても充実した日々を送る事が出来ました」
段々と……遠のいていく。手の温もりだけは暗闇に灯るただ一つの燈のようにずっとそこにある。
「それはとても楽しく、素晴らしい。最高の一週間を。だから――」
そして段々と……。
「最期まで僕が一緒にいるから。桜咲ちゃん」

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。