(やれやれ……どうしたものかな)
心の中で呟きながらトルクは頭の後ろをボリボリとかく。
ひんやりとした迷宮の中、先頭を歩くサガンの背中は、あからさまに不機嫌な空気を放っていた。
後ろを歩くアリアとジュリドの視線が、痛いほどに突き刺さる。
胃の腑が重くなるような、最悪の空気感だ。
チンピラ同然の同業者など、掃いて捨てるほど見てきた。
今更腹を立てる様な年でもない。
(まぁ、どうせこの依頼が終わればさよならの関係だ。
……生き残れればの話、だがな)
背後から、擦るような足音が寄ってくる。
「なぁ、トルク……さん」
ジュリドが声を押し殺し、肩を並べてきた。
「あんまり、あいつを……サガンを嫌わないでやってくれ。あいつとは村にいた時からの付き合いで、乱暴だけど悪い奴じゃないんだ。ただ、最近は依頼が上手くいっていて、ちょっと天狗になってる所はあるけど……」
(こいつはこいつなりに苦労はしてるという事か)
ジュリドの言葉に軽く息を吐く。
同情の余地はあるが、それで生き残れるほど甘い場所ではない。
「それを俺に言ってどうする」
熱を込めない声で切り捨てた。
「お前らがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、仲間をどうにかしたいなら本人に直接言え。それがチームでありリーダーの役目ってもんだろうが」
「おい」
前方から、鋭い威圧感が飛んでくる。
サガンが肩越しにこちらを睨みつけていた。
「ただの世間話だ。気にしないでくれ」
視線をすっと逸らし、平坦な声で受け流す。
行き場を失った言葉が落ち、ジュリドもアリアも再び口を閉ざす。
重苦しい沈黙だけが、再び迷宮の底へと沈んでいった。
◇◇◇
15階層、16階層、そして17階層。
深く潜るほどに、空気は冷たく重く肌にまとわりつく。
先程までの気まずさとは裏腹に、鋭い剣閃や魔法が次々と闇を切り裂いていく。
後方で一定の距離を保ちつつ、三人の無駄のない立ち回りに舌を巻く。
それでもなお、頭の片隅では逃げ時ばかりを探っていた。
しかし冒険者も信用が第一の商売だ。
勝手に逃げたとなれば今後の稼ぎにも響きかねない。
(あと二回。二回死ぬヘマをしたらもう知らん。契約は果たしたしそれで終わりだ)
そう折り合いをつけて、冷たい石畳を蹴り続ける。
やがて18階層へ足を踏み入れた途端、異変が起きた。
「……変だわ。モンスターの気配がない」
肩で荒い息を吐きながら、アリアが探知魔法の淡い光を散らした。
「ヘッ、ビビって向こうも逃げ出したんじゃねぇか?」
虚勢を張るサガンの声。
強がる語尾が、僅かな震えを帯びて通路へ反響していく。
そのまま薄暗い迷宮の奥へ進むが、血に飢えた唸り声も、這い回る嫌な足音も一切響かない。
(静かすぎる……)
べっとりと不快な冷や汗が、背筋を滑り落ちる。
19階層も同様だった。何かがおかしい。
底へ向けて足を繰り出しても、底冷えする静寂は破れない。
呼吸の音すら不気味に響き渡る。
アリアの展開する探知魔法の網。
そこにも、モンスターの反応は一切引っかからない。
(迷宮のモンスターが怯えて隠れる……? バカ言え、あり得ねぇ)
脳内で即座に否定を突きつける。
迷宮産まれのモンスターには、外の獣と違い退却や逃亡の概念はない。
相手がどれほどの手練れだろうと、刃を向けてくる。それが奴らの本能だ。
(何が狙いだ……?)
