そしてショッピングモールに着くと私は菜月さんと一緒に洋服屋さんへ。シンプルなお店には当然だけど服がずらり並べられていて、落ち着いた様子の美人な店員さんは大人のお洒落って感じの恰好をしている。
「さて。桜咲ちゃんはどんな服が似合うかなぁ」
そう言ってそのお店へ入って行った菜月さんは早速、色々と服を見始めた。外観はもっと大人の女性向けの服が置いてあるのかと思ったけど、意外にもその種類は豊富。結構、幅広いお客さんが来られるお店らしい。
「桜咲ちゃんスカート似合うもんね。あっ、もっと短いやつとかいいんじゃない?」
菜月さんが手に取って見せたのは制服よりも丈の短いスカート。
「いやぁ。これはちょっと……。落ち着かなさそうですし」
「何言ってんのJKちゃん。学校でもこれぐらいでしょ?」
「もう少し長いですよ。膝ぐらい?」
「そうなの? アタシが高校生の時なんて上げまくりよ」
何故か勝ち誇ったような表情を浮かべる菜月さん。でもスカートを短くして履いている菜月さんは割と簡単に想像出来る。きっとモテたんだろう。
「もっとこう生足でガンガン若さを楽しまなきゃ」
「菜月さんもそういう恰好するんですか?」
「アタシ? 今は流石にちょっとね……。でも桜咲ちゃんなら絶対に可愛い!」
「そうですかねぇ……?」
でも不信感しかない私よりも絶対的な自信を持つ菜月さんに少し気圧され、思わずそのスカートを受け取ってしまった。というより受け取らざを得なかったって言った方がいいのかもしれない。
そしてその黒のシンプルなスカートはあてがってみるが――やっぱり短い。まだ履いてないが既に何か不安が足を疼かせていた。
「生足も良いけどタイツとかも良いかもね」
そんな私を見ながら涎を零しそうな変態的な表情を浮かべる菜月さん。私はそっとスカートを戻した。
「菜月さんはスカートとか履かないんですか?」
「そーだなぁ」
悩む声を出しながらスカートの森を掻き分ける菜月さんは一つのハンガーを手に取った。
「こういうのは履いたりするかな」
それは私が履いてるのより大人っぽいロングスカート。軽くあてがうだけでも十分似合っている。
「このスカートいいかも」
「似合ってますよ。大人な感じがして」
「ほんとにぃ? そんな事言われたら買っちゃうよ」
そう言いつつも菜月さんは取り敢えずと言った様子でスカートを戻した。
「桜咲ちゃんは夏だとワンピースとかオーバーオールとかも似合いそうだよね。後は……」
想像上の私はきっと色んな格好をさせられているんだろう。菜月さんは色々と候補を呟きながら別の棚へ行くと細めのパンツを手に取った。
「こういうパンツにパーカー着て、シャツか上着と帽子っていうのも可愛いかもね」
それからも菜月さんと一緒にニットやスエットとかコートとか店内を歩き回って色々と洋服を見て回った。私には似合わなそうな服や少し着てみたいって思うような服。お互いに似合いそうな服を選んだり、好きな服をあてがってみたり――。
そうやって店内を回るだけで気が付けば笑ってる。沢山の種類があって見るだけでも楽しかったけど、そうやって菜月さんと盛り上がりながらっていうのが何よりも楽しかった。
そして洋服の次は靴屋さん。菜月さんはスニーカーとブーツをよく履くらしい。夏はサンダルも。
「ちゃんと支えて下さいね」
「大丈夫だって。ほらゆっくり立ち上がって」
私は菜月さんの手を借りながら人生初のハイヒールを試履してみた。何ならヒール自体初めてだ。こんな細い棒二本に自分を預けていいものなのか、そんな不安を煽る見た目に私は生まれたての小鹿のようになっていた。溺れているのかと言われそうな程に菜月さんへしがみつく私の視線は少し上がったものの前屈みでプラマイゼロ。
「ゆっくりまずは一歩」
小さな歩幅で三歩ほど歩いてみるが、綱渡りでもしてるみたいだ。
「こんなの履いてたら怖くて歩けないですよ」
「意外と慣れたら履きこなせるかもよ」
例え百歳まで時間があったとしても多分無理だと思う。それに自分がこれを履いて街中を歩いてるイメージは一切湧かない。一応私の後に菜月さんもハイヒールを履いてたんだけど、あんまり履かないとは言いつつも見事な足取りで歩いて見せた。若干のドヤ顔と共に。
そして靴屋の後もアクセサリーとか別の服屋さんとか色々とお店を回っては、何も買ってないもののショッピングを楽しんだ。こんなに楽しんだのはいつぶりだろう。そう感じる程に私は心から笑っていた。一昨日の罰のような悲劇も明日死ぬって事さえも忘れて楽しんでた私は――どうかしてるんだろうか? 明日死んでしまうのにこんな平然としてて。まるであの悲しみも演技の嘘のようで……少しだけ自分の正気を疑ってしまう。
「疲れた?」
それはモールからの車の中。いつの間にか黙り込んでいた私は運転しながらの菜月さんの声で我に返った。
「いや、大丈夫ですよ」
季節も相俟って外はすっかり暗くなっている。こんな時間に外にいるのも改めて考えてみれば不思議な感じだ。
「最後に一つだけ寄っていい?」
「いいですけど、どこに行くんですか?」
「アタシのお気に入りの場所」
着いてからのお楽しみ、笑みを浮かべた菜月さんから返って来たのは思わず首を傾げてしまう返事。気になるけど、今の私に出来る事はただ只管に菜月さんに連れられるがままこの文明の利器に身を任せるだけ。
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