それから音楽の流れ始めた車は少し走り続け、映画館へと到着した。
「さぁーて、何観ようか?」
既に浮かれ気味の菜月さんと共に車を降りた私は人生で初めての映画館へと足を踏み入れた。沢山の人でお祭りの様に賑い、少し薄暗い空間に充満した匂いは甘い。
「何か気になるのある?」
上映中のポスターを眺めながらそう訊かれたけど、首を傾げるしかなかった。
「それじゃあねー。アクションとかどう? やっぱりド迫力の方が映画館で見てる! って感じするし」
「ならあれとかどうですか?」
全部決めてもらうって言うのも申し訳ないから私は比較的、好きな俳優が主演を務めている映画を指差した。
「おっ! いいね。丁度見た事ないし、アタシもちょっと気になってたんだよね。じゃあそれにしよっか」
「はい」
それから菜月さんはチケットを買ってきてくれた。
「じゃじゃーん! なんとカップルシート買っちゃいましたぁ~。アタシも初めてなんだけど、これで数倍快適な席で快適に映画を楽しめちゃうって訳」
戻って来た菜月さんが何やら抑えきれない笑みを浮かべてると思ったらそんな事までしてくれていた。
「いいんですか? そういうのってちょっと高いんじゃ?」
「いいの。いいの。アタシも気になってたし。それよりもうすぐ始まるからポップコーンとか買おうか」
入って来た時は結構売店に列が出来てたけど、まるで私達の為とでも言うように今は空いていた。
「映画館と言えばやっぱポップコーンだよね。どっちがいい? あっ、折角だし半々にしちゃおっか。お腹は? 空いてる?」
「そこまで空いてはないです。一応、お昼食べたので」
「アタシ食べてないから色々買っちゃおうかな」
結局、塩とキャラメルは半分ずつ入ったポップコーンと飲み物、ポテトとホットドッグを購入。もちろん、ホットドッグとポテトは菜月さんのだ。
そして食べ物と飲み物を手に私達は中へ。
「おぉー!」
「凄いですね」
仕切りの無い二人用ソファと前の方にある小さなテーブル、更に足を伸ばす為のフットツールまで置いてある。飲み物は外側に置く場所があって、座り心地は絶妙な柔らかさが全身を包み込み控え目に言って最高。
まだ予告も始まってなかったけど、席の豪華さに感動してる間に辺りは暗闇に包み込まれた。そして大きなスクリーンへ映像が映し出される。初めての映画館が始まった。と言ってもまだ予告だけど。
でも予告から既に音の迫力が私へ襲い掛かった。空気を伝いやってきた音は私の内側へと浸透していく。全身が震えるような感覚だ。
そんな初めての体験に興奮と吃驚を感じている内に本編が始まった。パフレットを軽く見たけど、とあるテロリスト組織を追う為に結成された特殊チームに参加した主人公の前に大学時代の元カノが突如現れたが、彼女は追っている組織の幹部だったみたいな話らしい。主人公は社会人になって交際を続けたいと思うぐらい好きだったけど、卒業と共に別れを告げられた元カノとの再会。組織と追うチームと主人公と元カノと、そう言う部分を楽しんだり出来るらしい。
アクション要素もあって最後も面白かったし、初めての映画館で見るには十分な作品だった。ゆったりとくつろいで観られたし、アクションシーンでの音の重圧も凄かったし、それにポップコーンとポテトも美味しい。
「どうだった?」
映画が終わり周りの人が立ち上がる中、訊き返すまでもなく満足気な表情を浮かべた菜月さんは片付けをしながら感想を訊いて来た。
「すっごく良かったです! 特に音とか周りから全身に響く感じで。あとこの席も座り心地好くてリラックスして観れました」
「この伸び伸びとした席いいよねぇ。アタシもこれから普通の席で観れなくなっちゃうかも」
それから私と菜月さんは映画の感想を話しながら外へ出るとそのまま車に乗り込んだ。
「いやぁー盛り上がって来た! 次はどこいこっかー」
そう言いながら考え始める菜月さんは来た時より楽しそうだった。ニコやかな表情から溢れ出す春陽のような感情が車内一杯に広がるのを感じる。もしかしたら感情は伝染するのかも。気が付けば私の中にも少し日が差している気がした。
「そーだ。ショッピングとかどう?」
「服ですか?」
「とか色々」
「私そういうの全然分からないですけど……」
「いやいや。分かる分からないじゃなくて楽しめばいいの。可愛い物見つけたり、似合わないだろうけどこんなのいいなぁって妄想したり、後は高めのに感動したりね。買うだけじゃなくて見て試着するだけでも楽しいんだから」
ショッピングの良さを語る菜月さんのときめく表情は説得力に満ちていた。
「そんな訳で今から桜咲ちゃんで色々と遊んじゃおっかな」
悪戯っ子のような表情で笑みを浮かべながら菜月さんは車を発進させた。映画館からそんなに遠くない場所にあるショッピングモールまで、車内は音楽で満たされつつも映画の感想で盛り上がっていた。
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