人間の街を離れ、魔王城へ続く森の道を歩くカヅチ。しばらく歩いていると、背後にあった街の明かりがどんどん遠ざかっていく。
そして……魔の森が近づくにつれ、辺りは次第に薄暗くなっていった。
カヅチは足を止める。右を見る。左を見る。
そして、もう一度右を見る。
「ん〜、やっば……迷った」
腕を組み、首を傾げる。
「行きに魔王様に作ってもらった転移魔法陣って、どこだっけ……?」
辺りをキョロキョロと見回す。
「行きは普通に街に向かって歩いてきたからなぁ……。帰りも転移で楽々帰れると思ってたんだけど……転移なかったら何日かかるんだよ…」
その時、背後から聞き慣れた声がした。
「おぉ、お主も今帰りか?」
「えっ?魔王様!?」
カヅチは振り返る。そこに立っていたのは、セポネだった。
「なんでこんなところに!?」
「いやなぁ、ちょうどポン吉が勇者に殺されてしまったと連絡が入ったから、生き返らせに来たんじゃ」
「あぁ……」カヅチは頷く。
セポネの表情は少し不機嫌だった。
「我々魔族が人間に殺されてしまうのはしょうがない……ただな……現場を見てみたら、あまりにも酷い殺され方でな……ムカついたんで、ちょっと懲らしめてきたところじゃ」
セポネは眉間に皺を寄せる。
普段は豪快に笑い飛ばすセポネだが、今の表情には隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
仲間が殺されたことだけではない。その死を、面白半分に扱われたことが許せなかったのだ。
カヅチは嫌な予感がした。
「懲らしめた……?」
「うむ!」セポネは満面の笑み。
そして、肩に担いでいた大きな袋をカヅチへ投げ渡した。
「ほれ」
「うわっ!なんですか、これ……?」
慌てて受け取り、袋を開ける。
中に入っていたのは、剣や鎧。そして、そこには見覚えのある紋章が刻まれていた。
「……あの〜」
「なんじゃ?気に入らんのか?」
「いや、これって……まさか……」
セポネはニヤリと笑う。
「お主が先ほど戦った者たちの装備じゃ!お主の後だったから、楽に懲らしめられたわ!」
「あはは……バレてたんですね…」
カヅチは頬をポリポリ掻きながら苦笑する。
どうやら、街での一件はすっかり知られていたらしい。怒られるかと思っていたカヅチは、渡された装備とセポネの顔を交互に見た。そこにあったのは叱責ではなく、思いがけない感謝だった。
「……ありがとうございます。こんなに貰っちゃって…」
「ん?」セポネが少し驚いた顔をする。
「礼を言うのはこっちじゃ!カヅチよ!魔族のために怒ってくれて……ありがとうな」
いつもの豪快な笑顔とは違う。
ほんの少し照れたように、セポネは顔を逸らした。
「その装備は、全部お主にやる!好きにせい!」
カヅチは袋の中を見る。
「……じゃあ…早速、使わせてもらいます!」
ニヤリ。カヅチはその場に剣や鎧を並べていく。
「この素材なら……何かいけるかも」
箒を地面に立て、手をかざす。
すると……パァァァ……!
