「今の魔法、わざと威力を落としただろう」
「……」
エルは答えなかった。
「実力測定のときもそうだった。今日も同じだ」
「別に……」
「別に?」
ルシエルの眉が、わずかに動く。
「君は、あれだけの魔力を持っている。それなのに、どうしてそんな使い方をする?」
「……僕には、これくらいで十分だから」
「十分?」
ルシエルの声が低くなる。
「君は、自分の力を理解しているのか?」
「……」
「少なくとも、僕にはそうは見えない」
「どういう意味?」
「実力測定のとき、君は魔力を抑えた。今日も同じだ」
ルシエルの視線が、エルの手へ落ちる。
「魔力量だけじゃない」
「……」
「君の魔力操作も、さっき見せたもの以上にできるんじゃないか?」
「……どうして?」
「術式を組むときの魔力の流れが、妙に整っていた」
ルシエルは淡々と続ける。
「あれだけ制御できるなら、さっきの《火弾》は不自然だ」
「……」
「君は魔法が下手なんじゃない」
ルシエルは、静かに言い切った。
「下手に見せている」
胸の奥が、わずかにざわついた。
「でも……」
エルは視線を落とした。
「僕は、そんなに強くなる必要はないから」
「……必要がない?」
その瞬間。初めて、ルシエルの表情から余裕が消えた。
「君は……本気で言っているのか?」
「うん」
「あれだけの魔力を持っているのに?」
「……」
「三級という評価に甘んじて、それで満足なのか?」
「別にそういうわけじゃ……」
エルは言葉を止めた。少しだけ迷ってから、口にする。
「僕は、普通でいいんだ」
「……普通?」
ルシエルは、その言葉を理解できないように繰り返した。
やがて、苛立ちを滲ませるように小さく息を吐く。
「君は、自分の才能を無駄にしている」
「……そうかもしれない」
「そうかもしれない、じゃない」
ルシエルが一歩、距離を詰める。
「君がどれだけの魔力を持っているのか、僕は測定のときに見た」
「……」
「あれだけの魔力を持ちながら、それを抑えている。使えるはずの力まで使おうとしない」
鋭い視線が、エルを射抜く。
「僕には理解できない」
「……ごめん」
その一言に、ルシエルの表情が険しくなった。
「なぜ謝る?」
「え……」
「君は何も悪いことをしていないだろう」
「でも……」
「なら、謝るな」
強い口調だった。エルの肩が、びくりと小さく震える。
ルシエルはしばらくエルを見つめたあと、静かに言葉を継いだ。
「僕は、強くなりたいと思っている」
「……」
「自分の力を磨いて、誰より優れた魔法師になりたい。そのために勉強もするし、鍛錬もする」
その瞳には、迷いがなかった。
自分が何を望んでいるのか。その答えを、彼はとうに知っている。
「だからこそ、君が理解できない」
「……何が?」
「力を持っているのに、それを使わない理由が僕には分からない」
エルは何も言えなかった。答えようと思えば、答えはある。
使ってはいけない。目立ってはいけない。知られてはいけない。
けれど、それを口にすることはできない。
ルシエルも、それ以上は追及しなかった。
「……まあいい」
やがて、背を向ける。
「君がそのつもりなら、僕には関係ない」
そう言って歩き出す。
だが――。
「ただ」
足が止まった。
「僕は君に興味がある」
「……僕に?」
「ああ」
ルシエルが振り返る。
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