輸送車は街道を走っていた。
窓の外を流れていく景色は、ORPHANとはどこか違う。
崩れた料金所。
蔦に覆われた道路。
朽ちた建物。
かつて市場を支えていた巨大な中継施設は、今も存在していた。
荷台のノアは、頬杖をつきながら周囲を眺める。
「外って、やっぱり静かだねー」
「ORPHANが賑やか過ぎるだけだ」
クランツが言葉を返す。
「私は、あの街が好きですよ」
クロスは穏やかに微笑む。
「そうなのか?」
レートが視線を向ける。
「ええ」
クロスは窓の外を眺めながら呟く。
「笑っている人が多い。市場というものは、価値だけでは動きません。人がいて、初めて市場になります」
ノアは首を傾げる。
「商人って、みんなそんなこと考えてるの?」
「さあ?私がそう思っているだけです」
クロスは少しだけ笑う。
「……物流が止まれば、市場は止まる」
クランツが口を開いた。
「はい」
クロスは頷く。
「価値は、届いて初めて価値になります」
——キィッ——
言葉を遮るように、輸送車がゆっくりと減速する。
「停止します」
運転手の声が車内へ響いた。
「前方に放棄車両を確認」
——バタンッ——
三人は即座に反応する。
街道の中央。
一台の小型車両。
事故の痕跡はない。
窓ガラスも割れていない。
ノアが覗き込む。
「誰もいないよ?」
クロスは車内から周囲を見回す。
「積荷より先に安全確認を」
レートは頷いた。
「無理はしないでください」
クランツは車両を確認する。
「異常はないな」
レートたちは車両へ手を掛ける。
「押すぞ」
「うん」
ノアが反対側へ回る。
「…………」
クランツは足元へ視線を落とす。
土に刻まれたタイヤ痕。
「……妙だ」
「どうした?」
レートが声をかける。
「新しい。数時間前だ」
クランツは視線を上げない。
レートの目が鋭くなる。
「クランツ。ノア。周囲を警戒」
「「了解」」
二人の声が重なる。
人の気配はどこにもない。
放棄車両を道路脇へ寄せる。
——バタン——
一行は再び輸送車へ乗り込んだ。
——ブオォン——
何事もなかったように、再び街道を進み始める。
その姿が見えなくなる頃。
放棄車両から遠くない距離。
一人の影が姿を現した。
黒いフード。
表情は見えない。
耳元の通信機へ囁く。
『対象、予定ルートを進行中』
周囲を見回した後、言葉を続ける。
『予定通りです』
——ピッ——
人物は街道とは反対方向へ歩き出す。
さらに遠く。
崩れたビルの屋上。
もう一人。
別の監視者が双眼鏡を下ろす。
輸送隊は気付かない。
幾つもの視線が集まり始めていたことを。
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