喉の奥で苦い乾きが広がる。
トルクの思考が泥沼へと沈み込んでいく横。
顔面を紙のように真っ白に染めた少女の姿。
アリアは杖を足代わりに必死に突き、膝を激しくガクつかせていた。
足元が千鳥足のようにふらついている。
「アリア……魔力の使い過ぎだ。
ここまでずっと探知魔法の張りっぱなしだったから……」
肩を抱きかかえるようにして、ジュリドが横から寄り添う。
だから少しは魔力量を考えろ、とトルクは口には出さなかった。
呆れと諦めが胸を重く押し潰す。
「少し、休憩をしよう。どこか、この階でセーフルームがみつかれば……」
絞り出すジュリドの声。
「おい、見ろよ。階段があるぞ!」
アリアを気遣うリーダーの声を押し流すように、サガンの野太い歓喜が鼓膜を刺した。
差し示された指の先。
岩肌の切れ目に、深淵へと落ちる下り階段がぽっかりと口を開けていた。
「……サガン、今はまずアリアを一旦休ませよう。
俺達だってぶっ通しで少し疲れているんだ」
流石にこの土壇場ではジュリドも待ったをかける。
弱り切ったアリアの肩を抱き寄せ、険しい顔で階段を見下ろした。
だが、眼前の目標に目が眩んだ男の耳には届かない。
「何言ってやがる、もうすぐそこなんだぜ?
ゴールを目の前にして足踏みしろってのかよ。それに、ぶっ通しっつっても18階からは戦闘すら無かったんだ。まだまだ大丈夫だろ、なぁ?」
大股で詰め寄り、サガンが強引に顔を覗き込む。
威圧的な視線を真正面から浴び、アリアの顔色がさらに青ざめた。
「う、うん……私なら、まだ、多分あと一階分ぐらいなら大丈夫だから……」
期待に応えようと、必死に声を絞り出す少女。
「そ、それに……20階越えが出来たら、ギルドでも認められて、受けれる依頼の幅もふえるでしょ?そしたら…お母さんへの、仕送りも増えるし……」
「けど……」
健気に笑って見せるアリアを前に、なおも決断を渋り、眉間にしわを寄せるジュリド。
そのわずかな隙を見逃さず、サガンが畳みかける。
「よし、じゃあこうしようぜ。
ちょこっと下まで降りて雰囲気だけ確認して、やばそうなら即こっちに戻る。
それならいいだろ?」
折衷に見せかけて自分の意見を通す強引な提案。
さらにニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべ、トルクを指差した。
「万が一に死んじまっても、そこのオッサンがいるから大丈夫だって」
(死ぬことを計画に入れるなバカが)
逃げ出すならば、ここが正真正銘のラストチャンスだ。
頼むから休めと、心の中で念じ続ける。
しかし、膨らんだ欲望が青年の理性をあっさりと押し潰した。
「……わかった。少しだけ、少しだけ下を覗こう。
行けそうならその階でセーフルームを探して、もし危険を感じたらすぐにこの階に引き返そう」
重い口を開き、ジュリドが流されるまま合意する。
トルクは心の中で頭を抱えた。
「よし、決まりだ! おら、行くぞオッサン」
サガンが意気揚々と石段へ足をかける。
その後頭部を、苦々しく見つめるトルク。
契約を破棄して踵を返すべきか、思考が高速で交錯する。
だが、腰のポーチで重みを主張する金貨の感触。
結局は前金を優先し、重い脚を渋々踏み出していた。
我ながら救いようのない損な性分だと、深く息を吐きながら。
◇◇◇
カツン、カツン。
石段に固い足音が響く。
「もうすぐ20階か。ま、意外とあっさり行けるじゃねぇか」
カンテラの淡い光を揺らしながら、サガンが軽快に降りていく。
「良かったなぁ、オッサン。あんたの出番がない楽な依頼になりそうだぜ」
最後尾のトルクへ、不躾な視線が投げかけられた。
呑気な態度に呆れつつ、無言で靴底を動かし続ける。
やがて階段が途切れ、四人は階層の床を踏みしめた。
だが、差し出されたランプの明かりは壁を捉えない。
遮るもののない静寂。
どこまでも黒い空間が広がっていた。
「……あれ?」
異様な光景を前に、サガンの足が止まる。
その瞬間、トルクの皮膚が激しく跳ねた。
全身の産毛が一斉に逆立つ。
(これは――!!)
