エルは、その背中を見送る。
やがて測定が始まった。魔力が測定器を満たしていく。制御は安定している。術式構築にも無駄がない。
結果は、どれも申し分のないものだった。傍から見ているエルにも、かなりの実力だということが分かる。
けれど本人は、
「まあ、こんなものかな」
と、さして気にする様子もなかった。
その後、武学の測定も行われた。カイルは剣術と身体強化魔法を組み合わせ、派手さこそないものの、安定した結果を積み上げていく。
「悪くはないな」
教員が記録を確認しながら頷いた。
「身体強化魔法も剣術も基礎がしっかりしている」
「どうも」
カイルは軽く笑う。
「まあ、普通ですけどね」
その一言に、エルは思わず彼の横顔を見た。
普通。けれど、その言葉を口にするカイルの表情には、卑屈さがまるでない。自分を低く見積もっているわけでもない。ただ、今の自分をそのまま受け入れている。それだけだった。
やがて、全員の測定が終わった。結果が集計され、訓練場の一角に設置された掲示板へ表示されていく。
学生たちが一斉に集まった。エルも、その人波へ加わる。自分の名前を探す。長い名前が並ぶ中から、ようやく見つけた。その横に表示されていたのは――。
学院ランク 三級。
「……三級」
エルは小さく呟いた。
悪くない。むしろ、新入生として考えれば十分な評価だ。少なくとも、目立つほどではない。
視線を隣へ移す。リアも――三級。
そして。
「俺、四級か」
カイルが掲示板を見上げながら笑った。
「まあ、最初はこんなもんだろ」
「悔しくないの?」
リアが尋ねる。
「そりゃ、上がれるなら上がりたいけどな」
カイルは肩をすくめた。
「でも、これが今の俺ってことだろ?」
そして、掲示板に表示された自分の名前を見る。
「なら、上げりゃいい」
あまりにも簡単に言うものだから、エルは一瞬、言葉を失った。
自分だったら、どうだっただろう。もし低い評価を受けていたら。きっと、自分には価値がないのだと思い込んでいた。
今までの自分なら、そうしていたはずだ。
だからこそ。カイルのその考え方が、少しだけ羨ましかった。
そのときだった。
「……少しはやると思ったけど、案外普通だね」
背後から声が投げかけられた。三人が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少年だった。
エルフ。整った顔立ちに、長く伸びた銀髪。鋭い目には、どこか人を見下ろすような色がある。
「僕は、ルシエル・アルヴァート・グランディス」
一切の迷いもなく名乗った。
「三大魔法師、アルセリオン・グランディスの息子だ」
その名前に、周囲の何人かが反応する。エルも聞き覚えがあった。
三大魔法師。その一人、アルセリオン・グランディス。魔法を学ぶ者なら、知らない者はいないほどの人物だ。
ルシエルは、周囲の反応を当然のものとして受け止めていた。
「僕は魔法師として、父の名に恥じない人間になるつもりだ」
そう言って、掲示板へ視線を向ける。
彼の名前の横には――二級。
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