入学してから、数日が経った。あの日出会ったカイルとリアとは、気がつけば行動を共にすることが増えていた。
特に昼休みになると、三人で食堂へ向かうのがいつの間にか当たり前になっている。まだ知り合って間もない。それでも、隣に誰かがいることには、少しずつ慣れてきていた。
そんなある日。エルディア学術院では、新入生を対象とした実力測定が行われることになった。
会場は、学術院の中央に構える大訓練場。普段の授業で使われる訓練場とは比べものにならないほど広く、地面には大小様々な魔法陣が刻まれている。周囲には観覧席まで設けられ、そこには上級生らしき学生たちの姿もちらほらと見えた。
「すごい人数だね」
隣に立つリアが、周囲を見渡す。
「うん……」
エルも頷いた。
今日は魔法学、武学、それぞれの新入生が一堂に集められている。そのため、教室では見かけなかった顔も多い。
期待と緊張。様々な感情が入り混じった空気が、訓練場を満たしていた。
やがて、中央に立った教員が声を張り上げる。
「それでは、これより新入生実力測定を開始する!」
ざわめきが、潮が引くように静まった。
「まず、エルディア学術院の学院ランクについて説明する!」
教員が手を掲げる。
すると、空中に淡い光の文字が浮かび上がった。
――ルーキー。四級。三級。二級。準一級。一級。特級。
「入学したばかりの学生は、原則として全員ルーキーから始まる! 今回の実力測定によって正式な評価を受け、その結果に応じて学院ランクが決定される!」
エルは宙に浮かぶ文字を見つめた。
「学科によって重点は異なるが、評価されるのは一つの能力だけではない! 魔法技術、剣術、身体能力、知識、判断力、実戦能力――それぞれを総合して、学院ランクを決定する!」
つまり、魔力量だけでは上位になれない。
逆に言えば、魔力が少なくても、他の能力に秀でていれば高い評価を得られるということだ。
「また、学院ランクは一度決まったら終わりではない! 定期試験や実戦、任務などの成果によって昇格することもあれば、成績次第では降格することもある!」
「へえ……結構厳しいんだね」
リアが小さく呟いた。
「ちなみに三級以上になると、教員同行のもとでギルドの簡単な任務に参加できる! 二級以上なら、条件を満たした上で学外任務への参加も認められる!」
その言葉に、周囲がわずかにざわついた。
魔物討伐。護衛。遺跡調査。学術院に籍を置きながら、実際の世界へ足を踏み出すことができる。
エルの胸の奥で、小さく何かが跳ねた。ただの学生として生きる。そう決めて、ここへ来た。
けれど、魔法を学ぶ以上、いつかは実戦へ足を踏み入れることになるのだろう。
少しだけ楽しみだった。同時に――怖くもあった。
「それでは、測定を始める!」
最初に行われたのは、魔法学の測定だった。
魔力量。魔力制御。術式構築。
一人ずつ測定用の魔法陣へ立ち、その結果が記録されていく。
順番を待つ間、エルは自分の手を見つめていた。大丈夫。魔力を抑えていれば、問題ない。
そう自分に言い聞かせる。やがて。
「次、エルディアス」
「……はい」
名前を呼ばれた。
エルはゆっくりと列を離れ、魔法陣の中央へ歩み出る。台座へ手を置いた。
その瞬間――。身体の奥へ、何かが触れた。
「……っ」
強い。測定器が、自分の魔力を引き出そうとしている。
直後。足元の魔法陣が、強い輝きを放った。
「……!」
周囲から、小さなどよめきが起こる。
心臓が跳ねた。まずい。強すぎる。やはり、自分の魔力量は同年代の学生としては明らかに多すぎる。
だからこそ――目立ちたくなかった。もっと弱く。もっと普通に。
エルは必死に魔力を押し留めた。流れ込んでくる魔力を抑え、意図的に出力を落としていく。
やがて、魔法陣の輝きが落ち着いた。
「……測定値、記録」
教員が測定器へ目を落とす。
「魔力量は……非常に高いな」
エルの胸が、僅かに縮んだ。
けれど。
「ただし、魔力制御は平均より少し上程度。術式構築も標準的か」
「……はい」
エルは内心で、そっと息を吐いた。
魔力量だけは、どうしても完全には隠しきれない。ならば、それ以外を抑えればいい。
「終わり」
「ありがとうございました」
エルは一礼し、列へ戻った。
「お疲れ様」
リアが声を掛けてくれる。
「うん。リアは?」
「私、次」
そう言って、リアが魔法陣へ向かった。
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