肇の肩に乗っているカラスはまるで生きているかのように見えて、蒼は本当に人形か疑った。
「とりあえず、カメラを瞳に仕込んで能力を使用した完品だよ。役目を終えたら、カメラを外して元々つける予定だった瞳に変えるけどね。オレにのぞき見の趣味はない」
「それでいいと思う」
「そう、じゃぁ、この子持って」
肇は蒼の返事を聞くと肩に乗せていたカラスを蒼の手の上に乗せた。
羽の感触や生暖かさまで感じ、実は本物のカラスではないかと全身をくまなく観察する。
そして、最後に瞳を確認する。二対の目は確かにカメラのレンズであることを確かめて、本物に限りなく近いが人形であることに納得する。
「凄いな、瞳さえ覗かなければ本物にしか思えない」
「まっ、オレが丹精込めて作った作品だからね。今から、君にカラス《この子》の操縦権を与える。これで、オレ以外の命令も聞くけど、第一優先はオレになる。それはいいね?」
「問題ない! ってかそれは当たり前じゃね? それこそ最優先度を与えたら自分の知らないところで利用されて、罪だけ押しつけられる未来しか見えないしな。少しお兄さんのこと見直したよ」
「……へぇ、わかってるじゃないか。オレも少し君の評価を見直そう」
蒼はカラスを左手で抱え直すと、右手を肇に差し出し、2人で固い握手を交わす。
蒼は肇から手を離すと、カラスは思い出したかのように翼を広げようとした。すぐに片手で抱えるのをやめて、両手のひらの上にのせる。
蒼の手の上で翼を広げたカラスは、肇を見る。
「じゃ、君とカラス《この子》のパスを繋げる。体に触れても問題ない?」
「大丈夫!」
「そう、なら遠慮なく」
肇は蒼に確認すると翼を広げたカラスの頭と、蒼の額にそれぞれ手を当てる。細い糸状の光がカラスと蒼を結んでいるのが見える。
それと同時に、蒼は感覚的に人形と繋がったと分かった。しかしそれも一瞬で、肇が手を離すと同時にぷつりと糸が切れたような感覚がして、繋がりを認識できなくなる。
「……?」
「ああ、通常だと認識できないよ? 日常生活に影響が出るからさ。じゃぁ、簡単な講座といこうか」
蒼が首をかしげると、それだけで蒼の疑問が分かったようで肇は微かに笑う。
蒼はチラリと後ろを確認すると、昴と琉架は状況を見守っている。葵だけが、淡々と机の上の湯飲みをシンクで片付けている。
唯華が三毛猫を借り受けたときに、葵は一度確認しているんだろうなとすぐに判断できた。
そんなことを考えていると、肇の講座が始まった。
「慣れるまでは、目は閉じた方がいい」
「感覚系か」
「そう、目を閉じて微かな繋がり――光を見つけられる?」
蒼は指示通りに瞳を閉じて、従う。確かに、頭の片隅に暖かい光があるように感じる。
「見つけたら、その光に指示を出す」
「……飛べとか?」
「とりあえず、それでいいだろう」
言われたとおりに頭の片隅にある光へと飛ぶように命じる。すると手の中で翼を羽ばたかせる音が聞こえたと同時に、重みが消えた。
カラスが飛んだんだと認識し、瞳をあげる。カラスは蒼の頭の上を旋回していた。
「おおー、すげぇ」
「一応、先に出した指示は半永久的に従うから、終わりならその指示も。半径5km以内なら指示の変更や居場所の確認は可能。それ以上離れると居場所や指示は通らなくなる」
「なるほどな、先に行って欲しい場所と行動指示が大事ってことか」
「そう。あと、危険な目に遭わせるのはオレが許さない」
「そこは、大丈夫。基本的にカラスに擬態してもらって情報得るつもりだったから」
「それなら、いいや。……神庭」
肇は蒼に簡単に説明をすると、琉架に声をかける。見守り態勢に入っていた琉架は驚いたように肇を見るも、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「どうした、一宮?」
「君を彼女との連絡の中継役にしたいんだけど、いい?」
「俺はいいけど、朽梨さんは?」
「朽梨君は吹雪との連絡の中継役で分けたい。一人に全ての情報を集約するのは何かあったときに危険だ」
「それもそうだね、わかった」
琉架が頷くのを確認して、肇は食器棚を漁り始めた。
「それで、もうオレへの用は終わったんだろ? さっきと同じ手段で帰っていいよ。……椎名だったか、カラス《うちの子》は大事にしろよ?」
「おうっ、お兄さんも大事な子を預けてくれてありがとな!」
蒼は満面の笑みで返す。そして、昴を見た。
「とりあえず、明らかに早く帰れオーラがお兄さんから出てるから、すーさんがこれからどうするかは上で話す?」
「空気の読める子供で助かるねぇ」
肇は食器棚からクッキー缶を取り出すと、マグカップを持ち珈琲の準備をし始めた。
マイペースだなと蒼は笑う。そして、肇の性格は嫌いじゃないなとさらに好感を持つ。
葵が呆れたように一度息を吐くと、蒼達に向き直った。
「とりあえず、上に戻ります。一宮さんも何かあったらいつも通りに連絡を」
「わかった。それじゃーな」
扉に向かう蒼達を椅子に座りながら一宮はゆるく見守る。昴だけが丁寧に頭を下げて、部屋を後にした。そして、平屋の1階へと戻る。葵の案内で寝室を抜けて、肇の人形のいた居間に向かうと思いきや、台所へと案内された。
台所は簡易のテーブルも置いてあった。
「とりあえず、ここがこの家で一番中心にあり、まず外部からの侵入や盗聴の可能性が低いとあいつが言っていた。……そして俺は今、ここを離れられない。話せる範囲での情報共有と昴がこれからどうするかの確認なら、ここが最適だと思う」
葵はそう伝えると、静かに扉を閉めた。
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