ヴァルグランの王都には防火設備として大きな水樽が王都内に配置されています。
水質と水量の管理の為という名目で樽の側面にガラスの窓がいくつもつけられている水樽。この樽がある本当の目的は王都内の警備の為です。
私は固有の能力、その一つが水か、鏡がある所と感覚を共有することができるというもの。その能力を使えば街中の水樽や王宮内の鏡を通して王国内の八割に近い場所を監視することができるのです。
昨日、黒師『繰糸のヘルガ』姉様から王宮内及び、王都内に不審な芋虫がいるとお言葉を頂き、すぐに調査しました。
「なにこれ!」
様々な場所にいた魔蟲。普通の虫なら群れたり不規則にいるものだけど、規則性を感じるほど等間隔にいて何者かの意思を感じる。
こんな物を見逃していたとは、王国の目を自称する私としては恥ずかしくて穴があったら入って土をかけて埋もれたい。
恐縮しかりの私に、ヘルガ姉様は
「今回ばかりはいた仕方無しじゃ。妾ですら、偶々微細な魔力回路を発動しているところに通りかかっただけじゃ。ゼーエンよ気に病まずとも良い。後は、妾と猪で対処致す。」
なんてやさしいお言葉。でもでも、失敗を叱って頂いて、あの糸で私を………いやんいやん♥
「ゼーエンお嬢様。よだれが垂れておりますぞ」
元執事のオーベルアイゼンが胸元のハンカチで、さっと私の口元をエレガントに拭ってくれる。
「オーベル、辞めたあなたを呼び出して申し訳ないわ」
気を取り直し紅茶を一口頂き、ヘルガ姉様に頼まれた事を思い出す。
「明日までに妾たちが一度芋虫どもを一掃する。恐らく首謀者がおる。殲滅時、怪しげな者たちをリストアップせよ。そして、可能であれば捕らえよ。」
ヘルガ姉様の凛としたお言葉を思い出し、顔がにやける。
「お嬢様」
オーベルの声でハッと表情を戻す。
「王国の危機でございます、弟子がやむを得ずお嬢様から離れるのです。老いぼれでもお役に立てればと馳せ参じたまでです」
オーベルはすっと表情を和らげながらスコーンをテーブルに置く。
今日の昼に街中で虫の駆除を派手に行なう魔法騎士団長を見て、不自然な行動を行なった者たちのリストアップは済んでいます。
私の配下である水鏡は主に私の優秀な執事と戦闘メイド、特殊な訓練を受けた工兵で構成されている諜報及び強襲実行部隊です。
今回のように現場での判断を素早く行えるようにするには私の執事であるべレックを派遣する他無い。
必然的に、執事不在の私は身の回りの世話をするものがいなくなる。というのは建前、私の能力は情報収集については唯一無二。しかし、戦闘能力は皆無。
その為ボディーガードとしてべレック並の者を揃えるとなると鉄の城の二つ名を持つオーベルアイゼンに協力を頼むのは必然である。
スコーンを一口と紅茶で喉を潤しながら、街中を確認する。今回怪しい旅人は4人。全員ここ2ヶ月以内に冒険者として入国しており、一応共通点はないように見える。
ほぼ常にフードを被り、虫の駆除を見て一瞬ではあるが不審な挙動が見られた。
すぐに、水鏡を派遣して不審な行動。すなわち再度の虫の散布を行った場合、拘束あるいは……
わが国に仇なす者に容赦はいらない。
出来れば、元凶を突き止めるため捉えたいところですが、手練れであることは昼間に確認していた時に所作から見て取れています。少なくとも、私の戦闘メイドと同等以上。
自慢ではありませんが、私の戦闘メイド達は兵士で言えば隊長クラスであり精鋭と呼べる者達です。
その者達と同等な上、ここまで大胆に敵陣まで来ているということは一筋縄では行かない相手。
補足している4人は水鏡に任せ、私は、まだ確認できていない今回の部隊の司令塔を見つけ出すことに専念致します。
「お嬢様、リリーです。敵の抵抗が強く、処分という形となりました。相手は竜の角と尻尾を持ち非常に強い魔力で能力向上率がズバババーンで、素手に見えても不可視の爪でスパーンという感じです。部隊全体に情報提供ドパパパパとお願いします」
リリーからの、鏡を通した報告。水鏡のメンバーは全員、鏡のアクセサリーを身に着けており私を介して連絡を取り合える。
通信回路による通信は高い魔力を持っている相手には傍受される可能性があるのであえてこちらを使ったのでしょう。
マリアお姉様ですら、この通話は「わかんな〜い」と仰っていました。
皆に連絡を取ります。リリー語はちゃんと通訳して伝えます。
「ユーリです、同じく手加減できませんでした。リリーの報告通りの姿です。工兵隊が回収しました」
マークしていた者たちは異種族で確定、竜に属する強力な能力を持っている。戦闘メイドの中でも一際手練れの2人が手加減でき無いという相手、只者ではありません。
情報を共有し、その間も街中を監視し不自然な者を見つけるのは忘れておりません。
「べレックです、お嬢様。確保致しました、他の者が苦戦するようなら処分するようお伝え下さい。」
頼もしい声が聞こえてきましたね、べレックは私の執事でオーベルの弟子です。実力は今の報告通り。
「ありがとうべレック、気を付けて帰投するよう」
労いの声をかけた時、暗闇を走る不審な人物を発見する。
町外れに向かっている。近くにいる水鏡のメンバーを探るが、防壁に到達するまでに駆けつけられそうな者はいない………いや。
おられた。
「ヘルガ姉様、今回の事起こしが町外れに向かっています。おまかせできますか?」
逃走者を捕縛する一番の適任者にお願いをします。
「でかした! こちらでも補足した。よし、これが済んだら好きな褒美をやるぞ、かんがえておくのじゃ」
「にゃにぃ!ごほーびですか? まじですか? なにがいいかな〜♥ イエス♪ イエス♪ イエス♪」
その後、私は淑女とは何かということをオーベルとべレックに懇々と、そう懇々とお説教されました。
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