「助けようとした?」
「……」
答えられなかった。
「いや、別に責めてるわけじゃないぞ?」
「……違う」
「違う?」
「僕は……」
言葉が喉につかえる。何と言えばいいのか分からない。
しばらく迷ったあと、エルは小さく息を吐いた。
「……助けたかった、とは思う」
「そっか」
少年は、あっさり頷いた。
「じゃあ、助けようとはしたんだな」
「……でも、何もできなかった」
「何もできなかったんじゃなくて、迷ってたんだろ?」
「……」
「だったら、次は迷わなきゃいい」
あまりにも簡単に言われて、エルは目を見開いた。
「……そんな簡単に、できるかな」
「さあ?」
少年は笑った。
「俺も、できるかどうかなんて知らないし」
そして、先ほど殴った拳を軽く振る。
「もしかしたら、さっき俺が三人にボコられてたかもな」
「……」
「でも、そんときはそんときだろ」
少年は声を立てて笑った。その笑い方は、不思議なくらい軽かった。
失敗するかもしれない。負けるかもしれない。それでも、まず動く。
エルには、そんなふうに見えた。
「ところで、一年?」
「うん……」
「やっぱり。まだ学術院に慣れてない顔してると思った」
少年が右手を差し出す。
「俺、カイル。カイル・レグナード・フェルディス。武学科の一年」
「……エルディアス」
「エルディアス?」
「うん。エルディアス。エルディアス・ヴェル・レグナ・アシュレル・セレディオ=グラディア……」
そこまで言って、エルは少し困ったように笑った。
「長いから……エルでいいよ」
「じゃあエルな」
カイルは何のためらいもなく呼び捨てにした。
「よろしく」
「……よろしく」
差し出された手を、エルは少し迷ってから握り返した。
その手は、さっきまで誰かを殴っていたとは思えないほど温かかった。
「ところで、エル」
「何?」
「食堂行くんだろ?」
「……え?」
「俺も行くところなんだよ。ほら、昼飯」
カイルが廊下の先を指差す。
「一緒に行こうぜ」
「でも……」
「ん?」
「僕なんかと一緒でいいの?」
口にした瞬間、エルはしまったと思った。
まただ。どうして自分は、こんなことを言ってしまうのだろう。
けれどカイルは、きょとんとした顔をしただけだった。
「なんで?」
「……」
「一年同士だろ? 別にいいじゃん」
「……」
「それとも、俺と飯食うの嫌?」
「……そういうわけじゃ」
「じゃあ決まり」
カイルはエルの返事を待たずに歩き出した。
「ほら、行こうぜ」
「……うん」
エルも、その背中を追った。
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