装備が細かな光へと分解されていく。
光はさらに細かく。肉眼では捉えきれないほどの粒子となり、カヅチの箒へ吸い込まれていく。
最後の一片が消えた瞬間。箒の表面を淡い光が走り、柄の奥で何かが目覚めたような感覚があった。
カヅチは箒を持ち上げ、角度を変えながら確かめる。見た目はほとんど変わっていない。
だが、カヅチの目の前に急に浮かんだ表示は、明らかに今までと違っていた。
【箒】【レベル・3】【追加効果・レベル機能】
「…………ん?何だこれ?レベル?箒の?」
カヅチは首を傾げ、箒を見る。
「そうじゃろっ!あはは!じっくり育ててやれ!」
セポネが腕を組み笑う。
「育てる……?箒を?」
「うむ!筋肉も箒も一緒じゃ!」
セポネは自信満々に頷く。
「………いや……その理屈、たぶん違うと思います」
「何を言う!鍛えれば強くなる!」
セポネは自分の腕をムキッと曲げ、筋肉を見せつける。
セポネは自分の筋肉と箒を交互に指差し、まるで世紀の大発見でもしたかのように胸を張っている。
その自信がどこから来るのか、カヅチにはさっぱり分からなかった。
「箒も鍛えれば強くなる!つまり一緒じゃ!」
「あはは、まあ……そういうことにしておきます」
「あははは!」
カヅチの顔を見てセポネは豪快に笑った。
「よし!納得したな!城に帰るぞ!」
「あ、はい。分かりました」
セポネが手をかざすと、地面に魔法陣が浮かび上がった。
「うわっ、これこれ。助かる〜」
「そうじゃろ!妾に感謝しろっ!」
二人の身体が光に包まれる。
そして……。シュンッ!その場から姿を消した。
◇◇◇
魔王城➖➖ル・セポネの部屋。
「……んかっ!」
転移した瞬間、カヅチはふらついた。
「相変わらずこの匂いクラクラするなぁ……」
「なんじゃ!お主っ!妾の部屋が臭いみたいな言い方をしおって!」
「いや、そんなこと言ってませんよ!」
「いや、言った!後でちゃんと掃除せい!」
「いや〜……この箒、まだ消臭効果ないんですよ……」
カヅチは部屋を見回す。
「それに、この匂い取ると勿体ないというか……」
「ん?なんで、妾の匂いを残したがるんじゃ!」
そんなやり取りをしている間に、セポネは着替えを始める。
セーラー服から、スポブラとスパッツへ。
カヅチは着替えをじっと見ていた。
(……なんでいつも目の前で着替えるんだろ……?)
そして、ふと考える。
(ていうか、お出かけ用の服がセーラー服なの?てことはスポブラとスパッツは部屋着?玉座に座ってる時は、めっちゃカッコいいマントとか服着てるのに……わっかんねぇな、この魔王……)
そんなことを考えていると……
「カヅチ」
「はい?」
「妾の頼んだ物はあるか?」
「あっ、はい!」
カヅチは買い物袋を開ける。
「え〜っと、シュークリームと……ケーキと……羊羹と、餡子団子です」次々と甘味を取り出していく。
「おおっ!そうそう、これなのじゃ!」
セポネの顔が一気に明るくなり、嬉しそうに甘味を受け取る。
「うちのコックは、甘い物が上手に作れんからなぁ……」
嬉しそうなセポネの顔にカヅチは思わず微笑んだ。
(ふふ……味覚はちゃんと女の子なんだなぁ……)
「……何じゃ?」
「え?」
ル・セポネがジト目で睨む。
「妾を見て何をニヤニヤしておるっ!」
「いや、別に……」
「気持ち悪いぞ!」
「えっ!?酷い!」
ル・セポネは甘味を口に頬張り抱えたまま扉を指を差す。
「ほれ!早く汐那に櫛を渡しに行ってこい!」
「あ、そうですね。はい。分かりました」
カヅチは箒を肩に担ぐ。
そして部屋の扉へ向かって歩き出す。
「……カヅチ!」
「はい?」
「これを持ってけ!」
「え?」
振り返った瞬間、ポーン!とシュークリームが目の前に飛んできた。
「うおっ!」カヅチは反射的に口を開ける。
パクッ!見事に口でキャッチ。
「ごひほうはまでふ!!」
「うむ!今日はご苦労!!」
ル・セポネは満足そうに頷いた。
カヅチはシュークリームを頬張りながら、部屋を出ていく。(………俺は犬か!)
魔王城の廊下に、カヅチの心のツッコミが虚しく響いた。
この作品が気に入ったら

コメント 2件
Jetts3日前
魔王様可愛すぎる♥
ふふふ。ありがとうございます ╰(*´︶`*)╯♡
雨音かえる4日前
セポネが可愛すぎてやれん…… ( -᷄ω-᷅ )♡
読んでくれてありがとうございます。これからもっと可愛い (●´ω`●)ww