その後は、子ども達に実際楽器を触らせたり弾かせてみたりと体験会が始まった。実は子ども達が集まるまでの間に私と春人君は触らせて貰ったからここは我慢。初めての楽器に子ども達は真剣な表情を見せたり、感嘆声を上げたりとにかく楽しそう。きっと私達もあんな感じだったんだろう。
そしてライブ演奏と大合唱、体験会。長い様で短い時間は終わりを迎えた。欲を言えるのならもっと聴きたいけど、そろそろ終わりらしい。そんな満足と満たされる事のなさそうな物足りなさを感じながら私は舞台から聞こえるシメの言葉を聞いていた。
「じゃあ最後に一曲。実はずっとここに電子ドラムがあるんだけど気付いたかな?」
そう言えば結局使われてなかったな、なんて言われて改めて思った。
「折角だし最後の曲、叩いて欲しいよね?」
「あぁー。健に叩いてもらえば?」
本条さんを指差す藤野さんは少し笑ってる。
「いいね。んじゃ健、よろしく」
「おっしゃ任せとけ!」
でも急に振られた本条さんは何故か自信とやる気が満々。昔やってたとはいえ大丈夫なんだろうか? むしろ私の方が不安だ。
「みんな俺が叩くとこちゃんと見ててな」
そう意気込む彼だったが、子ども達からは「無理だよー」なんてその自信を疑う声が次々と返って来た。
だけどそんな声を背に堂々たる足取りでドラムへ。自信の表れか緩慢と腰を下ろすとスティックを手に取りペン回しよろしくクルリ――たった一回転で地面に横取りされた。慌てて拾いカッコつかない本条さんだったが、両手に握ったスティックを構え、振り下ろすと……。
ここまでの全てを水に流し、あの自信を裏付けるリズミカルな音の連打を響かせた。華麗で力強く巧みな音は一瞬にして子ども達と私達の疑心を打ち砕いた。
その瞬間、巻き起こる拍手と歓声。ドヤる顔。ほんの数秒で魅せつけた。
「おぉーいいじゃん」
「ガッツリ練習しただけの事はあるじゃん」
「言うなよ!」
野木さんの言葉にスティックを突きつけ透かさず反応する本条さん。どうやら単なる無茶振りかと思ったけど、台本通りだったらしい。
「それじゃあ基一とみんなの為に新曲作ったからこの特別メンバーバージョンで聴いてもらおうかな。初披露、みんなが聴くのは初めてだからね」
新曲、その言葉に私と春人君は思わず目を合わせた。ラップスとレイスノワエルのコラボ。しかもそんな曲を今ここで聴ける。
様々な感情が欣喜雀躍とする内心とは裏腹にかえって落ち着いていた私は、無言のまま同じように表情へ笑みを浮かべただけの春人君とハイタッチをした。それ以上、何かを言う訳でもなくほぼ同時に舞台の方を向きその瞬間を待つ。
「――蒼穹列車の終着駅」
曲名の後、本条さんのスティックを叩く音がカウントを取り、溶け出すように曲は始まった。最初の方はまるでゆっくりとそれでいて力強く列車が動き出すような曲調。
そんな冒頭から始まる旋律が綴る物語。暗雲が晴れ燦々と輝く太陽が顔を出し私達を温和な陽光で包み込むような。まるでとんでもない奇跡でも目にしてるような。応援歌と言うには余りにも優しく語りかけ、バラードと言うには余りにも熱を帯び心を打つ。零れ落ちた汗と泪が推進力となって空を昇り、大気圏を突き抜け、宇宙に浮かぶ希望と夢、喜楽の惑星の中をどこまでも突き進む。どこまでも――。
この曲を言葉で形容するには感情が勝り過ぎているけど、そこには可能性が広がっていた。見上げた夜空で数え切れない皓々たる星々が浮かんでいるように。そこには無限の可能性があった。
「ありがとう」
快晴な曲とは裏腹に彼らを包み込む拍手の嵐。
「これでもう終わりだけど、楽しんで貰えたかな?」
「楽しかったぁー!」
子ども達は我先にと声を上げた。
「いいねぇー。良かった。良かった」
その様子を眺めながら二人は嬉しそうに笑みを浮かべては、満足気に頷いていた。
「次はライブで会おうね」
「確かに。もっと大きな会場でもっと迫力のある俺らの音楽を味わって欲しいね」
藤野さんの言葉に賛同する野木さんは両手を目一杯広げて見せた。
それから本条さんも加わり少し会話をした後、シメの挨拶を経てこのイベントは幕を閉じた。最後は子ども達と記念撮影をし、全員が部屋を出るまで二人はマイクの前で見送っていた。
そして全員が退出し、部屋には最初同様に私と春人君そして三人だけに。
「凄い良かったです! 特に新曲最高でした!」
「二人が同じ曲で歌ってるって言うのがまた……」
一体私達はいつから興奮しっ放しなんだろうか。多少、落ち着いたと思ってたけど、気持ちを言葉にしようとすると全然冷めてなかったらしい。口にした言葉は湯気が見えそうな程に熱を帯びていた。
「ありがとう。やってる方も最高だったよ」
「やっぱ子どもってエネルギーが凄い」
「普通のライブにも匹敵するぐらいのパワーだったからね」
「ちょいちょい」
すると本条さんが何か言いたげに私の肩を突いて来た。
「俺の演奏はどうだった?」
その表情は既にドヤ顔気味だ。
「まさかあそこまでちゃんとしてるとは思わなかったです」
「あんなに叩けるなんてビックリですよ」
「まぁね」
腕組みをしやっぱりドヤ顔だ。でもそれだけの事をしたのだから今回は仕方ない。
「もしかしたら俺にもミュージシャンの道があったのかも」
確かに野木さんとバンドを組んでたって聞いた時も同じような事を思ったけど――子ども達と一緒にいる本条さんを思い出すとこっちか保育士の方が合ってる気がする。
「でも本条さんは子ども達と一緒の方がしっくりきますけどね」
まるで私の脳裏を覗き見たかのように、春人君は思っていた事を口にした。
「確かに」
しかもこの場の本条さんを除く全員が納得と頷いた。
「まぁ確かにこっちの方が性に合ってるかも」
どうやら除く必要はなかったらしい。
「まっ、とりあえず今は片付けだな」
私達も何か手伝いを――そう思いはしたがそこにある物が何かも分からないのはかえって邪魔になるかもと考え直し、既に開いていた口は急ハンドルを切った。
「それじゃあ私達も戻りますね」
「なんだか勿体ない気もするけどね」
隣で愚痴のように零す春人君の気持ちは私もよく分かる。
「気を付けて病室まで戻るんだぞー」
「はーい(はーい)」
それから藤野さんと野木さんとも最後の挨拶を交わし、私達も部屋を後にした。
この作品が気に入ったら

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。