ドアが閉まると病室には呼吸の音でさえ響いてしまいそうな静寂が一瞬にして広がった。同室の患者さんが居ないっていうのもあるんだろうけど、それは観ていた映画を途中で消してしまったみたいな静かさ。
そんな中、気が付けばベッド傍には久しさすら感じる真さんが座っていた。
「今日は全然お願い叶えてもらってなぁ。何か勿体ない」
「大丈夫ですよ。私は貴方の最期を手助けする為に存在していますので」
「それじゃあ夕食まで話し相手にでもなってもらおっかな」
「えぇ喜んで」
流石と言うべきかまるでずっと仕えている執事みたいな――その心地好さは言うまでもない。
「そう言えば死神って普通の人間と同じなの? 例えば感情とか」
「基本的には変わらないと思って頂いて大丈夫ですよ。私は常に貴方の為にあります。この感情でさえ例外なく」
「そこまで言われちゃうと何だか無理に合わせてくれてるみたい」
どこか申し訳なくでも感謝の意もあり、私は少し笑い交り。
「そういう存在ですので嫌々という事ではありません。気軽にそういうものだと思って頂いて大丈夫ですよ。ですのでそのお気持ちだけありがたく頂いておきます」
そう言って真さんは深々と頭を下げた。
人間と似てるけど違う死神。私は当然だけど良く分からないから言われた通りそういうもんだって受け入れた方が良いのかもしれない。変に気を遣うのはむしろ私の最期の一週間を良くしようとしてくれてる彼にとって良くないのかもしれないから。
「そう言えば姿が見えてない時ってどこにいるの? 気付かないだけで近くにいるの?」
ついでに私は思い出したように浮かんだ疑問を尋ねた。
「正確に言うのならどこにもいませんが……はい、常に近くにいます」
「じゃあ私が誰かとしてる会話とかも聞いたり見たりしてるって事?」
謎々みたいな返しに首を傾げる私。
「私は貴方が望めば何でも分かります。何も聞いていませんし、何も見ていませんが――もし貴方がそのことについての会話や質問を望めば自然と私には分かる様になっています」
「じゃあさっき菜月さんとしてた会話も」
「えぇ。その他にも貴方が知りたいと望めばその答えは私の中へ」
真さんはそう言うと衣擦れすら聞こえない程そっと胸へ手をやった。
そんな彼を見ながら今更疑っているという訳じゃないけど、私は試す様に質問を一つ。
「じゃあ起きた時に流れてた映画のタイトルとあらすじを教えて貰っても?」
「短編映画は、青き夏の旋律。あらすじは――」
それから真さんはあの映画のあらすじを(それも死神の能力なのか)観た事があるかの様に流暢な口調で説明してくれた。
「へぇー。今度はちゃんと観てみよっと。死ぬ前にやらなくちゃいけない事が増えちゃった」
真さんじゃなかったら絶対に言ってないような冗談を言いながらも私はちょっとした違いに気が付いた。
「そう言えば漫画の時は作者が来てくれたけど、今回は簡単に説明なんだね」
「えぇ。一言で言いますと、どれだけ望んでいるかの違いですね。今回は余り気になってはいなかったようなので私が簡潔に説明させて頂きました。時間は大切ですから」
図星。確かに訊いた時は気になって質問した訳じゃない。でも聞いてみて興味が湧いたのも確かだ。
「もしかしたら私より私の事知ってる?」
「さて、どうでしょうか」
冗談半分で言ったつもりだったけど、もしかしたら私が望めば私の知らない部分も教えてくれるのかもしれない。そう思うと私はとラップスのある曲の歌詞と共に脳裏を過った質問をしてみた。
「じゃあ――好きってなに? 人を好きなったってどうやったら分かるの?」
すると私よりも私の事を分かっているような変な死神さんは「んー」と微かに聞こえる声と共に顎に手を当て考えている様子だった。てっきり私が疑問を感じた時点で答えが分かっててすぐに返事が来るかと思ってたけど、真さんも考えたりするんだ。
そんな新発見という程でもない事を思っている間に彼の中で答えは出たらしい。
「それは貴方自身がご自分で見つける方が良いと思います」
「そんな時間無いと思うけどなぁ」
「言葉で説明する事も不可能ではありませんが、このような感情というのは感じるのが一番の理解に繋がります。恋というのは理解するものではなく感じるものですから。極上の食べ物を口頭で伝えるのと実際に食べるのとでは違うように、誰かを好きになり愛するというのもまた、感じる事でしか得られないものがあります。知りたいのならば、過程を経てご自身で感じた方が貴方の一週間に花を添えてくれるでしょう」
口にはしなかったが、つまり恋のフルコースを自分で味わった方がいいって事らしい。でも残り一週間もないのにそんなのは無理だと思うけど。それに別に今更って感じだ。どうせ私は死んでしまうのだから。
あと五日。普通の人ならどう思うんだろう。あと五日しかないとか残り時間の少なさに焦ったりするのかもしれない。でも私は、興味のないテレビ番組をぼーっと眺めてるような気分だ。ただ淡々と事実がそこにはあるだけ。
「まぁとりあえず、引き続きご飯まで話し相手にでもなってもらおうかな。これが今日の叶えて欲しいお願い」
「お任せください」
その言葉通り彼は私が話したい話題にはちゃんとついてくるし、私が興味を持つような話題をくれる。話すと聞くの両方ともバッチリで話し相手としては最高の相手になってくれた。
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