「初めての麻雀は楽しかった?」
「はい。でも一応なんとなく形は分かったんですけどまだ良く分からないですかね。だけど自分で考えて出来たら楽しんだろうなって思いました」
今日は指示を受けてその通りにするだけだったけど、私の後ろで一体どんな事を考えてその選択をしてるのかは、やりながらもつい気になってた。その思考を覗けたらもっと楽しかったのかもしれない――いや、今の私じゃ覗いたとこで意味が分かる事はないんだろう。
「ツモとか配牌がある時点で他よりは運要素が少し強いかもしれないけど、手放しで運任せにするほど簡単なものでもないからね。運と実力が絡み合ったゲーム――人生みたいなもんだよ。選ぶ事の出来ない生まれ持ったモノがあって、でもその後をどうするかは自分次第。目指す形にまで進み続けるしかない。その為には実力が必要で、運も必要。たった一回の幸運や不運に全てが左右される時もあるけど、実力が運を捻じ伏せる時もある。気まぐれな運の中で実力が圧倒的な安定感を生むんだ。それでもどうしたってダメな時も良い時もある。でも一局や二局駄目でもその試合で勝てればいいからね。一局一局も大事だけど、本当に大事なのはもっと大きなものなんだよ」
「人生とかって……先生何だかおじさんみたいですよ?」
私はわざと軽く吹き出しながらそんな冗談を口にした。
「え? 本当に? ――でも桜咲ちゃんも麻雀を好きなってくれたら嬉しいかな。入院中の暇つぶしにも持って来いだしさ」
「確かに楽しかったし興味はあります」
「もしかしたらこのままハマって将来はプロになっちゃうかもね」
先生のそんな冗談に笑い声を上げながらもそれから麻雀について話していた私達はあっという間に病室へ。
「じゃあもしハマっちゃったら麻雀について質問とかしていいですか?」
「もちろん。麻雀と医学ならある程度は答えられるよ」
「医学はある程度じゃマズくないですか?」
「分野とかあるからね」
「なるほど」
小刻みに頷きながら私は病室へと一歩足を踏み入れた。
「……先生。さっき麻雀は人生みたいって言ってましたけど。もしたった一つの不運で負けちゃったらどうしたらいいんですか?」
「一局なら次、最終的にその試合勝てたらいいね。でもその試合に負けちゃったとしたら次の試合で頑張るしかないね」
「じゃあもし次が無かったら?」
「というと?」
先生は私へ更に首を傾げ返していた。
それを見て私は首を振る。
「いえ。人生そんな上手くいく事ばっかりじゃないですよね」
「そうだね。おじさんが言うんだから間違いない」
そう言って自分の胸を叩いて見せる先生。
「あれ? 幸先生こんなことで何してるんですか?」
するとそんな先生の後ろから菜月さんがひょいと姿を見せた。
「まぁ……患者さんとの交流かな?」
麻雀の事は秘密とでも言うように先生はそう返した。
「じゃあこれからアタシが桜咲ちゃんと交流する番なんでそろそろ先生は」
「それは失礼致しました」
そう言って先生はわざとらしく丁寧に紳士的なお辞儀を返した。
「それじゃあね」
最後に私へ手を振り先生は病室前を後にした。
「じゃあいつも通り回診という名の交流を始めよっか」
「はい」
それからこれまで何度受けてきただろうか回診が始まり――雑談も交えながら何事も無く終わった。
そうして、病室に一人になった頃。言われてみればいつの間にか消えていた真さんがこれまた気が付けばそこに座っていた。でも私はそれに違和感を感じる事なく、ずっとそこに居たかのような感覚だった。
「ねぇ。死ぬって不運なのかな?」
さっきの先生とのやり取りを思い出しながら私はそんな事を尋ねて――と言うよりそれは殆ど独り言だった。自分の声を聞いて思考がかってに回り始める。
一週間で死ぬ、それは私にとってたった一回のどうしようもない不運なんだろうか? 人生における実力が何かは分からないけど――もし私の人生を麻雀にしたら、それはどんなトッププレイヤーがプレイしても勝てないような試合なんだろうか?
いや、もしかしたら私の不運を麻雀にしたら失格なのかもしれない。たった一回の強烈な不運でルール違反してしまって、そのまま失格。逆転のチャンスすらもない即終了。
よく色々なモノが人生に例えられたりするけど、あと一週間で終わってしまう私の人生を逆に当て填めた時、それらは一体どうなってしまうんだろうか。
「どうでしょうか。ある人にとっては不運で、ある人にとっては幸運な事なのかもしれません。でももし不運ならいずれ必ず死んでしまう人間の人生は、どれもバッドエンドですね」
「幸運な死って?」
「例えば――不死。永遠なんてものはいずれ苦しみへと変わりますから。あとは、逃れる事の出来ない苦痛ですかね。もし死ぬまで激痛を伴い続けるのなら……。死が解放を意味する時、その人にとって死は幸運なものになるのかもしれません」
「じゃあ私にとって死は……」
―――コンッ。コンッ。
するとそんな私を遮る様に病室へノックする音が響きそっとドアが開いた。
この作品が気に入ったら

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。