車まで蒼が喋らなかったからか、無言の時間が続いた。車に乗り込むと、昴と琉架の瞳が蒼を見据える。
「外からだと、何も見えなかったんだけど、どうだったの?」
「……猫が」
「猫ですか?」
「猫が、いきなり足下に突進してきて、予想外の接触になったんだよ! 思いっきり確認できたけど!」
蒼は、一度呼吸を整えて落ち着く。そして、合ったことを正直に話した。
「転けて、店員の上に馬乗りになった」
「はい?」
昴と琉架の声が重なる。しかし、蒼は気にしない。
「触った感触は限りなく人に近付けようとしていた。皮膚っぽい感触も確かにあったけど、固さが骨と言うには違和感というか、筋肉がない? そんな感じ。さらに、目が合ったんだけど、瞳はガラス玉で精巧に作られていたけど、瞳孔なし。顔は、映像で見た春宮にそっくり。というわけで、あの店員が人形だったのは確定だ」
「待って、蒼さん。思った以上にがっつりと接触していない?」
「問題ないって話ではない気がしますが?」
蒼が一息で店内で接触した店員について伝えると2人は目を丸くしながら一瞬呆けた後に、ほぼ同時に口を開いた。
「全ては猫が悪い! それに、店員の反応が薄くて、なんかプログラミングされたことをただやっている感じがしたんだよな。正直、目が合ったように俺は思ったが、相手の目には俺が映っていなかった。仮に、瞳がカメラだとしたら分かったはずだ。それがなかったことを考えると、あの人形は、社会実験の可能性も出てきたな」
「社会実験?」
琉架が不思議そうに聞く、昴も無言だが、蒼から視線を逸らさない。
「そう、人間のフリをした人形がバレずに働けるかって。店もおかしかったしさ。変な商品に、値札がなくて、店員のタブレットでのみ値段が分かる。商売する気がないんだよ。そんなの社会実験の可能性が高くないか?」
「実際に見ていないから、僕はなんとも言えないかな?」
琉架は自分の考えを伝えながら、車にエンジンをかける。
「どうする? 神庭会に戻る?」
「いや、駿河家に行きたい。道案内するから、向かってもらってもいい?」
「それは良いけど、俺も行って大丈夫?」
「それは、大丈夫! 来る者拒まずだし、俺の知り合いなら問題ないだろうし」
「わかった、昴君も一緒にで大丈夫?」
琉架は後部座席を振り返りながら昴にもきちんと確認をとる。
「大丈夫です、琉架さん。私も今はそこに住んでいますから」
「そう? なら、蒼さん、道案内お願いね」
「おう!」
蒼が店に入っている間に2人は少し仲良くなったようだ。昴と琉架の間に流れる空気の違いに蒼は一瞬交互に二人を見たが、口を噤む。
そして、静かな車内を蒼が時折する道案内の声だけがこだました。
車は順調に進み、駿河家の駐車場に到着した。
蒼の指示で空いている駐車場に琉架が車を停める。
「立派な建物だね」
琉架は車を降りて、駿河家を見ながら、少し居心地が悪そうにしている。
「そう? 俺的には琉架さんの家も大概だと思うよ?」
「まぁ、日本家屋と、西洋系の家で少し見慣れていない感じが強いのかもしれないけど……」
「それはあるかもなー」
蒼が先導する形で、駿河家の玄関へと向かう。
玄関を通り、リビング代わりのロビーに入ると、そこにはいつも通りの面子が各々自由に過ごしていた。
「ただいまー! まこっさんいる?」
「蒼おかえりー。眞琴さんなら、いつも通り部屋に籠もってるよー」
「あっ、昴さんもお帰りなさい。突然、飛ばしてごめんね? 文句はゆいにお願いします」
朝陽と月陽が蒼に近付いてきた。月陽は昴を見るとすぐに謝罪する。そういえば、肇の家に説明もなく飛ばされたって言っていたなと蒼は思い出す。
「大丈夫です、気にしていません」
「それはそれで、気にした方が良いよ? じゃないと本当に良いようにゆいにこき使われるから。……気にしても使われるけど」
ぼそりと月陽が追加する。
「昴さん、お帰りなさい。……そちらの方は?」
奥の方にいた理人が、昴の後ろで居心地が悪そうにしている琉架を見た。
「神庭琉架さん! 協力者!」
「……神庭って、あの?」
「そう! 次期組長!」
「ちょっと、蒼さん!?」
理人の質問に蒼は迷わずに答えると、琉架が焦ったように蒼の肩を掴んだ。
蒼は、不思議に思いながら振り向くと、少し表情の強ばった琉架がいた。
「どうしたんだ?」
「いや、どうしたじゃないよ? 何当たり前のようにバラしてるの? あと、なんで普通の人が神庭会のこと知ってるの?」
琉架は少し混乱している様子があった。しかし、蒼は気にせずに屈託のない笑顔を向ける。
「ここは、能力者が多く住む家だし、ゆ……吹雪の影響で少し裏社会に足を突っ込んでるから、ある程度の裏事情は知ってるぞ?」
「知りたくなかったけどね……」
「右に同じ」
蒼の説明に理人と月陽はため息をこぼす。
「あれれ? りっくんも月陽ちゃんもため息ついたら幸せ逃げちゃうよ?」
「朝陽は、ギリギリ関わってないから、そういう反応できるのよ……」
「そうだね。……じゃなくて、お客さん、すみません。内輪ネタで盛り上がってしまって。お茶でも出しましょうか?」
理人が、そうだったというように琉架を見る。琉架は勢いに押されたのか唖然とした表情だ。蒼は、チラリと琉架を見るも、まぁいいか! とそのまま琉架の手を取る。
「俺らはまこっさんに用があるから、大丈夫! 琉架さん、すーさんも行くよ!」
「え?」
戸惑っている、琉架の手を引っ張りながら、蒼は眞琴の部屋へと向かった。
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