太陽の日差し、キラキラと光りを反射する海。
火照る身体、そして足元には波が押し寄せた。
赤色のクロックスの靴底がジャリジャリと音をたてている。
それと同時にクロックスの小さな隙間から海水が流れ込んで、足元は一気に冷える。
下の砂利とは別の、鉄のような鋼のような、何か硬い金属がコツンと右足の小指側にぶつかる。
自分の身体で日陰になっているその真下辺りを、目を凝らして見る。
硬い金属は向かい側にもう一本、視線を上げたその先まで果てしなく長く続いていた。
互いの金属の棒の中に閉じ込められている細長い木の板が間隔を開けて置かれている。
ここは電車のようなものが走っていた場所だろうか?
にしては設備が古くさいのだが。
ならばこれはトロッコのレールだろうか?
と自分勝手に想像をする。
波の音が耳に響く。
この線路の先にある景色が見てみたくなってしまった。
例えずっと同じ景色が続いていようとも、もしくは変化が訪れていようとも。
今はただ、この波に少し逆らって、歩きたい。
目的さえ放棄したこの海上散歩は、果てしなく発達した入道雲が上から嘲笑うかのように、太陽を遮った。
__ああ、ずっと続けばいいのに。
__この線路の先にあるモノが永遠だったら、もっと良かったのに。
*
例えばの話。
ゲームの世界の人間になれたら、どんなジャンルがいいだろうか?
攫われた王女を助けるために、怪しげな竜や魔王を倒しに行ったり、時には農業を営んだり、時には恋をしたり……年代を重ねるにつれて、今日至るまでゲームは色々なジャンルを創り上げてきた。
1975年頃には実在したとされる家電用ゲーム機、その中で繰り広げられる物語の中に、自分自身が入れたら、と思った事は無いだろうか?
そんな夢を持った若者達が総力を挙げて造ったのが『Midnight(ミッドナイト)System(システム)』である。
通称ミッドナイトと呼ばれるそのウェアラブル端末は、人間の五感のコピーをネットワーク上に保存、ミッドナイト内に保存されたデータ内で、現実の身体は活動せずに、あくまでデータ内で動いたりする事が可能である。
現在はイヤーカフ型と、ゴーグル型、ヘルメット型等が販売されている。
さて、そんな夢のようなマシンを使えば、ゲームのデータをアップロードするのは実に容易である。
ミッドナイトの特性を理解したゲーム会社、ゲーマー達は、かつて自分達が焦がれたあのゲームの世界に行けるのだと、希望を胸一杯に抱いた。
*
男は、ゲーム屋で配布されていたパンフレットと、先程購入したゲームソフトを握りしめ、走り続ける。
春の東京都は少しだけ肌寒さを感じさせつつも、人々の活気で溢れかえっている。
午前11時ともなると、交差点での人の多さは異常だ。
男は素早く、器用に人混みを避けながら、自身の自宅へと急ぐ。
今日は男が待ちに待ったあるゲームの正式サービス開始日。
この日のために、バイトを詰めに詰めて、思いっきり楽しめるように休日も取った。
電車に乗り、駅から暫く走って住宅街へとはいる。
年季の入ったアパートのドアを音を立てずに、しかし急いで開ける。
男は早速、手を洗って、パッケージの封を破り、ミッドナイトとノートパソコンを同時に起動する。
途中で同居人が寝室からやってくるので、一声掛ける。
「リンさん、俺今から行ってくるから」
「そっか、気をつけてね」
リンさん、と呼ばれる男の同居人は、欠伸をしながら再び寝室へと戻る。
夜勤明けらしいので、男は必要以上に物音を立てずにゲームソフトを自分のミッドナイトへアップロードし始めた。
15%……30……60……90……100%の表記まで来たのを合図に、男はミッドナイトを身体に装着し、身体を横へ。
鳴り響く効果音と、次々と現れるユーザー案内の窓、そして__『アルコーンストラテジー』のタイトルが盛大に現れる。
次の瞬間、男の意識がスーッと遠のいていく。

コメント 1件
佐武ろく2026.10.24
こういうフルダイブ系は、一度でいいから体験してみたいですね。手始めはゆったり系のゲームからが良いですね
コメントありがとうございます!! いきなり視界が急転するゲーム(例えばFPS物や操縦系)なんかは確かに酔いそうでキツそうですよね。 自分もやるなら先ずは牧場系や建築系等がいいです!!