「その代わりと言ってはですが、二つほどお教え致しましょう」
落胆を納得が包み込み焼売のようになっていた私へ真さんは指を二本立てながらそう言った。まるで予告編でも見ているみたいに興味がそそられる。
「一つ目は、神様というのは融通か利くと言いますか、割とこちらの要望に耳を傾けてくれたりと素晴らしい存在という事です。当然ながら直接お会いした事は無く、簡単に説明するのなら脳に直接声が聞こえて来るでしょうか」
それは私にとって朗報と言っていいのだろうか? 確かに良い人であるにこしたことはないのだけど、余りにも離れすぎている存在だから良く分からない。さっきは無意識的に神様が創ったなんて言ってたけど、そもそもよくよく考えてみれば――神様って存在するんだ。何気なく私は世紀の瞬間の当事者になっている気がする。
「もう一つは、死神となった我々が最初に担当するのは――自分自身です」
真さんはそう言って自分自身へ手をやった。
でも私はパラドックスを解明しようとしているが如く小首を傾げた。
「自分で自分を見送る? でも自分は既に死んでる訳だから……」
「死神は時間と言う概念から外れた存在。そういった矛盾は生まれません」
そういうもの、理屈がある訳じゃなくてそう考えた方がいいらしい。若干モヤモヤするけど、そういうものだって思うしかないようだ。
だけどそうしてるとまた別の矛盾というか疑問が浮かんできた。
「でも元々人間ならもし真さんを知ってる人がいたら気が付くんじゃない? それともそういう時代とか場所とかは関わらないような仕組みになってたりする?」
「姿形のみならず全てにおいて同じ状態というのは無いのでそのような事はありません。いずれ生前の記憶も消え、我々は死神となるのです。元人間から死神へ。それを象徴するように最初は自分自身を、という事ですね」
「じゃあもし私が死神になったらダンディなおじさんの姿で誰かの前に現れるっていうのもあり得るって事かぁ」
私は実際、映画とかで見た事ある髭を蓄えたダンディな俳優を想像してみた。髭を撫でるように触るのが癖で、声も渋め。基本的にはだらりとしたスーツの上からコートを着て行きつけの喫茶店で買った珈琲を手に持っている。想像が止まらない。
「えぇ。人間という原型さえあれば年齢性別人種に関わらずどのような容姿にも成り得ます。もっとも自身で選択する訳ではありませんが」
でもそう言う事なら春人君と話した時に彼が言っていた女性の死神ってのも現れる可能性があったってことか。
「死神って、自分で言うのもなんだけど、良い人の前に現れるんだよね?」
「そうですね。言ってみれば選ばれた人間の前にのみ現れます。もちろん、良い意味でですが」
そうならきっと春人君の前にもいずれ現れるんだろう。その時は話していたような死神が現れるといいな。私はひっそりとそんな事を祈ってみた。この祈りがその神様にもしくはそういう人を選ぶ委員会とか(それがあるのかは分からないけど)、とにかく届いているのかは全く分からないけど。
でもそもそも、もし委員会とかがあったとして良い人ってどういう基準で決まってるんだろうか? 実際に死神が現れたという事は、私は良い人――つまり善人になるんだろう。
そもそも善って何なんだ? 何を持って善で、誰のどんな基準に基づいて善悪は判断されているんだろうか。人間的な基準なのか神様独自の基準があるのか。それこそ神のみぞ知るってやつなのかも。
「残りは三日となりましたが、いかがでしょうか?」
すると、思考の迷宮へ迷い込みそうになっていた私を真さんの一言が現実へと引き戻した。あと三日で終わる現実へと。
「もう四日経つのかぁ」
改めてそう言われて私は起き上がり雑に今日までを振り返ってみた。
最初に特にやりたい事が無いって言った通り多分だけど、最期の一週間の最初の四日にしては何もしてないような気がする。言い方を考えなければ無駄にしてるような気させする。けれど、楽しかったと言えばそうだ。
そして特別な経験もした――。最初で最後の経験。つい先日の出来事っていうのもあるかもしれないけど、より鮮明で一番色濃く私の中に残っている。それはまるで初めて水平線に沈みゆく夕陽の美しさに触れたような感動さえ感じる。
「まぁ悪くは無いかな」
そう口にする私の口元は自分でも分かるぐらいには緩んでいた。
「でもあと三日かぁ。そう考えると最初の時より実感みたいなのが湧いてきたような……」
そうでもないような、私はそう続ける代わりに首を傾げた。
すると私はふと、又もやこんな疑問を思い付いた。それにしてもよく思い付くもんだ。
「あの。もし、私が一週間を待たずに死にたいって願ったらその望みはどうなっちゃうの?」
最期までに残された時間は一週間。だから一週間後に死ぬってずっと思ってたけど、それを途中で放棄する事は出来るんだろうか? 一週間を待つまでも無く自ら断ってしまう。その場合、死神の行動はどうなるんだろうか。
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