パッと、迷宮の天井からまばゆい光が炸裂。
空間の全貌が、残酷なまでに照らし出される。
視界を隙間なく埋め尽くす異形の群れ。
大小様々な怪物どもが、部屋いっぱいに凝縮されていた。
「………」
パリンッ。
サガンの震える手からすり抜け、床で跳ねるカンテラ。
無数の凶眼が、一斉に四人へ集中する。
「――逃げろっ!!」
トルクの怒号が空間を切り裂く。
凍り付いていたジュリドたちの思考が、急速に再起動を起こした。
一目散に反転し、階段へと駆け上がる三人。
『グオオオオオオオオオオ!!!!』
直後、怒涛の地鳴りが鼓膜を叩く。
黒い津波となったモンスターの群れが、一気に階段へ殺到し始めた。
「お、おい!! なんだよありゃあ!?
確かあれってギルドの報告書にあった30階層のレッドオーガじゃねぇか!!」
響き渡るサガンの悲鳴交じりの叫び。
怒号でそれを一蹴しながら、トルクは石段を猛烈に駆け上がる。
「魔筵も知らねぇのか馬鹿野郎!!
浅い階層でとんだ当たりを引きやがって!!」
階層沈下――通称『魔筵』。
迷宮の気まぐれな変異が稀に引き起こす、本来なら三十階、四十階より下にしか現れない様な化け物どもが、階層に関係なく出現する迷宮災害だ。
(最悪だ……!!
よりにもよって面子がフラフラなこの状態で出くわすなんて……!!)
19階層からの光が視界の端に差す。 その直後、入口の輪郭を塞ぐ数体の影。
(挟まれた!?)
思考が冷たく硬直する。やはり逃げていたのではなかった。
通路の先で袋のネズミになるのを、待ち構えていただけだ。
前を塞がれ、後ろからは凶暴な地鳴りが迫る。 全身を刺す死の圧迫感。
「――サガン!!」
切り裂くような叫び。 ジュリドが急停止し、腰の剣を引き抜く。
殺気立つ下の群れへ向き直った。
「アリアを連れて逃げろ!! 俺が時間を稼ぐ!!」
制止の言葉が届く前に、階下の巨躯へ跳躍していた。
標的は、赤く太い腕を誇るレッドオーガ。 勝ち目など万に一つもない。
(それでも……! せめて、二人だけでも守るんだ!
俺が、俺がリーダーだから!!)
決死の覚悟が、青年の身を駆動させる。
「うおおおお!!」
掠り傷だけでも一太刀。 泥臭い執念を込めて振り下ろされた白刃。
グシャアッ!!
鈍く重い衝撃音が石畳に爆発した。
赤く肥大化した腕が、容赦なくジュリドの顔面を粉砕する。
叩きつけられた頭部から、生々しい赤が飛散した。
時間稼ぎの役割すら果たせず、肉の塊が転がる。
「ジュリドォォ!!!」
サガンの喉が激しく裂けた。
「くそったれぇぇ!!」
血走った両目で大剣を頭上へ構える。
前方を塞ぐ怪物へ向けて、渾身の一撃をたたきつけた。
パシッ
あっけない打撃音。
緑色の粘液に塗れた人型の化け物が、巨大な刃を素手で軽々と受け止める。
ジュウウ……!!
ツンと鼻を突く酸の刺激臭。 ドロドロと液化していく大剣が、鉄の滴を落とす。
(アシッドマン……! 40階層の奴迄いやがったか!)
