南の四天王・リゼルカの玉座の間➖➖
床に倒れているリゼルカ。
その隣では、セポネが頭を抱えていた。
「リゼルカァァァァァ!!何で?なんでじゃ!」
「……だから、トドメ刺したの魔王様ですからね?」
「うるさい!妾は悪くない!認めない!」
「いや、どう考えても……」
「悪くないったら悪くない!なんで妾のせいにするのじゃ!」
カヅチは呆れながらも、ため息をつく。
「とりあえず……生き返らせてあげてください」
「はぁ、言われなくても分かっておるわ!今やるところじゃ…」
セポネがリゼルカへ手をかざす。
すると……淡い黒い光がリゼルカの身体を包み込んだ。
しばらくすると、リゼルカの指がピクリと動くそしてゆっくりと目を開く。
「……ん……」
「リゼルカ!起きたか?」
セポネが顔を覗き込む。
「あ……魔王様……?」
「おお!気が付いたか!」
「……私、死んだんですね…。記憶が曖昧…確か、首を絞められて…」
リゼルカは少しだけ身体を起こす。
そして、穏やかに微笑んだ。まだ少しぼんやりしているものの、その表情からは先ほどまでの苦しさが消えていた。
「……いつも……ありがとうございます」
「あはは!礼には及ばん!」
「……今回殺したの、あんただけどな……」
その横でカヅチが小さく呟く。
「……あぁん?」
セポネがゆっくりカヅチを見る。ジロリ。
「………あはは……目が怖いよ……」
カヅチはゆっくり視線を逸らした。
◇◇◇
そしてカヅチは、リゼルカの前へ歩み出る。
「リゼルカさん」
「はい……?」
カヅチは深く頭を下げた。
「戦いの中とはいえ……嫌な思いをさせて、ごめんなさい」
リゼルカは少し驚いたように目を開く。
そして、ゆっくり首を横に振った。
「いいえ……立場が違えば、仕方がないことです。私も……あの時は、あなたを殺すつもりでしたから…。だから……もう、いいんです」
リゼルカは小さく会釈する。
「……ありがとうございます」
カヅチも顔を上げる。
二人の間に、ほんの少しだけ穏やかな空気が流れた。それを見たセポネが嬉しそうに笑う。
「ふふ……仲直りもできたようじゃの!」
「……まあ、はい。おかげさま?で…」
「よし!カヅチよ!」
セポネはパンッと手を叩く。
「はい!なんですか?」
「本題の掃除と修理じゃ!」
「あはは……ですよね」
「妾も手伝うぞ!」
「えっ……いや……魔王様は……壊すんじゃ…」
カヅチの顔が引きつった。
「なんじゃ?壊す?笑わせるな!魔王に不可能などないのじゃっ!!それを踏まえてもう一度言ってみぃ?」
「……いえ。何でもありません。 ふぅ、よしっ!お任せください!新築並みにピカピカにしてみせます!」
カヅチは箒を構え、ニヤリと笑った。
◇◇◇
そこから、怒涛の大掃除が始まった。
「泥汚れ!【水拭き】!」シュババババッ!!
床に積もっていた土の塊が一気に消えていく。
「うおおおお……!す、すごい……!」
それを見ていた氷の羊の魔獣が目を丸くする。
「何だあの箒……!汚れが一瞬で消えていくぞ!」
カヅチは壁を磨き、床を拭き、柱を修復していく。
箒が走るたび、汚れが消え、傷んだ場所が元の姿を取り戻していく。ひとつの作業を終えると、カヅチはすぐに次の汚れを見つけて動き出した。
まるで、城全体の汚れが頭の中に見えているかのようだった。
「こんなしつこい頑固汚れには【高圧洗浄】!ベタベタの血液汚れには【血液除去】!!」
そして……
「ここ、ヒビが入ってますね!【修復】」
箒の柄をかざす。パァァァ……ひび割れていた柱が、元通りになっていく。
カヅチの掃除を見て魔獣たちは言葉を失う。
「これが……俺たちを殺した元勇者……?」
「勇者って、こんなこともできるのか?」
「いや……」別の魔獣が首を横に振る。
「今は……魔王様の玩具兼清掃員らしいぞ」
「玩具兼清掃員……?すげぇ……」
カヅチはその声を聞いて、少しだけ笑った。
「勇者じゃなくても……何かの役には立てるんですよ」
再び箒を高速で動かす。
「シュッ!シュッ!シュッッッッ!!よし!ここオッケー!」
◇◇◇
カヅチが綺麗にしているその横では……
「カヅチ!ここは妾に任せろ!」
セポネが崩れた壁に手をかける。
「魔王様、それ結構重いですよ」
「はぁ?重い?誰に物を言ってるのじゃ!?ふんっ!!」
ズゴゴゴゴ…… 壁が持ち上がっていく。
「ぐはははっ!見てみい!!よし!」
「おおっ!さすが魔王様!」
「こんなもの、楽勝じゃ!」
そしてセポネの腕の筋肉がモリモリと隆起して壁にメリメリと力が入っていく。
「……あ、魔王様……ヒビ…」
ビビキキ……バキッ。壁が真っ二つに折れた。
「「…………」」
「……魔王様。その壁直そうと思った壁……ですよね?」
「……うむ。そのつもりじゃ…思ったより脆かったの…」
無言でセポネを見つめるカヅチ。
