金属板を継ぎ接ぎした門の前で、二人は足を止めていた。
「銀貨四枚だ」
門番が言った。
獣の口から漏れる息は生臭かった。黄ばんだ牙の隙間には、さっき食ったばかりらしい肉の繊維が挟まっている。舌が動くたびに、それがぬらりと揺れた。
門柱の根元には、蹴り出された死体が転がっていた。腹部は何かに食い破られたように裂け、汚れた服の隙間から黒ずんだ肉が覗いている。すでに蠅が群がり、傷口に潜り込んでは羽音を立てて飛び立っていた。
「そんな銀貨ない」
「なら、金になるもんなら何でもいい。硬貨でも金属片でも、使える部品でもな。銀貨四枚分出せ」
「ずいぶんと良心的なシステムだね」
クロウがそう言うと、門番は銃を肩に担ぎ直した。留め金が擦れて、ぎちりと鳴る。
「文句があるなら出ていけ」
「入る前に言ってくれればよかったのに」
「聞こえなかったのか? 出ていけ」
「いや、聞こえてるよ。あんたの耳が悪いのかと思ってさ」
隣でジェスが吹き出した。
門番の眉間に皺が寄る。クロウは肩をすくめ、荷物を探り始めた。
その間にジェスは色々と入った小袋を渡し、納得を獲得していた。
「ええと、これと、これと……あと、これなんかどう?」
掌に並べたのは、錆びた金属片が二つと、何かの機械から引き抜いたらしい小さな部品だった。
門番は品物を一瞥した。
「こんなもんじゃ足りねえ」
「厳しいな。こっちは精いっぱい誠意を見せてるんだけど」
「誠意で飯は食えねえんだよ」
「よーよー。見せるぜ精一杯の誠意。戦々恐々としたこの世界、線引き傍観じゃ、先祖も説教すらせんぜ!」
突然、ジェスが身振り手振りを交えて下手なラップを始めた。
門番とクロウの視線が、一瞬だけ彼女に集まる。
しかし二人とも何も言わず、すぐに互いの顔へ視線を戻した。
「さっきから飯の話ばっかりだね。腹減ってんの?」
「撃たれたいのか?」
「いや、あんたの昼飯が心配でさ」
ジェスがまた笑った。
クロウは品物を引っ込め、今度はポケットから別の物を取り出した。使いかけの工具に、何本かの金属製の留め具。それから、くしゃくしゃに丸まった紙幣。
門番は紙幣を摘まみ上げ、夕陽に透かして確かめた。
「札はいらねえ」
「燃やせるよ?」
「お前の頭を燃やすぞ」
「おぉー、こわっ」
クロウは紙幣を仕舞い、ジェスに目を向けた。
「何か持ってない?」
「なんであたしが出すんだよ」
「二人分だってさ」
「自分の分くらい自分で払えよ」
「分かった。じゃあ、あたしの分も出して」
「ふざけんな」
ジェスはポケットに手を突っ込みかけ、すぐに引き抜いた。
指先に触れたのは、朝、自販機の下から拾った黒ずんだ硬貨だ。あれは自分のものだった。入場料なんかに使うつもりはない。
そもそも、あの硬貨にどれほどの価値があるのかも分からない。うまく使えば、酒の一本くらいにはなるかもしれないのだ。
そんなものを、こんな門番に渡してたまるか。
「ほら、これでどうだ」
その間にクロウが別の金属片を差し出した。
門番は受け取り、重さを確かめるように指で弾く。乾いた音がした。それから、じろりとクロウの顔を見た。
「もう一つだ」
「欲張りだなあ」
「嫌なら帰れ」
「はいはい。分かったよ」
クロウは渋々、もう一つ部品を差し出した。
門番はそれを懐へ収めると、ようやく脇へ退いた。
「次!」
二人は門を潜った。

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