「けがしたひと〜」
自分で言っといてなんだけど、この場に似合わない口調だよね。じゃあ直せよと言われそうだけど、こればっかりはしょうがないのよね。
色々試したけど、この口調が一番気持ちを伝えられるの。
どうも私は人とペースが異なるらしく、私のペースで話すと他人には聞き取れないのだ。甲高いキーンとした音になってしまうらしい。色々試したんだけど、とにかく速いの。
お兄ちゃんに教えてもらった、最低限伝えたいことを最大限ゆっくり言う方法でなんとか意思疎通が出来るけど…………伝わりづらい。
なので普段は人とは関わらないで暮らしているんだけど、今はそうも言ってられない。大規模な魔獣の襲来が起き、近隣の村が次々と襲われている。
現在、生き残った村人が避難しているリヴァール砦での救助活動をしているというわけなのよ。
砦内の診療所で医師や治癒術師、薬師が忙しなくケガ人の治療を行っている。私も彼らに混ざってケガ人を治している。
避難民はもちろん、砦の守備兵も次々と運ばれてくる。
砦の外では、大量の二足歩行の魔獣ウォルグと守備隊で戦闘が行われている。狼の顔と爪を持つウォルグは、大人の胸ほどの背だが素早く群れで襲いかかってくる。
数え切れないほどのウォルグであるが、魔導鎧3番隊が駐屯しているリヴァール砦はそう簡単に陥落する事は無い。
なんせ、元気っ娘のルヴェリーがいる。あの子の持ってる、ギガンティックツァッシュβは私がしっかり魔力回路を魔改造してあるから、ウォルグ位なら問題ない。
と考えていた所、こんな叫びが耳に届いた。
「エルフォングが現れた! 遠距離戦が出来るやつは上に上がってくれ」
毛が逆立つような感覚が全身を走る。
不味い、ウォルグの数を考えると1頭だけって事は無いだろう。量産型魔導鎧三体で一頭と同等ぐらいの戦力だ。
最悪ここで止めないとこの先の街が壊滅する。今の装備じゃエルフォングの大軍には対応できない……………
ケガ人を隣の医師に任せると、走り出す。
「いってきま~す」
緊迫感の欠片もない。自分でも分かってますよ。
外壁に向かう。砦内はハチの巣をつついたような騒ぎだ、そこかしこでそれぞれできることを行っている。
魔力を解放。階段なんか使っていられない。地面を蹴り上空に飛び上がり、外壁の上に一足飛びに降り立つ。
周りの兵士はギョッとするが、私のローブを見て、魔導士と認識してくれたらしく、エルフォングの現れた方面に案内してくれる。
砦に近づいているのが二体。他は隊長機が足止めしてるとのこと。正確な数は分からないが、最低でも10頭はいたらしい。
数が多い。あの子でも長くは持たない。
焦りが私の中に広がる。今すぐにでも助けに行きたい。だがこの混乱の中ここが持つとも思えない。
まずは、戦力の底上げ。近くにいる魔導士、弓兵、バリスタ、投石兵、兵種問わず片っ端から支援の魔力を授けていく。身体能力を大きく上昇させ魔力回路の構築を補助する。
五十人以上の支援で久々の倦怠感を感じるが、これで終わりじゃない。
周りと息を合わせて、混乱している前線のウォルグを攻撃していく。正直、私の遠距離魔法は並以下だ。支援込みでも周りの攻撃には敵わない。もどかしいが、出来ることをするしか無い。
みるみるうちに魔力を浪費してしまう。
前線の混乱は収まらない。私には指揮をする能力がない、まぁあったとしてもここでは権限がない。
焦りからあの力を使おうかと考えてしまう…………あの黒き香りが漂う力…………
正直、知らない人より、顔馴染みのあの子を助けたい。多少の犠牲を払ってでも手っ取り早く片付けたい。
駄目だ。何考えているんだ私、首を振る。
そんな事したら、あの子の帰る場所が死に絶えるじゃないか。それに、お兄ちゃんに会う前の私になってしまう。動く屍だった私に。
いくつもの魔力弾をウォルグ達に叩き込みながら、自分の弱さに唇を噛む。
ここで私が飛び出して前線にいったら総崩れになる。混乱を無理やり私の、がむしゃらな攻撃でごまかしているだけなのだから。クソっ、力が欲しい…………
その時、友軍の魔力通信回線に凛とした声が響く。
「第三隊の魔導鎧及び魔導武装を持つ者は、エルフォングを牽制しつつ小型二足魔獣ウォルグを優先して攻撃」
了解と言う声で、戦場が震える。
「一般兵及び志願兵の諸君は砦まで後退。後に遠距離装備でエルフォングを集中して攻撃」
再び戦場が轟き兵の顔に活力が戻る。
「諸君らの働きは王国民を護る大きな力だ、奮闘を祈る」
ルヴェリーの声は皆に希望を与えた…………だが…………
「副長!」
心なしか声が震えている…………
「支給品のプリン、ちゃんと取っておいてね!」
間違いないこの声は覚悟を決めた声だ
「ヤー! 最近太ってきたので私の分も差しあげますよ。」
泣いている………そうか、ルヴェリーは…………副長もわかっていても止められないんだ…………
凄い。強い、この王国の人間は強い。涙が溢れる。
この国に関わることが出来たことに感謝が止まらない。お兄ちゃんの興したこの国を守りたい。
こうしてはいられない。皆を信じて、私の出来ることをしなくては。
あの通信から推測するに、あの子はエルフォングをなんとかするつもりだ。単騎で、10頭以上のエルフォングと渡り合うことは通常の方法では無理だ。
あれをやるつもりだろう。少しでも早くあの子のもとに行かなくてはならない。予定された死を迎える前に。
先程の通信を解析し発信源を探る。場所を特定。
マントを外し床に置く。マントの裏地に刻んだ魔方陣に魔力を注ぎ込む。魔力回路が形成され魔術が発現する。周りの皆が唖然とする中、ゲートに飛び込む。
一瞬の目眩の後、景色が変わる。
森の中に甲高い轟音が響く。轟音の鳴る方へ駆ける。とすぐに開けた場所に出る。
そこには、殺戮が広がる。
あまりに高速で振り回される、巨大な双頭の斧槍。さまざまな場所からものすごい勢いで魔力が噴き出し、まるで竜巻のごとく振り回される。
仔犬が何か得体のしれないものに虐殺されている現場である。
しかし、その狂乱の宴は唐突に終演する。
魔導鎧の背中に装備された魔力炉が爆発を起こし斧槍は手から離れ、地面に突き刺さる。
ほぼ焼き切れた耐熱服のルヴェリーが空中に投げ出される。
と同時に、地面に刺さった巨大な斧槍は爆発を起こし、熱風は生き残っていた2頭のエルフォングを巻き込んで瞬時に蒸発させてしまう。
私は、ルヴェリーに向け飛翔。吹き飛ぶルヴェリーを空中で受け止めると同時に奥歯を思いっきり噛みしめる。
虎の子の魔力回路に魔力を流し魔術を行使。ゲートに飛び込む。
目眩を感じながら、抱きかかえたルヴェリーに向けて声をかける。
「よ〜く、がんばりました〜〜。」
我ながら緊迫感無いわ〜
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