そして住職さんについていくと裏手にある墓地に入り、ひとつのお墓の前で立ち止まった。手入れのされた墓石に刻まれていた名前は『白川春奈』。お墓という亡くなった証明を目の前にし俺は現実を突きつけられたような気がした。
「ここは身寄りのない方々のお墓なんです。出来る範囲だけどそういう方々のお墓を作ってあげて毎日手入れしているんです。無縁墓地も可哀想ですから。彼女もその一人。ご家族も見つからなくて私がここに埋葬させてもらいました」
「春奈さんとは面識はあったんですか?」
「いえ。ですがこの町でしかもあんなことがあって自ら命を絶ってしまった彼女にはせめて安らかに眠ってほしかったもので。あなたも彼女を知っているなら手でも合わせてあげてください」
そう言い残すと住職さんは戻って行った。俺は墓石の文字に目を落とす。
「白川春奈さん。名前も初めて知ったな。俺はあなたを何も知らない。だからどんな思いで命を絶ったのかも、なんで俺の前に現れたのかもわからない」
俺は手を伸ばし墓石に刻まれた名前に触れる。
「俺に何を望んでいるんですか?」
だが返事はない。たった一度あっただけのちょっと話しただけのお姉さん。たったそれだけの関係なのになぜかこのまま忘れたらダメな気がする。何か俺に訴えている気がする。
「惚れちゃったからそう思ってるだけなのか?」
そんなことを呟いていると、ふと、あることに気が付いた。
「たしかあの本の主人公も白川春奈だったような...」
俺はバッグから本を取り出し開いた。そこには白川春奈の文字が確かにあった。
「これってもしかして..。お姉さんの人生?」
そう考えた時、古本屋で出会ったおばあさんの言葉を思い出す。
「悪い男に騙されて借金まみれ、そして最後は自殺...。同じだ」
俺の頭には自然にあのお姉さん、春奈さんを思い出した。
「自殺の方法は首つりって書いてあるけど、もしかしてあのチョーカーの下には跡があったのか?それにもしこの本が春奈さんの人生だとしたらこの終わり方も自然なのかもしれない」
俺は最後の文字を指でなぞる。
『息が出来ず苦しい...だけどもう終わるって考えたら気持ちは楽。もっとこの本屋さんで色々な人や本と出会いたかった。バイバイ、私のお店。私の宝物。あぁ...意識が遠の..いていく。これでもう...』
「春奈さんただ本が好きで自分のお店を持ちたかっただけだったのかな」
本を閉じ再び墓石を見る。
「男への復讐。あのお店をどうにかしてほしい。どちらにせよ中坊の俺にはどうしようもないよな」
どれだけ何かしたくてもしょせんは中坊の俺にできることなんてそう多くない。
「せめて毎日は無理でも週1ぐらいはここに来ることぐらいしかできないのか」
初めは春奈さんのためなら何でもやってやるって思ってたけど現実は何もできない。所詮気持ちだけで何の力にもなれない自分に俺はガッカリした。
「それにあなたを追いかけてもこの手が届くことはないのか。いやぁ、諦められっかなぁ。でもずっと好きでい続けたら俺一生彼女出来ないしなぁ」
そんなことを呟いていると住職さんが水桶とお花を持ってきた。
「よければ水でもかけてあげてください。毎日暑いですから少しでも涼んでいただきたいので」
住職さんから水桶を受け取ると水を墓石にかけた。そのあと、住職さんがお花をを取り替える。そして俺たちは手を合わせた。
「彼女のために何かできることってないんですかね」
「どうですかね。実際問題、彼女自身が何を望んでいるか私達には知る術がありませんからね。ですから、私達にできることは彼女を忘れずたまにはこうやって手を合わせることぐらいです。ですがそれが彼女のためになっているかどうかは分かりません」
「無力ですね」
「そうですね。ですから大切な人には生きているうちに感謝を伝えたり何かしてあげたりするべきですよ。あなたも少し恥ずかしいとは思いますがまずはご両親に日頃の感謝を伝えてみてはどうですか?」
「そうします」
「それでは私はこれで。いつでもお参りにいらしてください」
「はい。ありがとうございます」
住職さんは水桶などを持って戻って行った。それからもう少しの間だけそこにいた。
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