「あ……あ……」
自慢の腕力が一切通じない現実。 サガンの膝がガクガクと震え、思考が完全に停止する。
「馬鹿! 止まるな!!」
体液を飛ばすアシッドマン。 放たれた緑の飛沫が、サガンの横に立つアリアへ直撃した。
「ああああ!!!」
肉が激しく焦げる音。 充満する異臭。 ドサリと崩れ落ちるアリア。
胸元には、階層の石畳が透けて見えるほどの巨大な穴。
「あ、ああああああ!!! ああああああ!!!!」
狂乱するサガンの叫び。 迫り来る上下からの死の波。
「……潮時だ」
トルクの手が、サガンの襟元を掴み寄せる。 ポーチの底から引き抜いた巻物。
「『脱出発動』!!」
展開するまばゆい光の束。
トルクとサガンの身体が、一瞬で空間から消え去った。
階段に残されたのは、獲物を見失い首を傾げる怪物の群れ。
そして、物言わぬ二つの肉塊だけだった。
◇◇◇
眩い光の粒が地上付近の広場に溢れ出す。
陽光の眩しさが視界を激しく撃ち抜いた。
ざわめく人集りの渦中。
出現した光の束が弾け、トルクとサガンの身体を地上へ吐き出す。
「うおっ!? ……脱出魔法か」
見物人の驚きが空気を揺らす。
「ありゃあ、蘇生屋のトルクか……一緒に居るのは……」
「おい、あいつ確かシャープナーの奴だろ? 二人いねぇぞ?」
飛び交う噂話。
指を差す周囲の好奇視線。
トルクの掌で、魔法の巻物が光を失っていく。
役目を終えた羊皮紙はボロボロと崩れ、風に舞う紙屑となって散った。
隣で呆然と佇む大男。
サガンは周囲を見回し、我に返ったようにトルクへ詰め寄る。
「お、オッサン……それ、脱出魔法の巻物かよ!?
持ってたのか!?」
「保険用にな。……言っておくが、こいつは一人か二人用だ。
どの道全員で脱出はあの時点で無理だったんだよ」
淡々と事実を告げる。
呼吸を整えつつ、トルクの視線はどこまでも冷たい。
対照的に、サガンは顔を真っ赤に沸騰させる。
「おい、オッサン早く行くぞ!! あいつらの死体回収して蘇生させんだよ!!」
「行きたきゃ行け。俺はここまでだ」
冷淡な拒絶。
その一言が、大男の導火線に火をつけた。
ガシッと力任せに胸倉が掴まれる。
「ふざけんなよ!! てめぇは俺達に雇われた側だって言ってんだろうが!!
オラ、ボケッとしてねぇで…」
「調子に乗るのも大概にしろ、ガキ」
チキッ。
鋭い金属音が鼓膜を突く。
胸倉を掴む大男の動きが硬直した。
いつの間にか引き抜かれた刃。
極細のスティレットの切っ先が、サガンの顎下に深く喰い込んでいる。
「…っ!」
脂汗が大きな顔を伝い落ちる。
「三人死んだ時点で即撤退。俺はその条件で契約を結んだ。
あの時点で俺はもうお前らに従う契約も終了してるんだよ。
お前一人だけ置いて帰っても別に俺は良かったんだぞ」
氷の様な平坦な声。
容赦のない言葉の刃が、サガンの自尊心を切り刻む。
みぞおちに冷たい鉛を流し込まれたように、大男の指先が強張る。
「四人で行ってあのザマのお前らがたった二人で、しかも武器も無いのに魔筵に突っ込んでも死体が二つ増えるだけだ。お前と心中するつもりはない」
「……あ、あいつらは……っ」
大男の声が、惨めに震える。
体躯を小刻みに揺らし、血走った両目から涙を溢れさせていた。
「あいつらは……良い奴らなんだよっ……!
