――ピー……ピー……ピー……
等間隔で鳴り響く冷たい機械音。
キャスターと人の駆ける音。
「菊田さん? 聞こえますか? 菊田さん?」
必死に呼びかける医者の声。
あたしは遠ざかっていくその姿をただただ立ち尽くしながら見つめるしかなった。不安と恐怖で激しい運動をしたかのように心臓は脈打ち、息は浅く荒れている。胸の中でどんどん膨れ上がる二つの感情の所為で気分が悪い。
だけどそれ以上にあの子のことで頭は一杯一杯。
――もしダメだったら? いや、きっと大丈夫。でももしこのままあの子が……。
大丈夫だと無理やり言い聞かせようとするけど、最悪の未来はそれを押し退け頭を埋め尽くす。
――もし……、もし……、もし……。
それが何の根拠もないただの嫌な妄想だということは分かってる――けど、どうしても考えてしまう。それが自分で自分を不安にさせ更に追い詰めてしまっているって事も分かってるのに……。
だけど、でも――その言葉が考えたくもないことを連れて来る度に嫌という程に強く速い鼓動を感じる。速く浅い呼吸が聞こえる。気分が悪い。目の前が少しぼやける。
頭がおかしくなってしまいそうだ。
そう思っていると少し足元がふらつく。
すると誰かがそんなあたしの両腕へ優しく触れ支えてくれた。
「きっと大丈夫ですよ。さぁ、あちらに座ってましょうか」
看護師のお姉さんはその手同様に優しい声であたしを落ち着かせようとしてくれた。その優しさに思わずお姉さんに寄りかかる。彼女は何も言わず優しく受け入れてくれた。
不安と恐怖ですっかり縮こまり震えていたあたしの体もお姉さんの優しさで多少は和らぎ歩ける程には落ち着いた。優しく体に触れる人の温もり、微かに香る柔らかな香り。ゆっくり歩いている間に何度か深呼吸をするぐらいには余裕が生まれた。
そしてお姉さんに抱き着くように覚束ない歩みを進めては通路へ並んだ椅子に腰を下ろす。
「ありがとう……ございます」
今にも消えそうな声だったがここまで連れてきてくれた事、何より少し落ち着かせて貰ったことへのお礼を伝える。それに対してお姉さんはやっぱり優しい笑みを浮かべ「きっと大丈夫ですからね」って言ってくれた。
それからは何度も何度も立ったり座ったりを繰り返しながら、自分に大丈夫だと言い聞かせ只管に待った。
座りながら時折、指を組み神に祈る。
『神様どうかお願いします。あたしのたった一人の可愛い妹を、桃奈を連れて行かないで下さい』
だけど、こんな時だけ都合よく助けを求めるあたしの願いなど聞いてくれるのか? そんな事を考えてしまいながらも今のあたしは、縋れるなら何だって縋る。例えそれが存在するか分からない神だったとしても。
それと待ちながらあたしは何度か姉とのラインをチェックしていた。でも相変わらずそこに既読はない。終わりの来ないようなこの不安と同じで永久に読まないんじゃないかってつい思ってしまうのはきっと、あたしに余裕が無いからなんだろう。
だけど八つ当たりするようにあたしの中では若干の苛立ちが込み上げていた。
「なんでこんな時に……」
そう呟きながらも中々既読が付かないのは仕方がないって事は分かってる。姉の陽南は海外で働いていて忙しくしているんだから。海外に行ってからは普段も返信は遅いし。だから仕方がない。
あたしはそれからもただただ待った。だってそれしか出来ないから。
時間はあたし達なんかには無関心でいつも通りの速度で時を刻む。だけどその中にいるあたし達の感じ方が変化するせいで今は途轍もなく長く感じる。時計を見ても見ても数字は進まず、待っても待っても終わらない。
時折、不安に押し潰されそうになる。だけどあたしがここで耐えたところで吐いたところで祈ったところで何かが変わる訳じゃない。例え今あたしが陽気にポップコーンでも食べながら映画を見てたとしても関係ないぐらいには、今のあたしは部外者なんだから。

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