「じゃあこういう物語ってどうですか?」
私の言葉にそう振る舞ってくれてるだけかもしれないが、男性は興味あり気な視線を向けてくれた。
「主人公は病気で入院してる人で、その人の所にある日死神が現れるんです。そして余命一週間を告げられるんですけど、その最期の一週間をより良いものにする為に死神が願いを叶えてくれるっていう話です」
もしかしたら既にあったり余り良い題材ではないのかもしれない。でも男性は咀嚼するように私の話を聞いた後、何かを考えてる様子だった。
「うん。もっと煮詰めれば書けるかも」
気の所為かもしれないが、男性は私が折角提案してくれたからと肯定してくれているようにも感じた。
「煮詰めるっていうのは?」
「どう終わるかとかそこまでの道筋で物語全体にどう情緒を出すかとか」
「やっぱりそう言う場合って自分だったらとか考えるんですか?」
「考えなくも無いけど結局、自分とは全くの別人だからね。人が違えば同じ出来事でも考えは変わってくる。意見自体は同じでも言い回しとかそこに至るまでの思考とか。生まれてからその出来事までの経験が違うからね。でも例え全く同じ経験をしてきた二人がいたとしても、性格の違いでまた差はでてくるだろうし」
確かに物語の流れを考えるのって難しそうって思ってたけど、そこに登場する人を創り上げるのもまた難しいのかもしれない。この現実世界に数えきれない人がいるのと同じで物語の人々もそれぞれが別人。それをたった一人の人間が考えるって何だか神様みたいだ。
「そうなると俺の物語は俺の想像の範囲でしか生まれない。だからどんな人間だろうと人っていうのは参考になる。範囲が広がるからね。そう言う意味では物書きにとって無駄な知識っていうのはないのかもしれない。どれだけしょうもない知識でもそういうのが好きな人間が創れるし、専門的な知識があればある程より現実的な専門家を書けるからね」
その話を聞くとなんだかこうして話している私でさえ今後、彼が描く誰かの一部になるんじゃないかって気がする。そう言う意味ではさっきの言葉に戻るって訳じゃないけど、本当にこの瞬間でさえ物語が生まれるキッカケなのかもしれない。例えそれが本当に小さな小さな――人間を構成する細胞程度だったとしても、私自身がもしかしたら多くの人から拍手喝采を浴びる小説の一部になってるのかもなんて思うと、とても貴重な体験をしているような気がしてきた。
だけどそう考えたら実際の人っていうのも案外他人の集まりなのかもしれない。自分自身という磁石に他人を沢山くっつけて、その集合体が私になっているのかも。気が付かないだけで周りから影響を受けて元々の自分にくっついていく。もしそうだとしたら私の一部は一体どれだけ世界に広がっているんだろうか?
すぐに思い付くのは両親と菜月さんと先生と――春人君。
すると何だか逆に私も――私の中にも春人君がいるような気がした。そしてそれは胸の更に奥。お日様よりも心地好い温かさで温もりよりも優しい感覚がじんわり熱々のパンに溶けるバターのように広がっていく。
「そう言う意味では、思考的な部分で言えばどんな人間を創り上げても不正解は無いんだけど」
「ちなみにもし自分だったらどうですか? 入院しててもしくはある日目覚めて、そこに死神がいて一週間で死ぬって言われたら」
自分自身でも分かるけど、あっさりと受け入れてしまった自分は稀有なタイプだと思う。やっぱり普通の人は受け入れられないところから始まるのだろうか。
「んー。そうだなぁ」
私のちょっとした興味の質問に男性は意外と真剣に考えている様子だった。小説家の性ってやつなのだろうか。
そして少しだけ沈黙を挟み男性は小首を傾げながら口を開いた。
「その瞬間になったら全然違うかもしれないけど――多分、普通に受け入れるんじゃないかな」
意外にもそれは私と同じだった。
「平気なんですか?」
「多分平気だろうね。一回でも考えてた事ある出来事が起きても想像の範囲内っていうか、あんまり驚かないだろうし。それに――」
男性は言葉を途切れさせると私を見た。何かを躊躇しているようだ。
「あんまり人生とか生きるとかっていうのに興味ないからね。そこまで生きたいとか折角の人生だし楽しもうとか思ってない冷めた人間だからさ。俺は」
それは私という存在が本当は、この人の書き上げた登場人物なんじゃないか思うぐらい同じだった。分かりますってテンションが上がるような事じゃないけど、ちょっと嬉しくて感動のようなものを感じた。
「ヤバい奴って思われても仕方ないし、その時が来たら意見をひっくり返すかもしれないけど、不老不死にとって死が救いみたいに俺にとって死ぬって言うのはそこまで不幸じゃない。もちろん幸運でもない。変な事言って悪いけど」
「――いえ。正直、分かります。私もそんな感覚なんですよね。自分から死のうとうは思わないですけど、死んでもいいかなみたいな。人には言わないですけど」
「君の立場なら余計に?」
もしこんな体じゃなかったら、と私は別世界の自分を想像してみた。
「――まぁ……。でも今の感覚だと普通に高校生してても心のどこかでは思ってたかもしれないです」
「一見すると良くない考えに聞こえるけど、自分が嫌いとかもそうだしその思考で苦しんだりそれを抱え込むのが辛かったりしない限り全然気にすることはないと思うけどね」
確かに私も今までただ自分がそう思ってるだけって思ってた。別に誰かを否定したり押し付けたりする事もないし、他の誰かはその人の考えとして受け入れる。そんな感じ。
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