「満足は、してもらえたか?」
自信ありげに、タケトはニヤリと笑う。
「……一つ聞くが、能力は習得しているか?」
「もちろんだ。 内容までは教えられないがな」
「それでいい。 仲間であっても簡単に教えてはならないことだ」
「あぁ、分かってる」
カシムが求めていた『助っ人としての基準』は、ほぼ満たしていると言っていい。
唯一足りないものがあるとすれば、経験だろう。
だが、それを補って余りある知性があった。
「タケト……」
「おう」
「……もう分かってるかもしれないが、頼みがある」
タケトはうっすら笑う。
「悪いんだけどよ――」
ピクリと、カシムは身体を震わせた。
さすがにダメか――
――いくら何でも、危険すぎると判断されたか。
タケトにとっては、こちらの申し出を受ける義理などないからな――
そう思うカシムに、タケトは言った。
「……いや、まずは事情をある程度話してくれんと」
「……あぁ、そうか」
察しが良すぎるタケトに、話すべきことを伝えていなかった。
そんなことに気付かないカシムであった。
「俺たちはサイカ村という村の『守り人』だった」
「……滅びたのは、ちょうど『世界融合』が起こったあたりだ」
カシムとニールが、それぞれ語り始める。
そして、マライアも続く。
「サイカ村を滅ぼしたのはたった一人――イヒカという男よ」
その男は『世界融合』でここに来た、と言った。
右も左も分からない。
数日で良いから面倒を見てくれないか、と。
中年くらいの、少しみすぼらしい格好。
左目にかかる、刀傷のようなものが目立つ男だった。
イヒカ、そう男は名乗った。
イヒカの人当たりは、すごく良かった。
村人の仕事を積極的に手伝っていた。
子供たちの遊び相手になることもあった。
笑顔も優しく、最初は警戒心があった村人たちもあっという間に打ち解けた。
かといってイヒカは態度を変えることなく、献身的に村の手伝いをした。
異変があったのは、そのころからだった。
『近くの森で、変な生き物に襲われた』
連日でそんな話を聞く。
まずカシムが出向いたが、見つけられず。
次の日に、ニールが向かったが、現れなかった。
さらに次の日、マライアとニールが向かった。
『グロウウルフ』という、オオカミ系の獣がいた。
グロウウルフは、基本的に人間を襲わない。
そのため、一般的には『魔獣』ではなく、通常の野生動物として扱われている。
しかし、二人の見た『グロウウルフ』は、通常のものとは少し違ったのだ。
――眼球はただれ落ち、腹部の一部は肉が削げ落ち、骨が見えている
『ゾンビ』――その言葉が、二人の脳裏に思いついた。
退治しようと思ったが、瞬く間にそのゾンビ化したグロウウルフは逃げていってしまった。
その話を聞いたカシムは、村長に相談した。
――普通では考えられない『何か』が起こっている。
そう判断したのだ。
マライアとニールが見たものだけが問題とは言えなかった。
『グロウウルフ』は、群れを成す動物である。
ただのグロウウルフならばたいした問題ではなかった。
しかし、二人が見た明らかに異常性を感じられる状態のものが、群れでいるとしたら――。
『守り人』とは、村を力で守る存在である。
夜盗。
魔獣。
その他、力が必要な場面において、命を懸けて戦うのが『守り人』である。
被害があってからでは、遅い。
未然に防ぐのも、仕事の一つであった。
カシムと、ニールと、マライアと。
次の日、三人は森へ向かった。
想定通り――いや、想像以上にグロウウルフのゾンビは群れを成していた。
その数、実に100体以上。
通常のグロウウルフでも、せいぜい10体前後の群れである。
襲ってくるゾンビを薙ぎ払いながら、時には逃げるゾンビを追い詰めながら討伐に励んだ。
朝方に出向いた討伐は、結局夕方までかかった。
満足げな表情で戻った三人は、そこでようやく気付く。
これが、謀略だったということに。
村に戻った三人は、固まる。
村人全てが、倒れ伏している。
そして、その中で高笑いする人物。
――イヒカだった。
「お前ら三人がこの村を離れるのを待っていたんだよぉ!」
嬉しそうに、イヒカは笑う。
優しい笑みを浮かべていたイヒカは、もうそこにはいなかった。
醜悪な、不気味ともいえるような笑みを浮かべていた。
「お前らの名を呼んでいたよ。 『かしむー、まらいあー、にーるー』ってな」
ギャハハ。
本当に同一人物かと疑うほどだった。
目の前の惨劇に、言葉も出ず、体も動かなかった。
そして、そのことは奴も想定済みだったのだ。
「……俺が憎いか? なら、殺してみろよ」
ニヤリ、とイヒカは笑う。
「……ふざける――」
カシムが動いた。
二本の剣を持ち、すぐ技を放とうとした。
だが、カシムは躊躇った。
躊躇ってしまった。
「――この屍を、乗り越えられるならな」
――【ネクロマンス】
イヒカの能力――【ネクロマンス】。
死者を、操る能力。
そこにいたのは、昨日まで笑い合っていた村人たちだった。
サイカ村の、かつての同郷の人たちが。
敵意をあらわにこちらに向かってきていたのだ。
うつろな目で、よたよたと。
カシムは剣を持ったまま立ち尽くした。
そしてマライアも、ニールも同じだった。
そうして、イヒカは堂々と逃げおおせたのだった。
「――私たちの復讐の相手は、イヒカ。 【ネクロマンス】という、死者を操る力をもって――」
事のあらましをひと通り語ったとマライアは思い、タケトを見た。
そして、少し驚く。
「……ぐすっ――辛かったな」
タケトはちょっと、泣いていた。
「……泣かせるつもりはないんだけれ――」
「手伝うよ。 ――いや、手伝わせてくれ」
タケトは三人の肩を円陣を組むかのように抱き寄せる。
「……俺はさ、多分この世界に来ただろう、妹を探すために旅に出てるんだ」
「……いいのか? だとしたら――」
カシムが疑問を投げかける。
『こちらを優先しても良いのか?』――申し出はありがたいが、タケトの事も気がかりになってしまっていた。
だがタケトは、ニッと笑った。
「シズクを探すのは最優先だ。そこは変わらねぇ」
「……だったら」
「でもよ、目の前で困ってる奴を見捨てて、あとで妹にどんな顔すりゃいいんだ?」
少し涙を流しながらも、タケトは三人を元気づけるように笑う。
「……ありがとな」
タケトの優しさに、三人も少し笑うのであった。
「ねぇ、ニール」
「……なんだ?」
「なんでタケトは『引き受ける』って思ったの?」
マライアの問いに、ニールは少し思い返しながら答えた。
「……引き受ける気がなきゃ、カシムと手合わせなんかしないだろ」
「……なるほど、ね」
次からはちゃんと説明してほしいわね。
そう、マライアは思った。
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