繁華街に向かう国道で自家用車を走らせている男をもし、信号等で止まっている時に見てしまったら誰もが二度見するだろう。
なにしろその男はハロウィン仮装のままハンドルを握っているからだ。
彼がこんなにも浮足立っているのには理由がある。
気になっていた子を仮装パレードに誘うことに成功したのだから、たとえ背中に羽を生やして視界の狭いメガネをかけていても咎めるのは酷だろう。
「ふん♪ふん♪ふん♪」
車内に響く音楽に合わせて、男は鼻歌を鳴らせながら橋の手前で歩道から自分に手振る人物に気が付いた。
「誰だ?」
男は当たり前のように、車を路肩に寄せてその人物の前で止めると窓を開けた。
「おう、どうした?」
「どうしたは無いだろう? 待ち合わせしてたじゃねぇか」
「……ああそうだったな、遅くなってすまん。 乗ってくれ」
外の友人に、男は顎をしゃくって車に乗るように促しながらそう言った。
だが友人は、男の仮装に呆れたように息を吐いた。
「その仮装じゃ車の運転大変だろう? 俺が代わるよ」
羽が邪魔なんだろう、前のめりの姿勢の男に運転を代わるように促すと、車の前を回って運転席側まで来た。
「なんだよ、大丈夫だっての」
「いや、俺が怖いんだよ」
一度は断ったものの、男も頭を痛そうに押さえている友人に、これ以上言い返せなくて肩を竦める。
「……わかったよ」
男はそう言って、扉を開けて友人に運転席を譲ると、自分も車の前を回り込んで助手席に乗り込んだ。
「ああ、そういや臨時の駐車場じゃないと停められないらしいぞ?」
「まじか、それ聞いて無かったら、いつもの駐車場行ってたわ。 助かった」
「いいって、んじゃそっちに走らせるからな?」
「おう」
友人はそう言うとアクセルペダルをゆっくりと踏み込む。
「そういやさ、例の子どうなった?」
「どうって、今日初デートだっての」
「そうなんだ? じゃあ向こう着いたら別行動だな」
「そう……だな?」
男は妙な違和感に眉を顰めて言葉に一瞬詰まった。
それに気が付いた友人は、心配そうに横目で男を見る。
「なんだ? どうかしたか?」
「いや……折角約束してたのに悪い」
「ああそれか? 気にしないでいいって」
友人はハンドルを切って、横道に入りながら苦笑いを浮かべる。
「ありがとう。 ってかこっちに臨時駐車場があるのか?」
「ああ、市のHPに載ってたぜ?」
「そうなのか? わざわざそんなとこ見ねぇし、知らんかったよ」
「こういうイベントの時はちゃんと調べた方がいいぞ? 通行止めとかもあるしな」
「そうだな、気を付けるよ」
その言葉のあと、不思議と止まってしまい車内に静寂が訪れた。
既に薄暗くなった道路を進む車内から、流れる風景を男は見つめながら、ふと疑問を持った。
「なぁ、本当にこっちか? ずいぶん中心部から離れてるぞ?」
「いや、さっきも言ったけど通行止めが多いんだ、ぐるっと大回りしてる」
「なるほど……ね」
妙に納得いかない表情の男だったが、それ以上何か言うこともなく再び口つぐんだ。
やがて周囲から建物が消え、それなのになぜか道路だけは真新しい。
ふと、男は思い出して流れる風景の道路脇や後ろ、そして前を見る。
「なぁ……こっちって新しい道路伸ばしてる方向じゃないか?」
「まさか! ほら前を見てみなよ、ちゃんと街灯が並んでるじゃないか」
友人にそう言われて前を見ると、確かに等間隔に青白い光がゆらりと揺れながら道路脇に並んでいる。
「ああ、そうだな……」
それでも心配そうな男に、友人は呆れたように苦笑いを浮かべる。
「大丈夫だって、去年俺もこっちに来たんだからさ」
彼はそういうと、男に向かって微笑みを浮かべた。
◇
「なぁ、このニュースみた? 繋がって無い橋から車が落ちたって」
ハロウィンの仮装パレードが終わった翌日早朝、道路に散らばっているゴミを清掃している業者の一人が、自分のスマホをいじりながら同僚に声をかける。
それに対して、声をかけられた同僚は竹製の爪箒で、道路側にゴミを落としながら文句を言う。
「おまえ、ちゃんと仕事しろよ。路面清掃車来ちまうぞ!」
「でも、これ直ぐそこの工事中の道路ですよ? 怖くないっすか? 運転手仮装してたって書いてるし、パレードに来たかったんじゃないっすかね?」
「単なる事故だろう、そんなもん読むのは仕事終わってからにしろ」
「へーい」
注意された清掃員は、スマホをお尻のポケットに差し込んで、自分も爪箒持ち直した。

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