蒼は眞琴の部屋の前に到着すると、琉架の手を掴んでいるのと反対の手でコンコンと2度扉をノックした。
「まこっさん、入るぞー」
そして返事も聞かずに扉を開ける。
「えっ、蒼さん!?」
扉を開けた途端に、琉架が驚きの声を上げるが、蒼は無視した。この家の住人にとって、蒼がノックさえすれば勝手に部屋に入ってくることは常識だ。気にするだけ無駄なことを琉架にわざわざ伝える必要もないだろう。
「……椎名か。思ったより遅かったな」
いつもの定位置。パソコンの前で足を組んで椅子に座っていた眞琴が、くるりと椅子を回転させて扉の先にいる蒼を見た。
やっぱり慣れているから、反応は薄いなと思いながら蒼は、琉架の腕を引っ張りながら室内へと入ると、後ろを向く。
「すーさんも、知りたいなら、早く!」
「……来宮さん、お邪魔します」
少し躊躇ってから昴も眞琴の部屋の中に入ってきた。
蒼は琉架をソファに強制的に座らせると、眞琴に近付いた。
「まこっさん! カメラの見方の説明も欲しいんだけど、ツテに指紋検証出来るところあったりする?……って、盆栽、車に置いてきた! 琉架さん、鍵貸して、取ってくる!」
「えっ?」
蒼は眞琴の近くからすぐに琉架の元に戻ると手を差し出した。
「相変わらず、自由だな、椎名」
蒼の奇行になれている眞琴が呆れたように呟くのを聞きながら、蒼は早く鍵をちょうだいと琉架を急かす。
「えっ……これが車の鍵だけど……」
「ありがと! すぐに返すな!」
蒼は勢いに押されて戸惑いながら鍵を取り出した琉架から奪うように受け取ると、そのまま入口へと走る。
「あっ、すーさんも琉架さんと待ってて! すぐに戻る!」
「えっと、蒼さん!?」
昴の戸惑いの声すら、無視して蒼は玄関まで駆け出した。
眞琴が指紋の検証が出来ることを疑いもせず、指紋検証に必要な盆栽を取りに行くことしか、今の蒼の頭にはない。
玄関を出て、琉架の車を開けると、後部座席から盆栽の入った袋を取り出す。
そして、来たときよりは慎重に、眞琴の部屋へと戻った。
◇◇◇◇
「お待たせー!」
眞琴の部屋に戻ると、異様な空気が流れていた。昴と琉架が居心地が悪そうに
ソファに並んで座り、眞琴は2人の存在を無視して、パソコンで作業をしている。
蒼は空気が悪いことも気にせずに扉を閉めると、まず琉架に近付く。
「鍵ありがとな!」
「あっ、うん」
琉架が鍵を受け取ったのを確認すると、迷わずに眞琴の元へと戻った。
「で、まこっさん! さっきの話だけど」
「指紋の検証か? 吹雪に感謝だな。あいつがこの設備を整えたときに、かなり犯罪捜査に私を利用するつもりだったらしく、大体の物は揃っているぞ」
「さっすが! でもまずはカメラの見方から教えて!」
「そうだろうな、既に吹雪は知っているしな」
「やっぱりか。まこっさん経由って聞いたからその可能性は高いと思っていたよ」
蒼はガッツポーズをする。そして、後ろを振り返る。
「琉架さんも、カラスの映像見たいよな?」
「えっ……あっ、うん。僕も見て良いなら知っておきたいな」
「だよな!」
突然話を振られて戸惑った様子の琉架の元に蒼はまた近付く。
「そういえば、紹介がまだだったな! 琉架さん、あそこにいるのが来宮眞琴さん。琉架さんなら知ってるか?能力者研究所から行方をくらました天才研究者」
「へ?」
「で、まこっさん。こっちが神庭琉架さん!」
「ほぉ、神庭会の次期組長か」
「おっ、流石! 知ってたんだ」
「え?」
蒼は笑いながらくるりと眞琴の方へ向く。琉架が混乱している様子がうかがえたが、今は話を進めるのが先決だ。
目を白黒させている琉架が視界の隅に入ったが、蒼は無視した。
動揺に混乱することが多く、最近慣れてきた様子の昴が、琉架の肩をポンと叩くのが見えた。
「私は、能力者研究所にいたんだ。能力者主体の神庭会を知らないわけがないだろ?」
眞琴は興味なさそうに琉架を一瞥すると、パソコンへ向き直る。
「それよりも、椎名以外に次期組長も聞くなら、こっちに来い。カメラに接続する暗号化したサイトを教える」
「おおっ、これ誰が見たとか分かるのか?」
「そこまで詳しくはしていない。ただ、パスワードを知らずに入った奴にはウイルスと逆探知が行くように設定はしてある」
「片方だけでも良いのに、両方とか、流石まこっさん」
蒼はおなかを抱えて笑う。そして、もう一度振り返り、琉架の手を取る。
「俺は多分独自で動くときは動くから、神庭会としても情報は多い方が良いだろ?」
「そうだけど、待って、蒼さん。……少しだけ落ち着きたい」
「敵は待ってはくれないぜ? 慣れないと!」
「いや、君は僕の敵じゃないよね?」
有無を言わせずに蒼は琉架を引っ張る。つられるように琉架がソファから立ち上がり、半ば強制的に眞琴の待つパソコンの前まで連れてこられた。
「とりあえず、携帯だしな。サイトのURLを教える。後でパソコンなり好きに入れれば良い。大事なのはIDとパスワードだ」
「IDは共有?1人1つ?」
「1人1つだ。漏洩した際に潰しやすい」
「なるほどな。その漏洩したIDにウイルス送って見えなくする感じか?」
「そうだ」
眞琴と蒼は2人してニヤニヤとあくどい笑みを浮かべた。
そして、蒼と琉架の携帯に眞琴がサイトのURLを送る。そして、それぞれに口頭でIDとパスワードを伝えた。
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