今回は本当に不味いことになっておる。
これは戦争ではないか。
相手は物量で、初撃を決めようとしておる。さらに、王都に大量の情報収集用の魔蟲を放ってくるなど絡め手も十分。
そんな事を考えながら夜の森を疾走する。相手が分からない今は、魔獣の大繁殖という事にしないと国民の不安をさらに深める…………ここは妾が動くしかほかないのじゃ。
あの五大巨神を動員すればこの程度の数はどうとでもなるが、そんな事をすれば王国民の知る所になり正体不明の敵の思う壺になるじゃろう。
小娘ながらシーラの決断は正しい、だがのうこの量を隠密裏に処理するなど、あんまりではないか?
あたりに目をやると妾の糸に絡め取られた何千ものウォルグ。爪を振るい心臓を抉り、首すじを噛みちぎる。糸を操り無造作に木へぶつけ首を折る。
そんな単純作業を繰り返す。
大体、妾にはこういうのは向いておらん。大軍を止めるのは得意じゃが、とどめを刺すのは面倒なんじゃ。
しかし、今この数を止めれて、かつ隠密に優れた者は妾くらいなのは事実。姐御はタイマンでは無敵じゃが、数への対応が苦手じゃから小娘のそばで指示待ちが正しいじゃろ。
リヴァール砦を襲うウォルグの総数約六千、エルフォングの総数約五十体。
北からウォルグ三千、エルフォング五体
西からウォルグ五百、エルフォング十五体
東からウォルグ三千五百、エルフォング三十体
現場の判断で、この内、東のウォルグ三千とエルフォング三十体を夜の内に片付けておる。妾とて万能では無い。秘密裏に始末する限界量じゃ。
周辺二キロに糸を張り、絡め捕る。妾の牙と爪で片付けるついでに我が子たちを放ち死体を食らってもらう。
昔、闇の眷属と呼ばれた無数の異形の蜘蛛達が蠢き、貪欲に死体を食らっていく。
夜の闇に紛れ、ウォルグ掃除を行いながらエルフォングの群れの場所に向かう。
張り巡らせた糸は、エルフォングの巨体を完全に止めることはできず、ブチブチと引きちぎりながらエルフォング達は南を目指す。
進軍の遅くなったエルフォングの群れを捕捉する。三十頭のエルフォングとは過剰戦力にも程がある。街が半日持たんじゃろ。
動きの鈍くなったエルフォングに肉薄する。当たれば大木もひとたまりもない、必滅の爪を糸で逸らし,喉元に向け全身を鞭のようにしなやかに反らしてから全力で爪を振り抜く。
「ドサリッ」
巨大なエルフォングの頭が地に落ちる。
妾の身体は、振り抜いた勢いのまま、足元の糸を使い弾みをつけて次のエルフォングの首を狙う。
血飛沫が心地よい。久々に浴びると、獣臭くとも気にならぬものじゃのう。
鼻歌交じりに、戦場を飛び回る。
右に左に、高さを変え、糸をつかみ角度を変え縦横無尽に飛び回る。
地平線の向こうに光が登り始める頃、最後の観客であり、獲物であった残りの一頭の首が落ちる。
「ふむ、潮時じゃの。」
辺り一面に、我が子を撒く。食欲旺盛で結構、明るくなるまでにはすべてくらい尽くすであろう。まぁ血は仕方なしじゃな。
出来れば、西も間引いておきたいところだが時間切れじゃ。斧娘よせめて各個撃破するんじゃよ。間違えても囲まれたりするでないぞ。
仕方無しに帰り支度をする。
すぐに場所を移動し、ひらけた広場に来る。あらかじめ糸で魔法陣は完成している、半径二百mのびっしり文字の書かれた魔法陣は妾の魔力を受けて起動しゲートを生み出す。
一歩踏み出すとそこは、何時もの妾の………
アチシの部屋っス。
まずは、お風呂に入って綺麗にするのが先決っスね。
昼間のアチシは、魔法騎士団副長ッス
昨日の昼間の仕事を思い出しながら、血まみれのスーツを脱いで勢いよくシャワー室に入り身を清めるっス。
昨日、リヴァール砦にウォルグが向かっている事が報告されたっス。
案の定、猪上司は砦に行くー!と駄々をこねたけど、運が良いのか悪いのか城内に不審な虫が発見されその対処に魔法騎士団が駆り出されれたんっスよね。
アチシのリボンに見せかけた糸じゃ索敵はできるけど、相手が小さすぎて仕留めれきれないっス。
だから、脳筋娘にちっまこい水晶を大量に作らせて仕留めていったんっスよ、うんうん。
適材適所過ぎるから流石の反射だけの女も観念して嫌々仕留めてたっスけど、なんか途中から
「私の内にいるモコモコしていてフワごろっとした何かが、全力でこれを仕留めれば明日中に終わると叫んでいるのよ」
とのたまわって、やる気出してたっスね。
さぁ今日も、芋虫さんを探して駆除駆除っス。
危なく蛹を見過ごしそうになった、ぼんくら隊長の尻拭いを終え、夕闇が辺りを包んだっス。
アチシ………妾の元に報告書が届く。
明日の朝一に小娘に届くの報告書だが精査の為、妾の所に届けられた。
夜の妾はヴァルグラン王国黒師『操糸のヘルガ』じゃ。
報告書に目を通し、目眩を覚える。
「あっちも猪であったか………」
仕方なしではあったのであろう、妾の責任もある。もう少しでも妾に力があれば防げたかもしれないと思うと悔しさが込み上げてくるのじゃ。
うむ、感傷に浸っている場合ではないな、出来ることをしようぞ。
うちの猪隊長の行動は予想出来る、北へ向かう一択であろう。休暇届けに魔導鎧使用許可、通行証、かなりの確率で後詰めの部隊との戦闘になるだろうから、司令権の譲渡申請も必要じゃな。
思いを巡らしながら、指の先から糸を出し、いくつかのペンで申請書を書き上げていく。出来た書類は影技隊のノクスを呼び預ける。
黒師の持つ権限は通常軍隊の元帥や宰相と同じレベルで、この程度の申請は今日中に通す事は造作もないのじゃ。
後は旅に必要なものを手早くまとめ保存食、なるべくそのまま食べられる物ばかり入れる。生活力は我が隊でも最弱だからこれでも食べるか不安じゃのう。
するりと闇に紛れ工房の奥のクリスメッサーのハンガーに向かう。
ヴァン殿を見つけ、作業が一段落するのを待ち声を掛ける。
「おっヘルガじゃねーか。夜の装いでここに来るとは珍しいな、どうした?」
ヴァン殿は黒師としての妾とも面識があるというか建国からの付き合いなのじゃ。
「息災かのう。実はこれを積んで欲しいのじゃ」
グライシアの旅支度と我が子を預ける、少しでも助けになるじゃろう。
「姫さん、なんかあったのか?」
心配をかけるのう。
「明日、朝一で報告書が回るんじゃが、斧娘が行方不明になった」
ヴァン殿なら漏らすこともあるまい。
「そうか。姫さんなら動いちまうな」
頷き,妾の推測を漏らす。
「どうやって抜け出したのか解らぬが、姐御が動いているようじゃから、斧娘は無事である可能性が高いのじゃ」
ヴァン殿が珍しく驚く。
「あいつには昨日も会ったばかりだぞ。ロンだったのか? 全くあいつは感情で動くからな、まぁ今回はそれに助けられたか。」
妾は頷き、工房を後にする。
明日は、行くのを止めるフリだけして小娘からのお小言に備えるしかないのう。
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コメント 1件
雨音かえるネタバレ3日前
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