*
「てっっ!! 」
「うぐッ」
二人が、瞬きをした次の瞬間、地面へダイブしていた。
雄猫はまともにダイブし、フリオは辛うじて受け身を取ることに成功した。
最も、この世界には痛覚は存在しないが。
「……はっ! ここどこ!? 」
雄猫は慌てて、周りを見渡す。
アーチ状の模様の石畳、真ん中には豪華な装飾と巨大な噴水、辺りは家屋等の建物、出店のような物まで存在していた。
出店では、NPCが笑顔で店番をしており、通行人のNPCがそれを興味深そうに眺めている。
そして、次々と集まり始める他のプレイヤー達。
「何だ、何が起こってる? 」
「な、なあ、俺達今まで洞窟にいたよな、なんだここ」
「ここか……ここは……」
アルコーンストラテジーオフィシャルマップ。
通称公式マップと呼ばれ、マルチサーバーを初回で建てる際に必ず訪れなければならない場所で、他にはゲーム内で使える仮想通貨のトレードと、その仮想通貨を使った買い物が可能となる場所、と雄猫は記憶している。
雄猫がフリオに説明をしている間、同じように飛ばされたプレイヤー達は運営に対する批判とクレームが怒号のように飛び交っていた。
「おい!! なんでログアウトできないんだよ!! 」
「今からデスゲームでも始めんのかよ!? そんな時間ねーっての!! 」
「ねえこのあと予定あるんだけど!! まじで最悪ーー!! 」
「不具合まみれじゃねえかこのゲームよぉ!! 金返せー!! 」
そこにいるのかすら分からない、運営に対しての罵詈雑言の嵐が2人の耳に響く。
「あいつら……」
「彼等も俺等と同じプレイヤーだよ、見たところやっぱりログアウトは出来ないみたいだな……」
「ところでデスゲームってなんだ? 」
「んー、デスゲームっていうのは……」
と雄猫がデスゲームとは何かを語ろうとしたその時、突如轟音に近いアラーム音がそこら中で鳴りだした。
「なんだ!? 」
「うるさッ」
各々が耳を塞ぎ、苦しむ。
そして、誰かが空を指差し、叫んだ。
「おい! 見ろよあれ!! 」
そこにいたプレイヤー達は一斉に空へ視線を向けた。
空に一つの大型ビジョンが浮かんでいた。
いつの間に現れたのか、恐らく先程のアラーム音の後だろうが、画面の先が暗くどのような状況なのかが分かりづらい。
強いて挙げるとするなら、謎のローブ衣装を身に纏った何かが、天上の灯りに薄く照らされてるといった状況が辛うじて分かる。
雄猫は静かに呟く。
「……まじでデスゲームの始まりってか? 」
「な、なあ、デスゲームってなんだ、死の遊戯って意味だぞ、遊びで人が死ぬのか? 」
「……馬鹿げてるだろ? でもデスゲームってそうなんだぜ、まあ今から起こることを見ていけばフリオも実感湧くだろうさ……」
二人は顔を強張らせ、大型ビジョンに映る謎のローブを見つめる。
そして、大型ビジョンから、謎のローブが開口したと思われるであろう声量が聞こえてきた。
『諸君、はじめまして』
『私は……まあ今はゲームマスターと名乗っておこう』
ゲームマスターと名乗った瞬間、ざわざわと辺りが騒ぎ始める。
やはり、なのか。
雄猫と他のプレイヤー達は固唾を飲み、じわじわと来る絶望に押し潰されそうになりながらもこの後語られるゲームマスターのお言葉を一言一句聞き逃さないように耳を傾ける。
『単刀直入に言わせてもらう。君達のログアウトボタンを一時的に使えなくしたのは私だ。そして、強制テレポートを実行したのもこの私だ。これから行われるゲームに必要だったためだ』
「クソっ! やっぱ帰れないのかよ!! 」
「出してー!! いやあああああああああ!! 」
「なんで俺こんなゲームに入っちゃったんだろ……はは……」
ゲームマスター多くを語らずとも、プレイヤー達は阿鼻叫喚である。
それもそのはず、ログアウトが意図的に行われた行為で、この後行われるゲームといった発言をゲームマスターはしている。
この後語れるそのゲームの内容とやらが確実にデスゲーム、ゲームの世界で死んだら現実世界でも死ぬという事を連想させに来ている。
しかし、一人だけ何か奇妙な疑問を抱いてる者がいる。
「一時的に……? 永久にじゃないのか? 」
雄猫が髭を揺らしながら、そう呟く。
それに呼応するかのように、ゲームマスターが語り始める。
『私が現在行っている行為は拉致監禁罪、不正アクセス禁止法違反、電子計算機使用詐欺罪、私電磁的記録不正作出・供用罪……他にも様々だが、これだけの犯罪を犯して尚君達プレイヤーに頼みたい事があるのだ。それは……実験、とでも言っておこう』
ゲームマスターの口から語られたある単語に、またざわざわと辺りは騒ぎ始める。
実験。
それは、自分達を幽閉し、プレイヤー間で殺し合いをさせて、観察を行う心理学の実験だろうか?
それとも、ラスボスを倒すまで現実世界に帰れないというファーストペンギンの実験だろうか?
