商店街へと向かう車内は静かだった。運転席に琉架、後部座席に蒼と昴がそれぞれ座る。
蒼はしばらくエンジン音を聞きながら外を眺めていたが、気になることがあり視線を横に座る昴に移す。
「そういやさ、すーさん」
「……なんですか、蒼さん」
突然話を振られて、昴は驚いたように蒼を見た。蒼は笑いながら、疑問を問いかける。
「まだ、店員が春宮なのか、似た癖を持った他人なのか、人形なのかは分かっていない。とりあえず俺は、限りなく記憶を移植された人形の可能性が高いと思ってるんだけどな」
「……なんで、そう思うんですか?」
「だって、働く理由がなくないか? 俺が見かけたのが1ヶ月ぐらい前なんだけど、すでにノアズ計画は動いてるだろ? 逃亡資金を稼ぐにしても遅い。だったら、人に紛れ込ませる実験として人形――ってか、アンドロイド? だと思うんだよな」
「確かに、脱出を目指しているのにあと数ヶ月で去る島でバイトするのは今更だね。それに、中心メンバーなことを考えるとバイトをする余裕もないよね?」
運転席から、琉架も蒼の意見に同意する。
「確かに、春宮さんは株で資産運用をしていると聞いたことがあります。……本当なのかどうかは、定かではありませんが」
よほど、春宮の"サーカス"での自己申告が嘘だったことが堪えているのだろう。後半は小声になっていた。
「株での資産なら、ハッキングして確かめられるけど、する?」
「……いえ、大丈夫です」
昴はそう言うと、蒼から視線を逸らし、窓の外を眺めて無言になる。
整理する時間が必要かと蒼も特に深追いはしない。
運転席より、少し呆れた様子の琉架がバックミラーで蒼の様子を一瞥しながら苦言を呈した。
「蒼さん、あまりその年で分からなければハッキングしようは、良くないと思うよ?」
「えー、琉架さん真面目だな。バレなきゃ問題ないぜ?」
「まぁ、それは一理あるけどさ……」
どこか納得がいかない琉架が運転する車は、宮端商店街に一番近いパーキングへと入り、空いている場所へと駐車する。
車を停め終わると、琉架はシートベルトを外しながら後部座席を振り返った。
「お疲れ様、到着したけどこのまま向かう?」
「もちろん!」
蒼は、即答すると扉を開けて車から降りる。昴は少し躊躇いながら後に続いた。
琉架も車から降りると、周りを見回した。
「俺、あんまり宮端商店街には来たことないんだよね」
「そうなの? 俺にとっては庭みたいなもんだから、また今度案内するよ」
蒼は笑いながら先陣を切る。お店の場所を知っているのは蒼だけなので、昴と琉架は静かに蒼の後を付いてくる。
いつも通り、顔見知りから食料をもらいながら、蒼は商店街を迷わずに進む。そして、商店街の端まで来ると、一本中の人通りの少ない道に入る。数分歩くと目的の店へと辿り着いた。
前回と同様に看板は出ていないが、店先に商品がいくつか並び、扉が開いていることを確認する。
昴に店主達からもらった食料の入った袋を預ける。
そして、蒼は迷わずに店内に入ろうとしたが、琉架に腕を捕まれて止められる。
反動で帽子が脱げないか、思わず捕まれたのと反対の手で蒼は帽子を押さえた。
「……どうしたの、琉架さん?」
「いや、猪突猛進が過ぎないかな?」
「まぁ、なんかあれば武力行使でなんとかするからな。琉架さんとすーさんは仮に俺が取り逃がした際に捕まえて! ということで俺が一人で潜入するから2人は待機な!」
蒼は、笑顔でそう伝えると手を離すように琉架に目で訴えかける。しかし、琉架は首を横に振った。
「蒼さんが強いことも、臨機応変に動けることもある程度は分かってきたよ? でも、やっぱり子供が一番危険な場所に行くのは間違ってる」
「でも、逆に接触するなら、子供を利用した方が自然だと思うよ? いきなり成人男性が店員掴んだら事件だ。それに、俺のが絶対に適任!」
「……確かに蒼さんの不幸体質なら、偶然を装っての確認も可能かもしれませんね」
「待って、すーさん。それは心外!」
しばらく蒼か琉架のどちらが店内に入るかを少し離れた場所で揉める。昴は自分がこの件に関しては役に立たないどころか、変装しているとはいえ、珠来だった場合に何が起こるか分からないと自分でも理解しているようで、自分が店内に入るとは言わなかった。
最終的な話し合いの結果、蒼が粘り勝ちをする。
「なら、行ってくる」
「本当に、危なくなったら逃げる。変なことはしない、いいね?」
まだ納得してない様子の琉架が、渋々と蒼の手を離す。言い聞かせるように話す琉架に、人の親だなと思いながら蒼は頷く。
「その辺りは、問題ないって。偶然を装って、まずは感触と温度、その後に瞳も確認して人間かアンドロイドかの確認だからな! 前にゆきさんに邪魔されなきゃ瞳の確認できてたんだけどさ」
蒼は1ヶ月前に瞳を覗き込もうとした瞬間に清隆に引きずられた事実を思い出して悔やんだ。
それでもそこそこの修羅場を潜り抜けている蒼にとってはこの程度は造作はない。
自信満々に心配そうな2人にピースサインをしながら笑いかけると、蒼はブレスレットと帽子に触れてから店に向かって足を進めた。
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