「いいや、おれの方がでかい!」
「違う!俺のカボチャの方がでかい!」
F県にある静かな山間の町に似つかわしくない、男達の争う声がこだましていた。
この町では数年前より、ハロウィンに合わせて育てたカボチャの大きさを競う大会を開いている。
もともとは、村の誰かが海外のカボチャの大きさを競う大会を見て『やってみたい』と声をあげたのが切っ掛けで始まった祭りだ。
それが町全体を巻き込む毎年の行事になるとはだれが予想できようか。
とはいっても、ここまで喧嘩腰になるのはこの二人に問題があるとしか言いようがない。
互いにライバルとして競い合ってきた結果、ここ三年程はこの二人のどちらかが優勝するのがお決まりのようで、その分二人のいがみ合いも年々エスカレート気味だった。
「いい加減に喧嘩はやめろ! いい大人がみっともないぞ!」
そんな二人を、呆れ顔で諫めたのは大会の司会を務めている男性だった。
「ああ? だったらとっとと、どっちの勝ちか決めやがれ!」
「そのとおりだ! 決着つけやがらねぇからこうなってんだろう?」
二人は怒りの矛先を司会の男に変えて詰め寄る。
「だから言ってるでしょうが! 今、大会の運営でどうするか話し合ってるって!」
いい加減、司会も二人の喧嘩にうんざりとしているようで、負けじと睨みつけるような目で吠える。
よく見ると周囲の見物客からもヤジがちらほらと飛び始めていた。
特に今年はひどい有様だ。
それもこれも大会運営側の想定を超えるサイズの、巨大なカボチャを二人が持ち込んだことに他ならない。
去年までは、二人を含めても本場とは違って、たかが知れてるサイズしか出品されていなかった。
まぁ二人の家は、昔から対立している犬猿の仲として有名なのだから、こんな大会を主催すればこうなるのは当然だった。
最初の主催者は考えが甘かったのだろう。
もう、こうなってしまうと二家が大会主催を是が非でも開かせるように動くので、中止にする事も出来ない。
そして今年、その二家ともどうやってか、本場アメリカのカボチャの種を入手して、それは見事なカボチャを作り上げたのだ。
まさか、相手も同じ手に出ているなんて夢にも思って無かったので、大会で互いのカボチャを見て例年以上にいがみあいがひどくなってしまった。
「とっとと測っちまえばいいだろう!」
「もういいだろう! 俺の勝ちで!」
「はぁ? ふざけんなてめぇ! 明らかに俺の方のカボチャがでかいだろうが!」
「へっ、横長にべちゃっと潰れてるだけじゃねぇか、全体でみれば俺の方がでかい!」
実施問題、どちらのカボチャも悠に大人の男性二人分は有りそうだ。
とてもじゃないが、そんなものを測れる機械なんか準備しているわけがない。
「あ、あのう・・・・・」
そんな混乱の中、見物人の中から細身の男性が一人、おずおずと手を上げて前に出てきた。
「なんだてめぇ? 見ねぇ顔だな」
「よそもんは関係ねぇ! すっこんでろ!」
おでこが引っ付きそうな程、互いに近づいて睨み合ってた二人は、明らかに町の人間ではない男性を見て眉を顰める。
「いえ、はい、先日東京から移住してきた者なんですけど……」
「その移住者が何か用か? てめぇなんか相手にしてる暇なんてねぇんだ、とっとと帰れ」
その細身の男性は、二人から凄まれながらも一歩も引くことなく、会場の中央まで足を進める。
「僕がどちらが重いか測りましょうか?」
その細身の男性は、色白で筋肉らしいものが何一つついて無さそうな腕を、晒すように袖を捲り上げる。
その姿を見て周囲の見学者経ちすら、移住者の言葉に困惑した表情を浮かべる。
「お前がどうやって測るつもりだ?」
争う二人の片割れが、呆れたように鼻でわらいながらそう小ばかにする。
実際、細身の男性は何か計りになるような道具を持っているわけじゃない。
まさか、彼が持ち上げてどっちが重いか判断する……なんてことは無いだろうと、彼以外の全員がそう思いながら細身の男性の言葉を待った。
「僕が抱えて計ります」
その言葉に、どっと笑いが起こる。
ただ、争っている二人は馬鹿にされたとでも思ったのか、不機嫌そうに眉をよせた。