どちらにせよ、まともな内容ではない事は察していたので、皆膝から崩れ落ちてしまう。
「ああ……!! 嫌だ……!! まだこんな馬鹿げたゲームで死にたくない……!! 」
「帰して、帰してよぉ……私じゃ絶対生き残れないぃ……」
「クソクソクソクソクソクソクソ」
『ん? 』
「? 」
雄猫は、ゲームマスターが首を傾げている所を目撃してしまった。
それは隣りにいたフリオも見えていたようで、雄猫はフリオにこっそりと耳打ちした。
「なあ、なんであいつ、ん? とか言ってるんだ? サイコパスか? 普通みんな死にたくないだろうに」
「……俺も死にたくないぞ」
「俺もだよ、まだやりたいこと何一つ出来てないし」
「……俺も、弟を残して逝けない」
ゲームマスターは、このどんよりとした状況に、ククク……と笑い始める。
しかし、予想外な事に、どんどんヒートアップして盛大に大笑いをしだした。
『ハーハッハッハッハッ!! 』
ゲームマスターはしばらくの間、机をバンバンと叩いて、一人で勝手に大いに盛り上がる。
その様子をみていたプレイヤー達は悲しみや絶望よりも恐怖が勝ってしまう。
『ああ、すまない……ふふ、君達は何か勘違いしている』
「はい? 」
プレイヤー達は「は? 」といった顔をしながら、大型ビジョンへ再度視線を向ける。
『実験の内容を話そう、至ってシンプルだ。
__時間内に一度もゲームオーバーにならずにラスボスを倒せ、最後まで生き残れば賞金を与える。
__無論、ゲームオーバー後は強制ログアウト、以降はアルコーンストラテジー内に一定期間ログインが出来なくなる』
「……へ」
「しょ、しょうきん? 」
「え、え、え、え」
「え、死なないの? え、え? 」
ゲームマスターが語る実験内容、それは意外にも、好印象であった。
ゲームオーバー後は強制ログアウト。
プレイヤー各々の脳裏ではこれが何度も反復した。
そして、次第に怒りが込み上げてきた。
「……じゃあ最初からそう言えよ!! 」
「ふざけんな!! 」
「くっそ、ビビらせやがってよぉ!! 」
「あ、でも……」
と、一人のプレイヤーが心配そうに呟く。
近くにいたプレイヤー同士はそのプレイヤーに対して苛立を見せながら視線を向ける。
「強制ログアウトって……まさか、この世から永遠に……って意味じゃ…….?! 」
それを聞いたのか、聞いてないのかは不明であるが、ゲームマスターはまた語り始める。
『強制ログアウト時は君達は現実世界へと帰還する。勿論、今の状況を警察へたれこもうとしても無駄だ、私を捕らえる事は不可能である……今一度、詳しく説明をしよう』
大型ビジョンの横に、さらにもう一つ追加の大型ビジョンが展開された。
『君達にはこれから送る誓約書に任意でサインを行った後、ミッドナイトの強制ログアウトシステムが起動する前に、アルコーンストラテジーのラスボス【ガルドノアドラゴン】の討伐をしてもらう。無事に時間内に討伐が出来た者達は……』
と、ここで画面にデカデカと金額の桁が表記される。
その数、なんとゼロが七個。
『一千万。賞金一千万以上を約束しよう』
う……うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!
という歓声で地面が少し揺れた。
雄猫とフリオは共にぽかんと口を開いて、呆気にとられている。
『これから話す条件を呑める者のみが参加可能である。では、条件を発表する』
もう一つの大型ビジョンがまた更に画面内の映像を変える。
今度は、箇条書きで記された条件一覧を映し出す。
ゲームマスターははっきりと響き渡る声量で、声高らかに言う。
『一.参加する際に、通帳等の個人情報を記入する事。これに同意出来ない場合は賞金が送れない故、参加する者達は誤りの無いように記入する事。通帳を持たない者、未成年者が賞金を手にした場合は、ミッドナイトにネットワーク登録をする際に必ず必要とされている保護者の銀行口座へと送られる』
『二.ゲームオーバー時に日本円にして千円を徴収させて貰う。これは賞金とは別に用意される報酬金の為に必要な物であり、拒否する事は出来ない。記入した通帳または銀行口座、そして保護者の銀行口座から徴収される』
『三.全てのプレイヤーがゲームオーバーした場合は実験は即座に中止するものとする。この実験は諸君らプレイヤー達が重要であり、それらが全て消えてしまうのなら続ける意味がないのである』
『四.今回の実験後以降、アルコーンストラテジー及びミッドナイトを利用する者達には、今後行われるであろう私の次の実験に、強制的に参加するものとする。これは、如何なる理由があろうとも、拒否出来ないものとする』
『以上の条件を呑める者のみ、この実験の参加権利を得たものとする。__さあ諸君らよ』
グッと拳を前に突きだしたゲームマスターに、一斉に歓喜と熱狂の渦が巻き起こる。
雄猫も釣られて、歓喜の絶叫をあげる。
『私の試練に打ち勝て。これは己の魂との戦いだ。そうだな……__敢えて名付けるなら、これはアルコーンストラテジーテイル。諸君らの物語である! 』
2027年 3月28日 午後十二時。
ゲームマスターと名乗る謎のローブの、最初の実験にして大事件であるアルコーンストラテジー監禁事件の始まりである。
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