蒼は迷わずに店内に入ると、品物を見るフリをしながら、件の店員を探す。
商品棚には、よく分からない怪しげな壺や皿などの骨董品や盆栽、PCなどの電子機器などが乱雑に置かれている。
値札も見当たらず、これは中古なのか新品なのかどころか、売り物かどうかすら分からない。
この店の目的は何なんだ? と少し気になったが、蒼の今回の目的は店員が人形か、人間かの確認だ。少し後ろ髪を引かれながらも、商品を見ているフリをしながら店員を探す。
とりあえずと、店の奥にあるレジまで行くも、人の気配はしない。
「不用心だな……」
無人のレジの前で蒼は思わず呟く。決して広いとは言えない店内なのに人の気配を感じないことに違和感を覚えながら、蒼は慎重にしかし素早く店の商品を見るフリをしながら、店内をまわる。
しかし、店員を発見できない。確かに車で向かっている最中、そして店に到着する前にそれぞれ防犯カメラで、件の店員が店に入った様子と出ていないことは確認していた。短時間で店に向かっていた蒼達と会わずに店外に出るのは不可能だ。
どうしたものかと考えながら、もう一度レジへと近付く。レジを確認すると、申し訳程度に呼び鈴が置かれている。
蒼は迷わずに呼び鈴を押す。
リンッ。
と澄んだ音が店内をこだました。
「お待ちくださーい」
レジの奥から声が聞こえてきた。そして、少しすると壁だと思っていた場所がガラッと横に開いた。
そして、前髪で瞳を隠した以前見た店員が現れる。蒼は内心で隠し扉かよと少しドキドキしながらも、表情には出さずに店員を見る。
「あれ、子供がどうしたのかな? なにか欲しいものでもありました?」
レジの向こう側から店員は不思議そうに首をかしげる。指を体の前で組んだり離したりと、映像で見た春宮と同じ手遊びをしているのを確認し、蒼は頷いた。
「色々置いてあるのを見て、面白いんだけど、売り物かどうか分からなくて!」
「全て売り物ですよ。値段はこちらで管理してるんです。どれが、気になりますか?」
優しく微笑みながら店員はレジから出て来る。そして、蒼の隣に立つと、蒼を見た。
「案内してください、お値段お伝えしますよ」
「ありがとう、お兄さん! こっち」
蒼はとりあえず、子供が欲しがっても違和感のなさそうな綺麗な盆栽の前まで店員を案内する。
「この、盆栽! おじいちゃんにプレゼントしたくて!」
頭の中で道徳を思い浮かべながら、蒼は店員に伝える。
「この、盆栽ですね。値段を確認します」
店員はそう言うと着ていたエプロンのポケットからタブレットを取り出して、蒼が示した盆栽を写している。それで値段がタブレットに表示される仕組みなんだと蒼は少し興味を引かれた。
そのタイミングで、なにかが蒼の足元を通過した。
「えっ?」
ただ立っていただけだが、何かに無防備な足を押されてバランスを崩す。チラリと猫がしてやったり顔で蒼を見ている気がした。
猫め! と思うも、蒼の体は重力に逆らえず、目の前でタブレットを触っていた店員へと倒れ込む。
(あっ、避けれないや)
蒼は覚悟を決める。
「お兄さん、巻き込む、ごめん!」
「えっ?」
蒼の謝罪に少し遅れて、蒼の体は店員の体を押し倒す。店員の体に触れた瞬間に、骨とは違う固さと皮膚のような柔らかさを感じる。
店員の上に乗る形になった蒼は、再度謝りながら顔を上げると、店員と目が合った。
ガラス玉のような瞳には瞳孔を見つけられない。そして、その顔には覚えがあった。
蒼はすぐに視線を逸らすと、立ち上がった。
「本当に、ごめん! 怪我してない? 大丈夫?」
「大丈夫です、お客様はお怪我は?」
「俺も大丈夫……慣れてるから」
店員から目をそらしながら蒼は伝える。
「そうですか。先程の盆栽は」
店員も立ち上がりながらタブレットが無事なことを確認すると、すぐに商談に入る。
「あっ、買う! 値段は?」
「こちらは、二千円となります」
「なら、大丈夫! 手持ちにあるよ」
蒼がそう伝えると店員は、タブレットをポケットに戻して蒼の選んだ盆栽を持つ。そして、レジへと向かった。
店員がレジで再度タブレットを確認して、値段を蒼に提示する。
蒼は、千円札2枚を財布からとろうとして、一度考えてから、5千円札へと変更する。
「五千円お預かりしました。……3千円のお釣りとなります」
「ありがと!」
おつりと盆栽の入った袋を受け取ると蒼は怪しまれないように店から出た。
そして、昴と琉架の待つ店から少し離れた路地へと向かう。
「お待たせー」
「お帰りなさい」
「問題なかった?」
蒼が戻ると、心配そうな表情で2人は迎え入れてくれた。蒼は盆栽の入った袋を持っている方の手を上げる。
「問題なし! とりあえず、車に戻ろうか。話は車内でするよ」
店の方向を警戒するように見ながら蒼は2人に提案した。
蒼の雰囲気から何かを感じ取ったのか、何も言わずに2人も頷く。それを確認して、蒼は商店街のメイン通りへと歩き出す。
一応、人形にあるかは分からないが、指紋は手に入れた。今日は眞琴にカメラについて聞く予定のため、駿河家へ帰るから、その際に眞琴のツテで指紋検証出来ないかなと考える。
とりあえずは、店から離れた方が良いと蒼の直感が告げていた。近くに待機していた人形に、店を見張るように伝えると蒼は一息つく。
気付かれたことに気付かれたのかが分からないことが気持ち悪い。
それでも、警戒するに越したことはないと、駐車場までの道中、今まで以上に周りの警戒を強めた。
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