硝煙が消えていく。
崩れた高架橋の上。
レートは倒れた敵へ近付く。
仮面。
黒いロングコート。
胸元にも所属を示す紋章はない。
「…………」
その身体へ手を伸ばす。
「レート」
クランツが声を掛ける。
レートは動きを止めた。
「もういない」
敵の足元を見つめている。
レートが視線を戻す。
そこには、誰もいない。
「……手品か?」
「それなら気が楽なんだがな」
倒れていたはずの敵の姿が消えている。
あるのは、黒い布の切れ端。
「周辺……敵反応なし」
ノアは周囲を見渡す。
瞳はまだ戦闘時のまま。
「「了解」」
レートは立ち上がった。
「追うか?」
クランツは首を横へ振る。
「いや。奴らに追わせる」
「確かにそっちの方が楽だな」
クロスは黒い布を拾い上げ、生地を指先で撫でる。
「……見覚えがありませんね」
「知ってる連中じゃないのか」
レートが問いかける。
「少なくとも、私が取引してきたどの組織とも一致しませんね」
「正体不明か。厄介だな」
クランツが視線を向けた。
「それだけ、この接触を知られたくないのでしょう」
クロスは布を丁寧に畳んだ。
「終わった?」
ノアがようやく肩の力を抜く。
「戻ったな」
クランツが笑う。
「集中すると、ああなるんだよ」
ノアは少しだけ照れくさそうに笑った。
「助かった」
レートがノアを労う。
「当然」
ノアは軽く親指を立てる。
「あなた方は」
そのやり取りを見ていたクロスが口を開く。
「いつも、このような戦い方なのですか」
「いや——」
レートは苦笑した。
「今日は、まだ静かな方だ」
「確かにねー」
ノアが吹き出す。
「まだ終わってないがな」
クランツの視線はまだ鋭さを消していない。
崩れた高架橋から数百メートル離れた廃ビル。
HOSTは静かに通信端末を耳へ当てていた。
『確認完了しました』
通信の向こうから声が返る。
『報告を』
HOSTは迷いなく答える。
『レート・グロウス。ノア・ルクス。クランツ・タークス』
軽く笑みを浮かべる。
『想定以上です』
通信相手は何も言わない。
HOSTは続ける。
『クロス・マージンの護衛としては、過剰戦力です』
『くくっ』
笑い声が聞こえた。
『次の盤面へ進め』
——ピッ——
HOSTは端末を下ろす。
「邪魔だな」
誰にも気付かれないまま。
ゆっくり仮面を外す。
「ここからが」
その視線の先。
17区——ORPHAN
「本当の取引さ」
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