ガキの頃からの付き合いで……村でロクに相手にされなかった俺を冒険者に誘ってくれた奴らで……!」
絞り出す言葉。
激しい情動の吐露が、青空の下へ虚しく響く。
胸の奥が重く冷えていくのを覚えながら、冷淡な一言を叩きつけた。
「関係ないんだよ、そんなもん」
すがりつくような哀願を容赦なく一刀両断する。
「良い奴だったとか、悪い奴だったとか……強かったとか弱かったとか、誰かが死ぬのに理由なんかない。どんな奴だって死ぬときは死ぬ」
シャキリ。
スティレットを静かに鞘へ納め、トルクはサガンに背を向ける。
突っ張りを失った巨躯が、ドサリと勢いよく膝をついた。
「どうしようもなかった……そういう時もある」
背後へ短く告げると、トルクは足を踏み出す。
「うおおおおおおおお……!!!」
背中を撃ち抜く、狂おしい絶叫。
魂を削るような慟哭が、地上の空気を揺さぶる。
だが、周りの冒険者たちはチラリと見ただけで、すぐに興味を失ったように視線を外し日常の喧騒へ引き返す。
誰かが死んだ程度で、歩みを止める者などここにはいない。
一度も振り返ることなく、トルクは人混みの奥へと消えて行った。
◇◇◇
「『脱出魔法』の巻物、金貨一枚でございます♪」
カビと血の混ざる迷宮の暗がり。
うさんくさい笑みを浮かべ、カンテラの灯りの中でジジがすり寄ってくる。
「……チッ、相変わらずのぼったくりが」
舌打ち混じりに吐き捨て、腰のポーチをまさぐる。
指先に触れる硬い手触り。
なけなしの金貨を、渋々その手へ差し出した。
これで当分、塩パンだけの貧しい食生活が確定する。
「ホ・ホ・ホ。毎度ありがとうございます。四人用の脱出魔法巻物もございますが、そちらも如何ですか?」
「……いらん」
受け取った羊皮紙を慎重に丸め、ポーチの底へ押し込む。
それを見ながら商人が眼光を細めて言った。
「そういえばトルクさん、ご存知ですか?
チーム・シャープナーの生き残りのサガンさん。
彼、先日冒険者ギルドに脱退届を出したそうですよ。
もう冒険者自体やめてしまわれるそうです」
「……そうかい」
短く漏らす吐息。
脳裏をよぎるのは、数日前の一幕だ。
9階層の薄暗い通路で転がっていた、サガンの死体。
仲間を取り戻そうとしていたのか、ボロボロの装備で一人潜り倒れていた。
蘇生した時も、持ち金は殆どなく、傲慢不遜なあの顔も見る影もなく消え失せていた。
あの大柄な体を縮こまらせ、肩を落として去っていった後ろ姿。
それが、あの男を見た最後となった。
すでに一月の時が経過している。
迷宮の奥底で消えた仲間たちを蘇生させる術は、もう存在しない。
「しかし、彼らも運が無いですね。20階でまさか魔筵を引き当ててしまうなんて。深階層のモンスターがうろついているんですから、私も暫くはあの階層付近には近づけませんよ。補給が命の深階層が商売のチャンスなのについてないですねぇ」
ジジがため息混じりの愚痴を吐く。
冒険者ギルドの掲示板には既に20階近辺に階層沈下発生の警告文が出たと後で聞いた。
次の迷宮の変化期までは余程の猛者以外は近付かないだろう。
「……仲間が死んだとハッキリわかったんだ。
後悔はあっても未練は残らんだろうさ。
あいつはまだ若い。充分やり直せる」
「貴方と違って、ですか?」
ぴたりと、トルクの足が止まる。
二人の間を、耳が痛くなる様な静寂が埋め尽くした。
「……失礼、踏み込み過ぎましたね」
軽薄さを削ぎ落とした、殊勝な声。
トルクは何も答えず、重い靴底で迷宮の奥へ歩みを進める。
「……将来がある奴が、やるもんじゃないさ。こんな仕事はな」
ポツリとこぼした一言。
地下の闇が、その声を静かに飲み込んでいった。
『チーム・シャープナー…結成。
ジュリド・ロギンス、アリア・メロイア…死亡
サガン・タークス…脱退。
チーム・シャープナー…解散』
未来を夢見た若者たちの足跡。
それは冒険者ギルドの古い帳簿の中で、たった四行の記録となって終わった。
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