普通の高校生にしては早い消灯時間も私達にとってもはや単なる日常だ。とはいえ辺りの暗闇とは相反して目が開きっ放しの時も度々ある。体調だったり、何故かだったり。
でも今日はそのどれでもなく、なんなら少し疲れてるぐらいなのに二つの意味で勿体なくて寝てられない。
「もう寝ちゃった?」
「うん。寝た」
辺りで暗闇に紛れ静寂の宴が行われる中、私達は水を差すように話し始める。
「やっぱり他の人を気にしないでいいって何だか気楽かも。誰かいた方が良い時もあるけど、気を遣ったりしなくていいのも、いい」
「あれ? おっかしいなぁー。私には気遣ってないってこと?」
春人君の方を見遣ると私の視線は薄暗さを掻き分けながら彼がこっちを向いているのを辛うじて確認する事が出来た。
「だって桜良ちゃんもそうでしょ?」
「いやぁー。気付かないかぁ。私の気遣いが」
下手な演技のようにわざとらしく大袈裟な私に対し、表情は見えないけど春人君の影は揺れ笑い声が聞こえてきた。
「それはありがとうございます。でもいやぁー。桜良ちゃんも僕がそう気遣って言ってるだけって気付かないかぁー」
仕返しと言わんばかりに同じ様な口調をしていたが、そこには既に堪え切れてない分の笑いが混じっていた。
それからすっかり慣れた薄暗さの中、一時間ぐらいだろうか。寝るには勿体無いと私達は思い出せない様なお喋りをしてた。
そしてそれはひと区切りついた会話が静寂に溶け、数秒が過ぎた時。
「ちょっと今から抜け出してみない?」
「抜け出す?」
「病室」
正直、少しだけ驚いた。大人しいというか、そう言う冒険ちっくな事はしないと思ってた春人君がそんな事を言い出すとは……。
「えっ? でも流石にバレちゃうでしょ。夜でも看護師さんいるし」
「大丈夫だって。ほら、夜の病院探検行こうよ」
そう言うと春人君はベットから降りた。冒険心に満ち溢れ意気揚々としたその姿はどこか吹っ切れ今までで一番楽しそう。
そんな春人君の後に続き、私もベットを降りると足並みを揃えドアへ。
「静かに行こうか」
「うん」
音版イライラ棒でもしてるみたいにそっとドアを開けていく春人君。それを私は同じ様な緊張の心持ちでじぃっと見つめていた。そして
無事ドアが開き静まり返ったいつもと雰囲気の違う夜の廊下がまず私達を出迎えた。一応、見えるけど廊下の照明達もなるべく静かにしているらしい。目配せで無言のやり取りをすると、先に春人君が廊下へ。その後に続いた私はドアを最後まで手でしっかり見送り無音を保つと彼の後ろに並んだ。
そこから廊下を足音のみならず衣擦れすらも鳴らさなぬよう慎重の塔を築きながら廊下を進む。まるで映画の様な状況に心躍る私の口元は他とは相反して緩んでいた。相棒と呼びたくなる頼り甲斐のある春人君の背中を見ながら少し進むと私達は最初の難所であるナースステーションに到着。立ち止まった春人君は振り返り私の方を見ると、耳元へ近づき出来る限りの小声で話し始めた。
「まず僕が見てみるから」
声は出さず頷く私。
それを確認してから春人君は慎重に壁からナースステーションを覗き込んだ。ほんの一瞬で引っ込めた顔を再び私の方へ。
「看護師さんが一人だけいるね」
「どうするの?」
うーん、と聞こえてきそうな表情を浮かべる春人君と共に私もどうしたらいいかを考えてみる。けど、映画の主人公とは違い早々に案は浮かんでこない。
するとその時。気の緩みなんて言葉で片付けていいのか、無意識的に脚を組み替えるのと同じ感覚で一歩後ろへと足を動かそうとした私は、何とも恥ずかしい事なんだけど自分の足に引っ掛かってしまった。
「うっ――」
突然バランスを崩し思わず声を上げようとしたけどなんとか抑える事が出来た。でも倒れる事への恐怖かなんとか回避しようと反射的に動き出す体。
その結果、藁にもすがる思いの私はちょうど傍にあった手摺に手を伸ばしていた。最早ぶつけるように縦に伸びる手摺を掴む。それは病室のドアで、抑えた声を嘲笑うかの様な音を鳴らし少し開いた。
だけどそのお陰で私はなんとか踏ん張る事が出来た――訳だけど、それを喜んでる場合じゃない。
「誰かいるんですか?」
看護師さんの声が響くと、遅れて聞こえて来た足音は着実にこっちへ。私と春人君は兎に角バレないようにと音は最小限でその場を離れた。
すぐそこにあるナースステーションからの足音はすぐに私達が居た場所へ。時間的にも私達はそう遠くには行けない。それを知っているかの様に、立ち止まった数秒後にあのドアが寝ている患者さんを起こさない様にそっと開く。
廊下から差し込む薄暗い光。少し立ち止まった足音は辺りに配慮した足取りで部屋の中へと入って来た。一歩また一歩と私の鼓動に合わせるように奥へと足音を響かせてゆく。きっと左右を確認しているんだろう。
一方で同じ部屋に逃げ込んでいた私と春人君はベットの下で息を殺し看護師が部屋を出るのを待っていた。はみ出ない様になるべく身を寄せ合う私達。春人君の熱を感じる程に近く、私のいつより強い鼓動が聞こえてしまいそうな程に触れ合っている。冷たい床の所為かより一層、感じる温もりを意識してしまう。互いの体に押し込まれ握り合う様に触れる腕は柔らかく、音を立たぬ為に大きくゆっくりとする呼吸に混じる匂いは仄かに甘い。そして――。
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