翌朝。
SERAPHは昨日と変わらず動き続けていた。
街全体が、一つの生命維持装置のように脈打っている。
ホテルを出た三人は、クロス商会が手配した車へ向かって歩いていた。
「結局さー」
ノアが両手を頭の後ろで組みながら言う。
「SERAPHって病院しかないね」
「病院だけじゃないぞ」
クランツが答える。
「病院を中心に街が作られてる」
「同じじゃない?」
「違う」
「そうなの?」
「病院しかない街なら、人は住めないからな」
ノアは辺りを見回す。
商店。
飲食店。
宿泊施設。
生活に必要なものは揃っていた。
「確かに」
「患者だけが暮らしてるわけじゃない」
その視線は、街ではなく前を向いていた。
「……勘なんだが」
レートが口を開いた。
「何だ」
クランツがレートを見る。
「HOST」
「HOSTがどうかした?」
「あいつは、敵じゃない気がする」
「え?昨日あんなに戦ったのに?」
ノアが首を傾げた。
「だから勘だ」
レートは肩を竦める。
「理由はない」
「……俺も近いことは思っていた。敵なら、もっとやり方はあった」
クランツは少しだけ考えて口を開いた。
「ああ。試してた。そんな感じがした」
レートも頷く。
「でも何のため?」
ノアが聞き返す。
「それが分かったら苦労しない」
「またそれ。便利な言葉だねー」
「便利だからな」
三人は笑った。
歩きながら、クランツが携帯端末を取り出す。
——ピッ——
─────────────────
>> COMMUNICATION
CONNECTED : ZERO
STATUS : SECURE
─────────────────
『終わったか』
『ああ』
『内容は?』
『クロスと交渉した。ゼロ、例のトークン。五千万コスト』
『了承する。クロスから正式な連絡が入れば応じる。受け渡しはこちらで行う』
『了解』
クランツが頷く。
『……回答があった。クロス側から使いを出すそうだ』
『了解』
─────────────────
>> COMMUNICATION
STATUS : DISCONNECTED
─────────────────
——ピッ——
「相変わらず短いね」
ノアが苦笑する。
「十分だ。交渉は成立した」
レートも頷く。
「依頼は終わったな」
「五千万……」
ノアはまだ呟いていた。
「ポテチ何袋買えるんだろー」
「食い切れないぐらい買える」
レートが即答する。
「すごい」
「そこなのか」
クランツが呆れる。
「そこだよ」
車へ乗り込む。
——ブオォン——
エンジンが始動する。
SERAPHの街並みが、後ろへ流れていく。
ノアは窓へ額を預けた。
「……すぅ……すぅ……」
数分もしないうちに、寝息を立て始める。
レートは窓の外を眺めていた。
遠ざかる白い街。
クロス。
HOST。
五千万のトークン。
今回の依頼は終わった。
だが、何一つ解決した気はしない。
「……結局、最後まで分からなかったな」
「全部分かる依頼の方が珍しい」
「違いない」
レートとクランツは依頼を振り返る。
車は高速道路を抜ける。
見慣れた景色が少しずつ増えていく。
「んー……」
ノアが突然目を覚ました。
「着いた?」
「まだだ」
「ご飯?」
「まだだ」
「じゃあ寝る」
再び目を閉じる。
「ふふっ」
レートは思わず笑った。
「本当に自由だな」
「今さらだ」
クランツも笑う。
「まもなくORPHANへ到着します」
レートは背もたれへ身体を預ける。
「帰ったら飯でも食うか」
ノアが勢いよく起き上がる。
「行く!」
「寝てたくせに」
「ご飯は別」
「昨日も聞いた」
クランツが穏やかに目を細める。
「……現金なやつだ」
変わらない笑い声を背に。
護衛任務は幕を閉じる
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