蒼の瞳を眼鏡越しに肇は探るように見ている。蒼は、ジッと瞳を見つめ返しながら口を開いた。
「出来れば、鳥がいいな。カラスか鳩、スズメもいいかもな。あと、目にカメラを仕込んであるとなお嬉しい」
「……えっと、君は何をする気だい?」
「"サーカス"が計画を進めるのは7月。だからさ、それまで俺の代わりに動きを見張ってくれる目が欲しいなって思ってさ!」
蒼は曇りなき瞳でただ、肇の瞳をのぞき込む。
「……神庭。この小学生はなんだ。朽梨君経由で神庭のところにいるこの少年を巻き込むようには言われていたが」
「誰が小学生だ! 俺は中学生だ!」
「えっとね、一宮。蒼さんは女性だよ?」
得体の知れないものを見るような目で蒼を見ながら腕をさする肇に、蒼はいつも通りに噛みつく。
その様子を見ながら、琉架はニコニコと微笑み、肇にとっては爆弾になる発言をした。
ガタッ。
肇は椅子から立ち上がる。その勢いで座っていた椅子が音を立てて倒れた。
眼鏡越しでも目を見開いているのが分かる。
「……中学生? しかも女?」
唖然とした様子の肇に何故か昴が同意するように静かに頷いていた。
「一宮さん、蒼のことは御影島七不思議として片付けてください。駿河家では、それで通っている」
「ちなみに、他の七不思議は?」
「吹雪の隠れ家数と交友関係」
「それなら、許す!」
すぐに蒼は葵に食ってかかったが、七不思議に唯華もきちんと数えられていたことを確認すると、納得して話を終わらせた。どうせ七不思議も駿河家の食事中の雑談から生まれたお遊び程度の物だろう。本当に七不思議として7つで収まっているのかも怪しい。
葵もそれを分かったうえで言ってるなと蒼の直感が告げる。
もう少し掘ってもいいが、今の優先順位は違うなと諦める。
「それでお兄さん、鳥の人形貸してくれる?」
「……丁重に扱うこと、それと出来るだけ早期解決をする。この2点を厳守するのなら、ちょうど今作りかけのカラスの人形を貸すよ。あげるわけじゃない、貸し出しだからね?」
「おう! 用が終わったらちゃんと返すから安心して」
念を押すように言う肇に蒼は笑って返す。それを聞き、肇は立ち上がった。
「この後の予定は? もうほとんど完成品だ。君が言ったように瞳をカメラに変えるとしても1時間もかからずに完成する。それまで待つか、後日の受け渡し、どっちがいい?」
「そんなにすぐ出来るんだ。……琉架さん、時間大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。この後に宮端商店街に行くんだよね?」
「うん、あの雑貨屋みたいな変な店覗きたい。というわけで、俺らの時間は大丈夫!」
「わかった。すぐに取りかかろう。朽梨君、後で瞳に入れる用のカメラだけ届けてくれ」
肇は葵に指示を出しながら、簡易キッチンの反対側にある部屋へと続く引き戸を開ける。
そこが現在の肇の工房のようで机の上に工具や作りかけと思われる作品が乱雑に置かれている。
肇はすぐに工房に入ると扉を閉める。
残された4人は顔を見合わせた。
「一宮さんは、作成中に見られるのを嫌うからな。出来たら出てくるだろう。俺は、吹雪に人形の瞳に出来るようなカメラがあるか確認の連絡を入れてくる」
葵も、携帯を片手に入ってきた階段へと続く扉を開けて室内から出て行く。
「あの……」
葵の後ろ姿を眺めていた昴が、おもむろに声を上げた。
「すーさん、どうした?」
「いえ、あの、きちんと自己紹介をした方がいいのかと思いまして」
控えめに琉架を見ながら昴は気まずそうだ。
そういえば、さっきの自己紹介の時も琉架と肇は知り合いだったから簡単な名前の紹介でさえ省いていたなと蒼は思い出す。
琉架を見ると、琉架もその事実に気付いたようで、体ごと昴の方を向いた。
「そういえば、お互いへの自己紹介だけはしていなかったね。僕は神庭琉架。蒼さんとは、まぁ家のことで顔見知りで、一宮とは小中高と同級生なんだ」
「あの、先程蒼さんに神庭会の次期組長だとお聞きしたのですが、貴方も能力者ですか?」
「あっ、違うよ。俺は能力者じゃない。能力者を守るって理念から立ち上がった組織だけど、何故か神庭の血筋は能力者が生まれにくいんだよね」
「そうなんですか」
昴は少し考えるように視線を横に流す。そして、意を決したようにまっすぐに琉架を見ながら右手を差し出した。
「私は日向昴です。先程、一宮さんが話したというのもありますが、神庭会のことを知った手前、こちらの情報を隠すのはフェアではないですもんね。"サーカス"を創設した者の1人で、一応リーダーをさせていただいています」
「そっか、よろしくね。昴君」
琉架は昴の手を握り返して握手をする。その様子を見ながら蒼が、「あっ」と声と同時に手を上げる。
「この流れで、琉架さんにアイさんについても紹介した方がいい気がしてきた」
「えっと、蒼さん。流石に本人がいないときに、それは……」
すぐに昴が止めようとしたが、蒼は無視する。
「アイさんは、琉架さんや俺と同じ無能力者! で、吹雪の手下みたいな立ち位置に好んでいる常識人だよ。あとで、琉架さんも連絡先交換しといてもいいかも。情に訴えれば、大体、利用でき――」
「おい、蒼」
笑いながら話していた蒼は背後に気配を感じて振り向く。そこには無表情の葵がいた。
「あっ、アイさん。連絡取れた? ゆ……吹雪は何だって?」
「はぁ……。月陽経由ですぐに届けるそうだ。別件で来宮博士に小型カメラを依頼していたらしい……と、来たな」
蒼を見て盛大にため息をはきながらも、律儀に葵は連絡の結果を教えてくれる。そして先程までお茶を飲んでいた机を見て呟いた。
蒼もすぐに視線をそちらに移すとそこには、先程までなかった箱が置かれていた。
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