「……すまん。次は優しく触…」
「もう手伝わないでください」
「なんで食い気味に言うのじゃ!傷付くじゃろっ!」
◇◇◇
カヅチとセポネでギャーギャーしてるその頃。
リゼルカは城の外に出ていた。氷の魔獣たちに囲まれながら、久しぶりに笑っている。
「リゼルカ様!もう大丈夫なんですか!?」
「うん……ごめんね。心配かけちゃって」
リゼルカは小さく笑った。
「……なんだか、すごい久しぶりに感じるね…こうやって……みんなと話すの」
ほんの何気ない、いつもの会話だった。
特別な話題も、気の利いた言葉もない。
それでも、誰かの声に笑い、誰かの顔を見て笑える。そんな当たり前の時間が、今のリゼルカには何より嬉しかった。
そんなリゼルカの笑顔を見て魔獣たちは顔を見合わせる。そして……
「……そうですね!」
「久しぶりです!」
「じゃあ、今日は宴会にしますか!?」
「うふふ、いいね〜。私、担々麺食べたい」
「あはは!リゼルカ様は辛いの好きだから!」
遠くからカヅチとセポネの声が飛んでくる。
「おいっ!魔王!もうやめろって!そこの穴は塞いだばっかりですから!」
「あっ!?お主!今、“様”忘れたな!ちゃんと敬え!そして妾にひれ伏せ!」
「掃除に関しては俺のが上です!だから今日から掃除の時はお前敬語な!」
「ぶぅわぁっかっ!!もう知らん!手伝わんぞ!」
「だから筋トレしてていいって言ってるでしょ!」
そんな様子を見てリゼルカは笑った。
「ふふ……魔王様楽しそう。」
その笑顔は、以前とは少し違っていた。
恐怖に閉ざされていた城に、少しずつ明るい声が戻っていく。
◇◇◇
そして……空が赤く染まり夜が始める頃。
カヅチは最後の玄関の床を磨いていた。
シュッ。シュッ。最後の汚れが消える。
「オッケー!…………終わったぁ〜」
カヅチはゆっくりと背伸びをする。
その視線の先には、見違えるほど綺麗になった城があった。
「……すご〜い。こんなに……綺麗になるんですね」
リゼルカの言葉にカヅチは胸を張る。
「あはは!はい!掃除なら任せてください!たぶん勇者の頃より向いてるかと…あはは!」
カヅチの笑顔を見てリゼルカは嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます……カヅチさん」
「いえいえ…半分以上、俺たちが壊したようなもんですから…」カヅチも笑った。
その光景を見ていたセポネが、満足そうに胸を張る。そしてマントを翻す。
「よし!掃除は終わったな!リゼルカよ!引き続きこの地を頼む!」
「はいっ!魔王様!」
「あははっ!堅苦しくなるな。また来るぞー!」
「……はい!綺麗にしてお待ちしております。」
「よーし!カヅチ!走って帰るか?」
セポネがカヅチを見る。
「はい?帰りも?」
「……問題あるか?」
カヅチは遠くを見る。そして、力なく答えた。
「……はい……分かりました」
だが、カヅチが数歩歩いたところで……
「………お、おっ、」
カヅチの身体がフラッと揺れる。
「おっと、大丈夫か?」
セポネが咄嗟に支える。カヅチは苦笑する。
「……はい……さすがに……城一つ掃除したら疲れました……」
「ふむ……」ル・セポネは少し考える。
「よし!今日は特別じゃ!」
「……特別?」
次の瞬間。
「うわっ!?」カヅチの身体が浮き上がった。
セポネに抱き上げられている。
「……魔王様?」
「なんじゃ?」
「普通……こういう時っておんぶじゃないですか?」
「お主……妾の胸、好きじゃろ?よく見ておるではないか?」
セポネがニヤリと笑う。
「……いや、まぁ、否定はしませんけど……」
「ふふふ。なら、今日は……頑張ったご褒美じゃ♡」
セポネはカヅチをぐいっと抱え直す。
カヅチはしばらく黙っていた。
だが……ゆっくりと胸に顔を埋めていく。
(……なんだよ……ここ、めっちゃ……甘い匂いするな……やば……眠……)
疲れ切った身体から、力が抜けていく。
カヅチはゆっくり目を閉じた。
◇◇◇
そして……カヅチが目を覚ます。
「ん…ここ、どこ?」
見慣れない天井。柔らかなベッド。
そして辺りを見渡す。
「……ここって…」ゆっくり身体を起こす。
そこは、魔王城。セポネの部屋だった。
カヅチは自分の身体を見る。
「何で裸?」そして、数秒固まる。
ゆっくり布団を握る。
「…絶対……」顔を引きつらせる。
「俺……イタズラされたよな……」
部屋の外からセポネの笑い声が聞こえた。
「ふふふ……可愛かったぞ♡」
「ふぐっ!……俺にプライベートって……ないんだな……」
カヅチは真っ赤な顔を手で覆い天井を見上げる。
こうして魔王城の夜は、静かに更けていった。
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