「ここはどこ?」
目を覚ますと蒼白く光る天井が目に入る。見たことの無い場所。
咄嗟に身体を起こし、周りを確認しようとする。
「痛っ!」
右に身体をひねり手をつこうとした肘と肩に激痛が走り、反射的に腰と足を引いてしまう。
「がぁっ!うっ」
動かした部位全てが痛み、思わず叫びを上げてしまう。それでも痛みには耐え切れず、身体を丸める。
全身がズキズキと脈打つように痛み、身悶えながらうめき声を周囲に響かせてしまう。
「ハァハァハァ…」
丸めた身体を抱き痛みに耐える。どのくらいの時間が経ったのか分からないが、ようやく痛みに慣れ、思考を巡らせる余裕が生まれた。
「私は何故ここに?」
記憶を辿る。
私はルヴェリー、ヴァルグラン王国魔導鎧三番隊隊長。魔獣の氾濫の鎮圧任務中、想定外の巨大魔獣の群れに遭遇した。
部下と避難中の村人を逃がし、私は敵を引きつけ立ち向かった。
最後の記憶は閃光に包まれ吹き飛ぶ巨大な四足歩行の獣。残虐な狩人の二つ名を持つ灰色で鋼鉄よりも硬い毛皮を持つオオカミ「エルフォング」
私は、単騎で十三頭のエルフォングに囲まれながら時間を稼いでいた。
私の体を覆う鋼鉄の外装、量産強襲型魔導鎧『マストゥリル アクストゥ』
これを纏った私は成人男性より二回りほど大きな姿で、巨人ともいえるべき姿である。頭部に魔術通信用のアンテナ、背部に魔導炉を装備。関節部や可動部各所からは魔術回路の光が覗く。
しかし、エルフォングはその私を見下ろすほどの大きさで獰猛な狼の姿をしている。
先ほどから周りを囲み、こちらの間合いの外より風の魔素を使っての攻撃を仕掛けてきている。
先制攻撃で、運良く二頭の首を巨大な斧槍『ギガンティックツァッシュβ』で斬り落とした事で警戒され、間合いの外からの攻撃に切り替えられた。
魔導錬金の粋である、魔導鎧はこの程度の攻撃は弾き続けている。だが、数の暴力によりわずかにではあるが傷がつき始めている。
長くは持たないが、これだけ時間を稼げば部下たちは砦まで村人を誘導出来ただろう。
さぁ、これからだ。仲間を殺し得る相手と脅威を感じてくれ、ほぼ全ての戦力を私に当ててくれた眼前の獣に、目にものを見せてやろう。
飛び出した時に覚悟は決めた、我が軍の勝利はもう決まっている。切っていた通信回路に魔力を通す。
「第三隊の魔導鎧及び魔導武装を持つ者は、エルフォングを牽制しつつ小型二足魔獣ウォルグを優先して攻撃」
了解と部下が応える。
「一般兵及び志願兵の諸君は砦まで後退。後に遠距離装備でエルフォングを集中して攻撃」
再度、部下の応答。
「諸君らの働きは王国民を護る大きな力だ、奮闘を祈る」
部下たちへの指示は伝えた、後の振り分けは副長のレイルが上手いこと仕切ってくれるはず。後は……………
「副長!」
私は、声が震えるのを必死に抑え込み言葉を紡ぐ。
「支給品のプリン、ちゃんと取っておいてね!」
目の端が霞む
「ヤー! 最近太ってきたので私の分も差しあげますよ」
副長の声は軽口と裏腹に涙声だ。皆の志気下がるじゃんと思ったが、私の声も大概なので強制的に回路切断。
「私が太るじゃん」
一人愚痴ると、今までセーブしていた魔力回路の出力を臨界まで上げていく。
「国王陛下より賜りしギガンティックツァッシュβの真の力を見せてやろう。」
外部拡声器に魔力を通したことにより、周囲に私の声が響き渡る。意味が通じてるのか知らないのだが、私の渾身を伝えたかったのだ。
ギガンティックツァッシュβの魔力回路に特別な魔力を注ぎ込む。過去二回しか行ったことのない動作をただ淡々とこなす。
初めての時は出力が安定せず膨大な魔力の奔流になすすべ無く意識を失った。安全装置のおかげで、私は一命を取り留めはした。
二回目は出力安定させることには成功し双頭斧槍形態まで変形を達成した。しかし、ブースターの加速と形態維持の魔力が暴走を起こし安全装置が作動。強制停止した。
今回の量産型は試作先行型に比べれば倍の出力と安定力がある。だが、オリジナルとなる五大魔導鎧との出力差は十倍、子どもと大人以上の違いがある。
何処まで持つか分からない。ただ、切り札である双頭の大型斧槍『Gツァッシュラーゲン』は勝利を呼ぶ。
緊急停止は起こらないが、背中の魔力炉から今まで聴いたことの無い甲高い爆音がする。体を覆う耐熱服から焦げるような匂いがたってくる。汗が蒸発し視界を遮るほど蒸気が立つ。
手順に従い武装を組み上げる。双頭を持ち、魔導鎧の倍以上長い斧槍。柄と穂先に内蔵された十二発のブースターが一斉にそれぞれの方向に推進力を発揮する。
目まぐるしく視界が移りゆく。Gツァッシュラーゲンはエルフォングの鋼鉄の様な体毛を、引き千切り、肉塊を次々に生み出していく。
もし、周りで見ているものがいれば、残虐な竜巻の様な何かが可哀想な子犬たちをズタズタに切り裂いていたと語るだろう。
だが、殺戮の時間は突如終わりを告げる。背中に強い衝撃と激痛を感じる。体が宙を舞い、眼前には十一頭分の肉塊と二体のエルフォング。二体の間には地面に刺さったGツァッシュラーゲンが見える。
轟音をあげて柄に内蔵された超小型魔力炉が臨界を超える。
閃光に飲まれ、吹き飛ぶエルフォングの姿が視界に入る。私の身体も再び上空へと舞い上がる。
「殲滅確認」喉をやられ、耳をやられ、声が出たのかは定かではないが、いつもの儀式をを行なう。惜しむらくは、仲間の掛け声ではなく先ほどから耳鳴りしか聞こえないことだ。
やれることはやった。悔いはない。
いや、あるな。プリン食べたかったな~。
失われる意識の中、やけにのんびりとした声が聞こえたような気がする。
「よ〜く、がんばりました〜〜」

お読みいただきありがとうございます。この物語はなろう様で一年半連載を行い完結した作品を加筆修正して読みやすくした改訂版です。
原作未読の方にも原作既読の方にも楽しんでいただけるよう更新していきますので読んでいただければ幸いです。

コメント 1件
佐武ろく2026.10.24
自分以外の作品が見れて感激です。 最後の終わり方が海外ドラマのように、良い意味で切りが良くないというのがまた…
コメントありがとうございますございます。フックかけるのが癖なので…………もし気になるようでしたらまたお読みいただけると嬉しいです。ろく様の作品も読ませていただきますね。