「はっ! お前がこれを持ち上げるってか? 俺でも台車がないと持ち上がらねぇんだぞ?」
そういって、片方の男は自慢の太い腕を見せつけるように力こぶを作る。
「だろうな? だが俺は持ち上げられるぜ?」
もう一人の方は、力こぶを作った相手に見せつけるように、自分のカボチャを少しだけ持ち上げた。
「へ! そりゃお前のカボチャの方が軽いからだろ?」
「なんだと!」
再び二人は細身の男性を余所に、争いだそうとする。
それを、声を出して細身の男性が止めた。
「まってください! 喧嘩なんかしちゃだめですよ! 僕が測りますから落ち着いてください!」
その言葉に、争う二人はこめかみ血管を浮き上がらせて細身の男性に、同時に振り向く。
「そこまで言うならやってみろ! 少しでも持ち上げられたらお前の判断にしたがってやる」
「ああ、おれもそれでいいぜ? できるもんならな」
二人の提案に、司会は一瞬考えるように眉を寄せたが、後ろのテントで話し合っている運営人の判断はまだかかりそうだと思って、時間稼ぎには丁度いいと了承する。
「お二人が良いのでしたら司会の私の責任で、それで決定としましょう!」
ははは、と乾いた笑が見学者達の輪から上がる。
誰一人、その細身の男性がカボチャを持ち上げられるなんて信じてはいないようだ。
「あ、そうそう! 私が協力するかわりに、勝利された方にはちょっとお願いを聞いて頂きたいんですが……よろしいでしょうか?」
そんなか、空気の読めない細身の男性から、当然のように交換条件が提示されて会場が静まり返った。
彼の場違いな発言に、だれもが呆れかえったからだ。
「ああ、もうなんでも聞いてやるから、やれるもんなら早く抱えろ。 お前もいいよな?」
「かまわん、どうせ持ち上げられやしない、時間の無駄だとは思うがな」
争う二人は互いの顔を見て頷きあった。
「わかりました、それでは測らせて頂きますね!」
二人の言質をとった細身の男は、嬉しそうに笑うと大きな二つのカボチャの片方に抱き付く。
「よいしょ」
驚いたことに、カボチャはすっとその細身の男性に、軽々と持ち上げられる。
会場は先程とは別の意味で静まり返る。
争っていた二人や司会も、当然顎を外しそうな程に大口を開けて驚いている。
「うん、だいたいの重さは分かったよ。じゃぁもう一個も測るね」
細身の男性は、静まり返っている会場の空気には一切気が付かないかのように、呑気な声でそう言ってもう一個のカボチャも軽々と持ち上げた。
「うん、OK! わかったよ!」
満足そうな顔して、細身の男性は争ってた二人の方を見る。
「うん、最初のカボチャの人の方が重かったよ! そっちの彼が勝利だね」
会場の誰一人も状況について行けてない中、細身の男性はゆっくりと重かったと言った方のカボチャの持ち主の前に立つ。
「それじゃ、君には僕の用事を手伝ってもらうね」
細身の男性は不気味に口角を上げて笑ったかと思った瞬間、勝利した男の顔がカボチャに変わる。
「ちょうど僕の使い魔が欲しかったところなんだ、今日から君は僕の使い魔だ。よろしくね」
これって何かのパフォーマンスなのか? と言いたげな目で、負けた方の男性が司会を見るが、司会はぶんぶんと首を振って知らないと否定する。
周囲の見学者達の中からも、パフォーマンスなのだろうと気が付いて、微妙に乾いた笑がいくつか聞こえるが、いまだだれも状況を掴めていなかった。
そんな微妙な空気の中、細身の男性はカボチャ頭になった男性の手を取ると、そのカボチャ頭の男性に微笑みかける。
「それじゃいこうか、このあと僕もカボチャ勝負なんだ」
誰もが理解の出来ない状況に身動きできない中、細身の男性とカボチャ頭の男性は会場を後にした。
会場には暫くの間、戸惑いの声だけが響いていた。
そして、そのカボチャ頭になった男性は二度と姿を見せる事無く、この町でカボチャの大きさを競う大会は開かれる事は無かった。

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。