SERAPHの中心部から少し離れた場所。
クロス商会が所有するホテル。
白を基調とした外壁。
磨き上げられた硝子窓には、夕暮れの街が淡く映り込んでいる。
医療区画に並ぶ無機質な建造物とは違う。
どこか人の温度を感じさせる建物。
案内された客室へ入った瞬間。
「おりゃっ!!」
ノアは勢いよくベッドへ飛び込む。
——バフッ——
「ふかふかー!!」
身体が沈み、そのまま何度か弾む。
「靴」
「あ」
レートの言葉にノアは慌てて起き上がる。
靴を脱いでからもう一度倒れ込む。
「これでよし!」
「学習能力はあるらしいな」
「ひどくない?」
クランツは窓際から街を見下ろした。
「命を止めない街か」
SERAPHは日が沈み始めても忙しく動いている。
高架通路を走る搬送車。
絶え間なく出入りする医療ドローン。
白い建物の灯りは、一つとして消えていない。
「クロスの言ってた通りだな」
レートも窓の外へ視線を向ける。
ORPHANとは違う街。
「HOSTってさ?結局何だったんだろうね?」
「分からん」
「えぇ……」
レートの言葉にノアは肩を落とす。
「レート、そればっか」
「分からないもんは分からん」
「少なくとも」
クランツが外を眺めたまま呟く。
「俺たちを殺す気はなかった」
「撃ってきたじゃん」
ノアが身体を起こす。
「あれは牽制だ。本気なら機会はあった」
「そうだな」
レートは頷きながら思い返す。
撃つことは出来た。
殺すことも出来た。
だが、最後までそうしなかった。
「じゃあ。何しに来たの?」
ノアが首を傾げる。
「俺たちを、見てた」
レートが答える。
「正確には、俺たちとクロスさんを、だ」
レートがクランツを見る。
「HOSTは俺たちとクロスさんを、一つの盤面として見ていた」
「どういうこと?」
ノアが聞く。
「……まだ分からない」
クランツは首を横へ振った。
「だから気持ち悪い」
レートは腕を組む。
HOST。
ZIGZAG。
クロス。
どれも繋がっている。
だが、その繋がりが見えない。
「値踏み」
「おそらくな。俺もレートの読みと同じだ」
「何のため?」
ノアは難しい顔になる。
「そこが分からない」
クランツは苦笑した。
「クランツもレート化してるじゃん」
「レートはもっと雑だ」
「おい」
思わず三人が笑う。
「まだ終わってない気がする」
レートの頭の中に過る違和感。
——コンコン——
レートが立ち上がり、扉を開く。
「お待たせいたしました」
トレイルが声をかける。
「夕食の準備が整いました」
「…………」
レートはトレイルの顔を見る。
「クロス様がお待ちです」
穏やか。
丁寧。
「いかがなさいました?」
トレイルが尋ねる。
「いや」
レートは短く答えた。
「行こう」
ホテル最上階。
窓一面にSERAPHの夜景が広がるレストラン。
長いテーブルには、温かな料理が並んでいる。
「お待ちしておりました」
クロスは席を立ち、三人を迎えた。
「待ってたなら先に食べればよかったのに」
ノアが言う。
「お客様より先にいただくわけには参りませんよ」
「商人って大変だねー」
「信用も商品の一つですから」
「なるほどー」
ノアは頷きながら席へ着いた。
次々と料理が運ばれる。
「食べるぞー!!」
ノアは目を輝かせながら料理を頬張る。
「おいふぃーっ!!」
「口に物を入れて喋るな」
「んぐっ……いいじゃん!!」
レートは呆れ、クランツは紅茶を口へ運ぶ。
「改めまして。お礼を申し上げます」
クロスは三人を見て笑った。
「仕事だ」
「それでもです」
クロスはレートの言葉に頭を下げた。
「皆さんのお陰で、無事に必要な物を届けることができました」
穏やかな食事が続く。
ノアはデザートまで綺麗に平らげ、満足そうに椅子へもたれ掛かった。
「毎日これでいい……」
「太るぞ」
「美味しいものは0カロリー」
「どういう計算してるんだ、こいつは」
ノアの幸せそうな顔にレートとクランツは苦笑いをする。
——カチャ——
クロスはティーカップへ手を添え、テーブルへ置いた。
「最後に一つだけ」
空気が変わる。
「商人として、お話ししたいことがあります」
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