街の中を歩いていると、背中に手が生えている人がいた。
もちろん両腕は普通にある。
背中の中心に、手首から先があった。
まるで、「おいでおいで」と手招きしているように見えた。
こういう怪異には、慣れっこだった。
そして俺は、そういう怪異を見つけると、つい首を突っ込んでしまう性分だ。
周囲の歩く人に、変なやつだと思われないように気をつけながら、「おいでおいで」の後をつけた。
しばらく後をつけていると、ほんの僅かだが、「おいでおいで」の仕草が弱くなっているような気がした。
目を凝らし、どこへ誘導しているかわかるように集中した。
「――うおっ!?」
「ちょっと!」
首襟を掴まれて後ろに引っ張られる。
ケホケホとむせて、後ろを振り返った。
見知らぬおばさんが焦ったように言う。
「アンタ! 死にたいの!?」
「――え?」
背中に手を生やした人物はいなかった。
目の前には、横断歩道があった。
――信号が、赤の。
危な。
おばさんにお礼を言って、俺はあの店に向かった。
この作品が気に入ったら

コメント
まだコメントはありません。
会員登録(無料)かログインをすると、コメントを書けます。