説明を受けているとどうやら試合が終わったようだ。
「って言うのをルールにもよるけど一周分やって点数が高い人から順に勝ちっていうのが麻雀かな。まぁ一番最初はルールもそうだけどやっぱり役を覚えるのがね」
「そんな難しい事考えずにやればいいんだって。ほら」
すると一番近くに座っていた男性は立ち上がり、私に向け席を手で指した。
でも私は突然の事っていうのもあるけど、何より全くルールの分からないゲームだからと戸惑っていた。
「いや。私にはまだ……」
両手を振る私は自分で言いながら一人「まだ……」なんて言葉に引っ掛かりを感じていた。今出来ないのならいずれはないのだから。
「いいから。いいから。俺が後ろからどうしたらいいか教えてあげるしさ。それに時間掛かろうが、間違えようが、誰も気にしない。気にしない」
「やっといた方がいいよ。一応、この人達プロだから良い記念になるしさ」
そんな言葉に押されながら私は席へ。正直これ以上断れないような雰囲気もあったけど無理矢理っていう訳でも無かったし、それにいざ座ってみると私も緊張より楽しみの方が大きくなっていた。
席に座ると目の前に広がる麻雀景色。麻雀自体は知ってるはずなのにそれは初めての光景で、新鮮さが風のように駆け抜けた。
そんな中、改めて同じテーブルを囲む人を一見していく。
左手に座っていたのは、この中で一番年齢の深そうな人で掛けた眼鏡と紳士そうな柔らかな表情が印象的だった。
向かいには入院服を身に着けた、少しガタイのいい物静かそうな男性がじっと自分の前に並ぶ麻雀のコマを眺めている。その右腕には点滴が伸びていた。
そして右手には長い髪のクールな雰囲気の綺麗なお姉さん。耳で煌めくピアス達はその容貌と仲睦まじそうにしている。その後ろに立つ女性の髪は短めで美人っていうより可愛い系の人だった。
「それじゃあ、取り敢えず牌を並べるのは俺がやるから」
そう言って男性は私の目の前でうつ伏せになったコマ――(どうやらそう言うらしい)牌を起き上がらせると手際よく並べていった。ぱっと見た感じだと同じ種類で分けてるらしい。
「まず。名前は全然覚えなくていいんだけどー。この数字のやつが萬子って言って、この竹のやつが索子、このマリモみたいなのが筒子ね」
するとその説明を横で聞いていた左手の男性が噴き出す様に笑い出した。
「あっはっは。マリモって」
ツボに入ったのか一人声を上げて笑っていた。
「何だよジジイ! マリモみてーだろがよ」
文句あるのか、と言わんばかり口調だったがそれはいがみ合っているというより友人同士の冗談といった雰囲気だった。
「あっ! そんな乱暴な。駄目じゃなーい。そんな悪影響な言葉遣い。怖がるでしょー。ねぇ」
そう言って男性は私へ柔らかでどこか子どもっぽい笑みを向けた。
「いえ。お二人共、仲が良いんですね」
「ううん。こんなジジイと仲なんて良くないよ」
「どうもジジイこと土倉正二です」
すると土倉さんはその言葉を逆手に取るかのように相変わらずのおちゃらけた様子で自己紹介をした。軽く胸に手を当てながらの会釈と共に。
そんな土倉さんに(私から見たら右手)向かいの女性が零す様に笑った。
「そう言えば自己紹介とかしてなかったね。あれは置いておいて俺はね坂井義也。んで、こっちに座ってるのが」
後ろから私の顔を覗き込むように続けた坂井さんは右隣りの女性を指差した。
「東雲奈央と栗原三奈」
更にその後ろに立っていた女性も連続で紹介すると、二人は同時に私へ微笑みを浮かべながら手を振ってくれた。
「そして最後に向こうの不愛想そうな奴が」
そして坂井さんの指は向かいの入院服の男性へ。
「林川優。アイツ今、入院してんだよ。それで見舞いに来てついでに打ってたって訳。でも入院つっても全然大したことないけどな」
「まぁ、そうだね」
台越しに頷く様子を見る限り本当に大ごとって訳ではなさそう。
「そしてオレが東間悟朗ね」
すると私へ一番最初に話掛けてくれたあの男性が自分を指差しながら割り込むように顔を覗かせた。
「あっ! ごめん! ごろっちゃんの事忘れてたわ!」
本気で忘れてたのだろう、そんな自分に対して笑いながら坂井さんはごめんと東間さんの肩を寄りかかる様に叩いていた。
そしてまだ若干ながら笑いの残る坂井さんが戻って来ると手を一度パンッと鳴らした。
「よし。それじゃあ取り敢えず打つべ。さっき説明で基本的な上がり方とかは聞いたよね?」
「はい。良くは分かってないですけど、三つ一組を四つと同じのを二つですよね」
「そうそう。まぁ一応説明しながらどれを捨てたらいいかとか指示するけど、一緒に考えながらやっていこうか」
「はい。よろしくお願いします」
「はいよろしくー」
そして始まる前に私は他の三人へ顔を向けた。
「遅れましたけど、五宮桜咲です。よろしくお願いします」
自己紹介の後に私は色々なお礼を含めて頭を下げた。初めてでプロの人と出来る上にプロの人に教えて貰いながらやれるだなんて――なんて贅沢なんだって思う。
そしてそんな私へまるで公式戦でも始まるみたいに三人も軽く頭を下げ返してくれた。
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