そのあとは真っすぐ家に帰った。そしてバッグを机に置きベッドに倒れるように寝転ぶ。
「はぁー。なんか俺だっせーな。結局何にもできないじゃん」
最初は何かできるし絶対してやるって思ってたけど実際にお墓を目の前にして感感じた。俺には何もできない。せめて彼女が大事にしてたあのお店をどうにかしてやりたいけど今の俺がどうこうできることではないことは分かってる。だけどそんなことで諦めてしまう自分に無性に腹が立つ。
「くっそー」
それから最低でも週に1回はお墓参りをした。だけど今まで以上に勉強に力を入れ有名大学に見事合格し地元を出てからはその回数も減った。だけど帰省した時は必ず訪れていた。それから時が経ち俺も立派な社会人として生活していた。その頃には働いて働いて帰省も全然してなかった。そして30手前の時、会社を辞め帰省した。結構いい企業だった会社を辞めた理由は2つ。
1つは昔と変わらず白川春奈さんの為に何かしたいという気持ちがあったこと。確かに彼女の事は好きだったけどもうその辺の気持ちの整理はついたし今までも何人かの素敵な女性とお付き合いしていた。
もう1つはあの古本屋が売りに出されているのを見つけたこと。立地も悪い場所だったから格安だった。即購入した。
もちろんそれは色々な人に反対された。こんな場所で儲けは出ないと。俺だってそれなりに勉強してきたしそれは分かってる。だからこのお店と合わせてネットを使い仕事をすることにした。これで恐らくやっていけるだろう。そして今、あの本屋の前に立っている。
「やっと。あなたのために。いや、もしかしたらこれは俺のただの自己満かもしれない」
そう呟きながら俺は握った鍵でお店の戸を開けた。中は埃がすごい。思わず咳き込む。
「まずは掃除だな」
白川春奈という1人の女性の物語が綴られた1冊の小説。それを読んで以来俺は、本を読むようになった本の楽しさが素晴らしさに気が付いた。だからこれはお礼でもある。たった1度会っただけの少し話しただけの女性に惚れて彼女のために古本屋を買う。バカだな。多分友達にそんな話されたらそう言うだろうし、止めると思う。だけど人が人を好きになるなんてそんなものだろう。とりあえず今言えることは俺が落ちた恋はあまりに深くそして美しかった。
「もしよければ生まれ変わったら来店してください」
そして順調に準備を進め無事開店することが出来た。まぁ思った通りお客は全然来ない。そんなある日、俺はレジカウンターに座り暇をしていた。
「久しぶりにあの本読もうかな」
それはあの日この場所で借りた本。
「あれ?こんな題名だっけ?」
本の表紙には『幸福な女』と書かれていた。
「まぁいいか」
そして本を開き6回目となる読書を始めた。すっかり読むスピードも速くなったこともありあっという間に読み終えたが、なぜか終わりが違っていた。
『あぁ...意識が遠の..いていく。これでもう...。―――私は死んだ。だけど誰にも覚えてもらえてないっていうのは本当に消えてしまったみたいで寂しい。私の宝物であるこのお店が無くなっちゃうのは寂しい。そんなことを思っていたら汗だくの男の子と出会った。私はその子に私という不幸な女の人生が綴られた本を渡した。少しでも覚えていてほしくて。だけどその子はそれから毎週私のところに来てくれた。嬉しい。かと思ったらある日を境にその回数も減った。そしてついにその子は来なくなった。寂しい。そしてそれから何年か経った頃、再び男の子がやってきた。私のことを忘れていたわけじゃなかった。それどころかあのお店を買ったと嬉しそうに言っていた。その表情を見て私は分かった。この子は私を忘れない。あのお店もなくならない。それが分かった途端、なぜだか温かな光に包まれたような気分になった。ありがとう。感謝の気持ちが溢れる。私は不幸なんかじゃない。こんなに素敵な人に出会えたのだから。きっと誰よりも幸福だ』
そして最後の白紙のぺージに書かれていた文字は変っていた。

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