「改めまして、本日の依頼内容をご説明します」
クロスは穏やかに伝える。
「目的地は第12区——SERAPH。この積荷を、無事に届けていただきたい」
「了解した。依頼完了まで護衛する」
レートは頷く。
「ありがとうございます」
クロスが微笑む。
その横で、ノアは荷台をじっと見つめていた。
「……ねー。中って何が入ってるの?」
クロスは困ったように笑う。
「申し訳ありません。商会の機密事項です」
「ケチー」
ノアが頬を膨らませる。
クランツは、そのやり取りを聞き流していた。
視線は輸送車全体を観察している。
荷台。
運転席。
タイヤの泥。
警備配置。
「……妙だな」
「どうした?」
レートが言葉を返す。
「警備が少なすぎる」
レートとノアの視線が鋭くなる。
「確かに……」
「言われてみれば」
ノアが怪訝な顔をする。
「……その通りです」
クロスは否定しなかった。
「本来であれば、自社の護衛部隊が同行します」
「何か理由が?」
レートがクロスに問いかける。
「ええ。現在、各地区で護衛依頼が急増しておりまして。人員が足りないのですよ」
「そんなに忙しいの?」
ノアが目を丸くする。
「有り難いことに」
クロスが頷く。
「最近は物流そのものが狙われることも増えました。今回も、信頼できる方々を探した結果、ORPHANへ依頼を出した次第です」
「……合理的な判断だ」
クランツが肯定する。
「商会は荷物を運ぶ組織ですが、一番大切なのは人。積荷は代えが利きますが、人は代えられません」
レートはクロスを見る。
その目は、嘘を言っている目ではなかった。
「出発します」
運転手がエンジンを始動させる。
——ブオォン——
重いゲートがゆっくりと開いていく。
その向こうには、ORPHANの外へ続く広い街道。
崩れた高架道路。
朽ちた倉庫。
錆びた標識。
市場の喧騒が、少しずつ遠ざかる。
ノアは荷台へ軽く飛び乗ると、大きく伸びをした。
「遠出は久しぶりだねー」
「仕事だけどな」
レートが短く返す。
クランツは最後に一度だけ振り返った。
人々が笑う。
活気のある店。
子供達が走り回る姿。
その景色を目に焼き付ける。
やがて前を向き、輸送車と共に歩き始めた。
ORPHANを離れた一行を見送る者は誰もいない。
ただ一人を除いて。
遠く離れた崩れたビルの屋上。
黒いフードを深く被った人物。
小型の双眼鏡を静かに下ろす。
「……動いたか」
その声は空に溶ける。
『予定通り。任務を開始する』
耳元の通信機へ呟く。
返答はない。
ただの護衛任務。
その行く先は、すでに監視されていた。
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