そうか、私は生き延びたんだ。しかし、あの爆発の中どうやって?
誰かの声が聞こえた気がする、聞き覚えのある独特な口調…………思い出せそうで、思い出せない。
仕方がない、まずは現状を把握しよう。
痛む首を庇いながら自分の状態を確認する。さっきは痛みでそれどころではなかったが、かなり問題がある状態だった。
身体中に包帯が巻かれている、ジクジクと今も痛む。包帯の中はかなりひどい火傷であることが痛みから十分想像される。
この傷跡…………一生消える事は無いだろう。
確認できないが顔も似たような状態だと思うが、不思議と痛みはない。後で確認しよう。
ただ今は、命が助かったのだ。軍人としては傷痕は勲章だ…………と割り切れない気持ちが心に浮かぶ。
憂鬱な気持ちになりながらさらに周りを見渡す。
先程動いてしまったためか、私の横に貫頭衣を割いたと思われる布が落ちている。恐らく誰かが、かけてくれたのだろう。床にも綿の布がしかれている。この布は恐らくスカートを割いた物だ。
そこまで、確認すると頭上から声がする。
「おきた〜」
ゆっくり首を動かし声の主確認する。
そこには、私と同じか少し下くらいの女性が下着姿で、手にはたくさんのキノコを抱えて立っている。
「あなたが助けてくれたの?」
彼女はゆっくりと頷く。そして、キノコを脇に置くと、私の横に屈み込むと、手をかざし魔力を私に流し込んでくれる。
身体中に温かい魔力が染み込んで、痛みが引き身体が楽になっていく。
「まりょく〜、もどった〜」
恐らく私を助けてくれた時に魔力を使い切ってしまっていたのだろう。魔力が戻ったということは、そこそこの時間が経過したということだ。
「助けてくれて本当にありがとう」
そう告げると、彼女は少し困ったように眉を細め、腰のポーチから巻物と羽根ペンを取り出し、凄い勢いで巻物に字を書いていく。
ものの数秒で書き上げた巻物をそっと、私の脇に置くとぺたんと座り込み頭を下げてきた。
私はとっさに起き上がり、座り込んでいる彼女の頭を上げてもらうよう手をブンブンと振る。と、そこで気が付く。
「痛くない」
さっきまでの痛みが、嘘のように感じられない。目の前に頭を下げている彼女がいるにも関わらず、腕の包帯を解く。
いつもの私の腕がある、傷一つない。包帯の裏には血や黄色い染みが付いている。全身の包帯を無我夢中に解く。
傷一つない私の身体があった。
そこで、目の前で頭を下げ続ける彼女に気が付き、ゆっくりと顔を上げてもらえるよう促し、思い切り抱きついた。
そこで、涙が溢れた。何かが切れたかのようにただただ泣いた。声を出し彼女の胸に顔をうずめ、子どものように泣いた。
彼女は、私を抱き寄せて、ただただ微笑んで見守ってくれていた。
ひとしきり泣いてスッキリした私に、先ほど書いていた巻物を差し出した彼女は声をかけてくれる。
「イタイの〜イタイの〜とんでった〜〜」
気が抜ける声を聞いて、はっとする。私はこの人を知ってる。この魔導羽根ペンで書いた通称「黒い死紙」も知ってる。
「マリア師匠?」
目の前の師匠とおぼしき人物は、大慌てで手をブンブン、首をもげるほど振る。
「よんで〜」
そして巻物をグイグイ押し付けてきた。
ひとまず受け取り、黒い死紙を広げる。うん本物だ。
ここまで確信しても私は、目の前の彼女を女性もしくは少女としか認識できない。恐らく認識障害と魔力隠蔽を組み合わせているのだろう。ここまで頑なに否定するのだからなにか理由があるのだろう。
まずはこれを解読しよう。
真っ黒な紙にしか見えないがちゃんと見ると文字が書いてある。なぜ、こんなコミュニケーションを取るのかと言うと、師匠は生まれつき人の何十倍もの思考時間を持っている。
その為、言葉を使うと情報量が多く、他人には甲高い何かにしか聞こえない。いつもは伝えたいことをぎゅっとまとめ、ものすごーくゆっくり話してコミュニケーションを取ってくれる。
テストパイロット時代、ふと手紙で伝えられますか?と聞いた所、この通称『黒い死紙』が生まれた。
黒い死紙の特徴は、文字数の多さ。パッと見は黒い紙に見えるほどだ。
次に、話が順番に並んでない。異次元に来たのかと思うほど迷子になる。
極めつけが回りくどい言い回し。一昨日から見た明日は充実してるなぁ。と狂おしい表現が散りばめられている。
彼女は、これで人とコミュニケーションが取れると一時期大量の黒い死紙が出回ったことがある。
全て私に解読依頼が来て、まる一週間解読した時がある。その時に手紙は1ヶ月に2枚までと、泣いてお願いしたのはいい思い出だ。
私は、その場でペタンと座り込み、慣れた手順で読み進める。懐かしい、テストパイロット時代に師匠のおうちでショーちゃん、ロンちゃんと一緒に議論を交わして解読したっけ。
「ふ~ふ~ふっふっふ♫ふふふふふ~ん♪」
私の横で、師匠?は鼻歌交じりに貫頭衣だった布を器用に切ったり縫ったりしてベストとスカートを作り、スカートだった布を自分に巻き付け胸と腰を隠していた。
解読結果は大きく分けて3つの事を私に伝えようと書かれたものだということが解った。
1つ目は、呼ぶ時はマリーと呼んでほしいという事。
モンスター襲撃の際、陛下から不測の事態に備えて王宮に控えるよう勅令が下ったが、ロンちゃんを影武者にしてぶっちぎった為、バレたら叱られる。だから、師匠は冒険者マリーなんだそうだ。
師匠は、これだけ説明すれば私が本当に冒険者のマリーなのだと思ってくれると信じている。その信頼を受け、私は目の前の女性をマリーさんと呼ぶことにした。
2つ目は現状説明。
爆発の時、吹き飛ぶ私を受け止めたマリーさんは、空間跳躍で砦まで帰るつもりだった。だが魔力炉暴走の余波に魔力回路の一部が破損してしまい魔力の高い場所と繋がった。
その結果、何処かの遺跡の最深部に飛ばされたとの事。周辺は探索済みで取り敢えずの安全確保済みという報告だった。
最後は謝罪だった。
すぐに帰れなかったこと、安全確保優先で治療魔法が遅れたこと。その事の謝罪だった。
私はマリーさんに向き直す。マリーさんもこちらを向いてペコリと頭を下げる。
「マリーさん、頭を上げて。あなたは命の恩人です、本当にありがとう」
精一杯の感謝を込める。
マリーさんは顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。
「ど〜いたしまして〜」
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